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| 水素エネルギー社会の実現を目指して−水素貯蔵機能の開発− |
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21世紀は、持続的発展の中で、”環境との調和”をいかに図るかが大きな課題となっています。そうした中、炭酸ガス排出を伴う化石燃料に代わる再生可能なクリーンエネルギーシステムの研究開発の 重要性がクローズアップされています。本学の藤井博信教授は水素をエネルギー媒体とする新しいクリーンエネルギーの研究開発に重要な貢献をされてきました。特に、水素を高濃度に貯蔵・輸送する技術の確立では世界をリ ードされています。先生の御研究は経済産業省の事業・NEDOの水素安全利用 等基盤技術開発プロジェクトの支援を受けて研究されています。
以下、藤井博信先生に、水素貯蔵材料の研究内容を紹介していただきます。
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水素エネルギー社会の実現を目指して
— 水素貯蔵機能の開発 —
自然科学研究支援開発センター 特任教授 藤井博信
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1.研究の背景
20世紀後半から始まった地球環境問題、中でも、炭酸ガスの排出に伴う地球温暖化問題に対処するため、水素をエネルギー媒体とする新しいクリーンエネルギーシステムが提案されています。しかしながら、水素エネルギーシステムを実用化するためには、解決しなければならない技術上の課題が数多く残されています。その課題の一つに、水素を高密度に貯蔵・輸送するための要素技術の確立があります。特に、燃料電池車の水素貯蔵タンクへの応用がもっとも関心の高いところです。現在、水素貯蔵タンクとしては、液体水素で貯蔵する方法、高圧水素で貯蔵する方法及び水素貯蔵媒体に貯蔵させて利用する方法の3通りの貯蔵タンクが検討されていますが、それぞれ一長一短があり、将来どのような貯蔵法が採用されるか判りません。
水素を最もコンパクトに貯蔵するには、ガソリンのように液化する方法が理想的です。タンクを含めた質量当たりのエネルギー密度は高く、かつ体積当たりのエネルギー密度も高いからです。しかし、水素は、液化温度が-253℃と極めて低いため、液化するために大きなエネルギーを必要とします。また、ボイル・オフ(熱の流入による液体水素の蒸発)による損失のため、大型タンカー、トラック、バスなど大量輸送用には適しているものの、近くに液体水素供給基地がない限り、小型燃料自動車には液体水素を搭載する方式は不向きです。
アルミニウム容器をカーボンファイバー(炭素繊維)で補強して作った最新の水素ガス高圧容器では、350気圧(kg/cm2)までの高圧水素を搭載することが可能となってきました。日本やヨーロッパで走行している小型ガソリン車を想定し、400km走行するのに必要なガソリンを水素に換算すると4 kg必要です。この4 kgの水素を高圧タンクに貯蔵するのは、軽量であるため重量的には問題はありません。しかし、4 kg搭載するには、350気圧という高圧水素を用いても、直径70cmの球に相当するタンク体積が必要となるため、小型燃料電池車にそのスペースを確保することはむずかしいのです。そこで、700気圧までの高圧水素タンクの設計が検討され、開発が進められています。もちろん、これによってエネルギー密度は高くなり、小型燃料電池車に対しても余裕をもって水素貯蔵タンクが設計できます。しかし、高圧になればなるほど、高圧生成のために必要なエネルギーが増し、同時に危険度も増します。この危険性をいかにしてクリアーできるのか、これからの課題です。
水素吸蔵媒体に水素を吸蔵させて貯蔵するシステムは、安全性の面から考えると最適です。充填圧力を150気圧以下に抑え、かつ多量の水素を吸蔵する材料が必要です。水素を取り出すには、外部から熱を与えることによって行います。この熱には廃熱を利用します。車では、燃料電池からの廃熱(ラジエターの水100℃以下)を利用します。水素吸蔵材料は、水素を原子状で貯蔵するため、液体水素以上に水素を高密度に貯蔵できるので、エネルギー体積密度は高く、搭載スペースは小さく、コンパクトに出来る点が他にない利点です。しかし、これまで開発されてきた水素吸蔵合金は単位重量当たりのエネルギー密度が低く、水素貯蔵量に比べて重いという欠点を持っています。例えば、小型燃料電池車に400km走行するために必要な4 kgの水素を搭載するには、合金のみで300 kg、タンク全体としては400kg〜500Kg程度と重すぎます。もし、5質量%(100グラムの物質中に5グラムの水素を貯蔵)の水素吸蔵材料が開発されれば、水素4 kgを搭載するのに、水素タンク全体で100 kg程度で済み、軽量化が実現できます。そこで、軽量化を目指した水素貯蔵材料の研究が、現在、盛んに行われているのです。
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2.研究の目標
日本では、現在、NEDO水素安全利用等基盤技術開発プロジェクト「水素に関する共通基盤技術開発」の中で、5.5質量%以上の水素を150℃以下の温度で吸蔵放出する材料を目指した新規軽量材料探索の研究が行われています。アメリカ合衆国エネルギー省(DOE)では、6質量%以上の水素を100℃以下で吸蔵放出する