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COE複合自由度機能物質研究拠点紹介

 先端物質科学研究科の高畠教授を中心に実施されている「COE複合自由度機能物質研究拠点」を取り上げます。
 先行していた他大学のCOEとは鮮明に異なるユニークな研究テーマを挙げ、これまでの着実な実績に基づいて、しかも既存分野の壁を超えたアプローチを計画した点が高く評価された結果採択されたものです。申請の背景には、広島大学に物性研究拠点を形成しようという長年の準備活動がありました。この計画は、平成12年5月に出された日本学術会議物理学研究連絡委員会物性専門委員会報告「物性研究拠点整備計画の具体化に向けて」にも明記され、全国の物性研究者から強く支持されたものです。HiSORという貴重なツールを有する放射光科学研究センターや、研究支援に必要不可欠である低温センターと機器分析センター(両者は15年度に自然科学研究支援開発センターに統合)の整備が進んでいたことも評価されました。
 本COE形成プログラム「複合自由度をもつ電子系の創製と新機能開拓」は、広島大学にとって最初に採択されたCOEプログラムであり、大学として、先端物質科学総合研究棟の共用研究スペースの優先的な使用、15年度には、学内措置のプロジェクト研究センターとして「複合自由度機能物質研究センター」を設置するなどの支援を行っています。本COEプログラムが終了する時点で、本プロジェクト研究センターと「物質科学研究支援分野物質機能研究開発部」を統合した「機能物質科学研究センター(仮称)」を設立し、超機能物質の研究開発を推進する世界的な拠点へと発展させることも構想されています。これが実現すれば、「放射光科学研究所」と併せて、名実ともに「21世紀の先端物質科学」の研究拠点が広島大学に築かれるものと期待しています。
 この研究をCOEリーダーである高畠敏郎教授に以下に紹介していただきます。

広島大学理事・副学長(社会連携・研究担当)


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平成13−17年度COE形成プログラム

複合自由度をもつ電子系の創製と新機能開拓

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リーダー 高畠 敏郎 (先端物質科学研究科)

ホームページ:http://home.hiroshima-u.ac.jp/iscoe/

1.研究の背景

 本研究の目的は、すきまと電子系の複合自由度を活かした物質を創製し、温度、電場、磁場、圧力、光、水素などに対する応答を評価し、敏感な応答をエネルギー変換などの新しい機能として開拓することです。創製しようとする物質群とその機能は、主に次の三つです。(1) 炭素やリチウムなどの軽元素を主要素とする物質をナノ構造化して水素を高濃度に貯蔵させる。(2) ホウ素、窒素、酸素、ケイ素などが骨格をなす物質に電子をドープして高温超伝導や強磁性を発現させる。(3) 価数の不安定な希土類を含む化合物において、優れた熱電冷却特性を発現させる。これらの物質群の構造的特徴は、層状、カゴ状、ハチの巣状の母体をもつことにあり、そのすきまに原子や分子を挿入することによって新機能を開拓できます。さらに、新物質を微細加工することで量子トンネル現象などの新現象の発現が期待できます。
 新機能を開拓しその発現機構を解明するために、固体物性・分光学的測定と理論解析・量子シミュレーションを行います。低温・高圧・磁場下でのバルク物性測定に加えて、ラマン分光、トンネル分光、核磁気共鳴等によるミクロな情報、及び放射光を用いたエネルギー高分解能光電子分光による電子状態に関する情報を突き合わせ、理論計算と比較して、その結果を機能物質の創製にフィードバックします。このようにして、従来の物性物理学、固体化学、材料工学を学際的に融合した「すきまの科学」という新領域を切り開きます。
 すきまの科学プロジェクトとその研究組織は世界的にもユニークです。テーマを上記の(1)として、対象物質をカーボンナノチューブに絞った研究チームはNEC基礎研究所にあります。上記の(2)と(3)のテーマに関して私たちと競争して研究グループが、ドイツ ドレスデンの固体化学物理マックス・プランク研究所にあります。そこの若手研究者を広島大学での国際シンポジウムに招いて情報を交換しただけでなく、共同研究も実施しています。

2. 研究進捗状況と主要な成果
2.1 研究組織

 本COE「複合自由度機能物質研究拠点」の研究分担者は、六つの部局・センターに所属しており、専門分野は物性物理を中心にして固体化学から放射光科学にまたがっています。研究組織は以下の六つの班から構成されています。

新化合物創製班:  

山中 昭司(工学研究科)

 

高畠 敏郎(先端物質科学研究科)

ナノ構造機能創製班:

藤井 博信(自然科学研究支援開発センター)

 

八木 隆多(先端物質科学研究科)

固体物性測定班:

世良 正文(先端物質科学研究科)

 

鈴木 孝至(先端物質科学研究科)

固体分光測定班:

宇田川 眞行(総合科学部)

 

浴野 稔一(総合科学部)

放射光測定班:

谷口 雅樹(理学研究科)

 

生天目 博文(放射光科学研究センター)

理論解析・物質設計班:

小口 多美夫(先端物質科学研究科)

 

城 健男(先端物質科学研究科)

 

永井 克彦(総合科学部)


2.2 研究の現状

 COE発足後の2年半で、高いレベルでの研究が飛躍的に進みました。原著論文は240編を超え、国際会議での招待講演は36回に及びます。これは、各分担者が世界最高の研究を指向しつつ、各班の連携が強固になった為です。若手研究者の養成にも力を入れたので、13名の博士が誕生しました。具体的な共同研究としては、電子ドープ超伝導体β-HfNCl1-x、超格子をもつ近藤半導体CeRhAs、 (Y1-xCax)TiO3の軌道秩序と金属-絶縁体転移、CuRh2S4の超伝導-絶縁体転移などに関して進展しました。その成果については後で述べます。研究の推進には、これまでに8回開催したiS-COE研究会や国際シンポジウムにおける情報交換や討論が有益でした。本COEメンバーを中心にした国際共同研究も進展しており、本研究拠点は世界の研究者からCOEとして認知されようとしています。このように、従来の物性物理学、固体化学、材料工学を学際的に融合した「すきまの科学」という新領域を切り開くという目的はほぼ達成されつつあります。



2.3.これまでの研究成果

 本COE発足後、以下のような世界トップクラスの研究成果を挙げました。

1) ナノ構造水素貯蔵機能物質

多層膜Pd/Mg をナノ柱状構造にすることによって、水素を100℃以下で5wt%以上放出させただけでなく、水素吸蔵に伴った光透過性を発現させました。リチウム窒化物に特殊な触媒を添加してミリングすることによって、150℃で6wt%の水素を吸蔵させ、150-200℃で放出させることに成功しました。これは、200℃以下における世界最高の水素放出量です。(藤井) 図1参照。 

2)エキゾチック超伝導体

層状窒化物絶縁体 β-HfNClに電子をドープするために、Clのデインターカレーション法を開発し、空気中で安定なTc=24Kの超伝導体へと転換させました(山中)。超伝導臨界磁場の強い異方性とパウリリミットからの逸脱、及び異常に小さい同位元素効果が確認され(藤、世良)、ギャップ比2Δ/kBTcが5にも達する強結合超伝導体であることが明らかにされました(浴野)。β-HfNCl のバンド構造が角度分解光電子分光実験によって観測され(井野、生天目、谷口)、第一原理計算(小口)の結果と比較することによって価電子構造が明らかになりました。図2参照。
圧力誘起による超伝導から絶縁体状態への劇的な転移をスピネル硫化物CuRh2S4において発見しました。転移の起こる臨界圧力の5.3GPaにおいて、少なくとも室温では結晶構造相転移は起こっていないことを確認しました。(伊藤、鈴木、中村、藤田、藤井、荻田、宇田川)

3)希土類をベースとした熱電変換機能物質

巨大な熱電能を示す近藤半導体CeRhAsにおいて、逐次構造相転移を伴うギャップ形成を見出しました(高畠)。核四重極共鳴(松村、藤、世良)、トンネル分光(浴野)、ラマン分光(荻田、宇田川)、放射光による光電子分光(島田、谷口、生天目)によって、温度低下に伴うギャップの発達を直接観測しました。バンド計算では、Rh4d電子とAs4p電子との半結合状態と4f電子は強く混成しており、光電子分光の結果と一致します(石井、小口)。Ce近藤半導体関連物質の熱電変換特性が低温で優れていることを見出し、価数揺動が格子熱伝導度を抑制していることを初めて指摘しました。(高畠) 図3参照。



2.4 国際シンポジウムの開催

平成14年8月16-19日、広島大学学士会館において以下のシンポジウムを開催しました。
  2nd Hiroshima Workshop -Transport and Thermal Properties of Advanced Materials-
   (第2回 広島国際討論会 - 先端機能物質の輸送現象と熱現象-)

開催代表者:高畠敏郎
 出席者:11カ国から76名
 会議報告:Physica B, Vol. 328, No. 1-2 (2003).




3. 今後の研究計画及び目標

 目標は、機能物質の創製と物性研究の分野における世界最高レベルの研究拠点を確立し、この拠点を永続させる人材を育成することです。先ず、各班の研究計画を述べた後で、人材育成法とCOE確立への道筋を述べます。


3.1 研究計画

「すきまの科学」において展開してきた広島オリジナルの研究をさらに発展させるとともに、導入した実験装置をフルに活用し、世界に誇れる研究成果を挙げます。本COEを母体として発足した広島大学プロジェクト研究センター「複合自由度機能物質研究センター」の実体を早期に形成して、外部資金の導入を図るとともに、社会との連携や国際共同研究をさらに展開します。本COEの主要テーマである、超伝導、熱電変換、水素貯蔵の機能開発研究を、平成15年度に発足した「自然科学研究支援開発センター 物質科学研究支援分野 物質機能研究開発部」のプロジェクト研究としても推進します。本COEプログラムが終了する時点までに、「複合自由度機能物質研究センター」と「物質科学研究支援分野物質機能研究開発部」を統合した「機能物質科学研究センター(仮称)」を設立し、超機能物質の研究開発を推進する世界的な拠点へと発展させます。

新化合物創製班:層状窒化物で達成した超伝導転移温度25.5Kの壁を破る新物質を目指して、窒化フッ化物系層状化合物を合成するとともに、C60ポリマー単結晶への電子ドープ法を開発します。熱電変換性能向上のネックとなっている熱伝導度の低減を図るために、充填スクッテルダイトやSnクラスレートなどのカゴ状物質を合成し、優れた熱電変換機能を発現させます。

ナノ構造機能創製班:水素吸蔵・放出特性の優れたリチウム系材料に焦点を絞って、反応速度を高める触媒を探索します。超伝導体における非平衡準粒子伝導に関する実験を進め、準粒子に特徴的な伝導特性を明らかにします。

固体物性測定班:核磁気共鳴測定の温度・磁場範囲を広げ、ミクロな立場から新化合物の物性解明を目指します。希土類化合物における多重極子相互作用と交換相互作用の共存・競合が引き起こす異常現象を開拓し、その機構を調べます。スピネル型CuRh2X4(X=S, Se)を単結晶化し、高圧下での物性測定によって超伝導-絶縁体転移の機構を探ります。電子ドープ超伝導体Nd2-xCexCuO4の広い組成範囲で純良単結晶を育成し、超高圧化での物性測定によって、銅酸化物超伝導体における電子・ホール対称性を調べます。

固体分光測定班:低温・強磁場・高圧という複合極限環境下で可能となったラマン散乱と赤外吸収測定によって、希土類充填スクッテルダイト、クラスレート、チタン酸化物などの特異な物性における電子・格子相互作用の役割を明らかにします。低温STM観測に必要な清浄表面を作るために、極低温試料劈開法を確立します。これを用いてエキゾチック超伝導体や熱電近藤半導体のギャップ構造と電子・フォノン結合スペクトルを直接に観測します。

放射光測定班:HiSORが世界に誇るエネルギー高分解能光電子分光を活かして、エキゾチック超伝導体、近藤半導体、充填スクッテルダイトなどのフェルミオロジーを推進します。最近整備された直線偏光を用いたX線吸収線2色性実験によって、チタン酸化物の軌道秩序を決定します。これには、新化合物創製班と理論解析・物質設計班との協力をより密にします。スピン分解光電子分光実験によって、磁性体のスピン偏極を直接測定します。

理論解析・物質設計班:理論計算手法の開発として、局所密度近似の第一原理計算から出発してGW近似の範囲で準粒子状態を求めるコード、及び線形応答理論を応用した摂動論的手法から格子振動モードを計算するコードを開発します。遷移金属酸化物の軌道秩序を直接反映したX線吸収線二色性スペクトルを理論的に予測します。超伝導体における非平衡準粒子伝導に関する実験結果を解析するとともに、エアロジェル中超流動3Heの微視的理論を構築します。





3.2 人材の育成

本COEでの研究活動を通して、物質創製、物性開拓、放射光科学、理論解析・物性予測に横断的に精通し、且つ、学際的・萌芽的分野で優れた研究を牽引できる博士号取得者を毎年10名程度輩出します。博士研究員や助手などの若手研究者を国際会議や国際共同研究に派遣し、国際的に活躍できるように育てます。研究機関や企業での研究開発においてリーダーシップをとれる人材を送り出します。


3.3国際シンポジウムの開催

平成15年 11月19-21日、広島大学学士会館にて以下のシンポジウムを開催します。
 International Symposium on Synchrotron Radiation Research for Spin
 and Electronic States in d and f Electron Systems
 d・f 電子系のスピン・電子状態に関する放射光国際シンポジウム

開催代表者:谷口雅樹
  会議報告:Physica B特集号

平成17年度の計画
 第3回 広島国際討論会 - 複合自由度をもつ電子系の創製と新機能開拓- を開催します。本COEの研究成果を世界に発表し、世界の先導的研究者と交流を図ります。その成功を「機能物質科学研究センター」設立への足掛かりとします。





3.4 世界的な拠点形成への道

 既に、中国・四国地方の研究者をはじめ、韓国や中国など東アジアからの研究者が、本拠点に滞在して共同研究を実施し、成果を挙げつつあります。特に、平成14年度に全国共同利用を開始した放射光科学研究センターには、全国から年間延べ290名が共同研究に訪れています。本COE独自の高い研究実績と外部との共同研究の実績とをベースとして、その特色をさらに伸ばすことは、広島大学の到達目標である「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」を実現するためにも重要です。その為には、本COEを研究センターとして定着させることが必須です。本COE形成プログラムが終了する平成18年3月までには、現COEと自然科学研究支援センターの物質科学研究支援分野物質機能研究開発部を統合し、「機能物質科学研究センター」を設立する計画です。「機能物質科学研究センター」と放射光科学研究センターは協力して、物質科学におけるアジア大洋州の研究拠点を目指し、延いては、広島大学が「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」と成るための牽引力になります。

図1.Pd/Mg 多層薄膜の優れた水素貯蔵機能
図2. 新しい超伝導体HfNCl1-Zの発見とその機構解明
図3. 近藤半導体の低温での優れた熱電変換性能
図4. 複合自由度機能物質研究拠点の将来計画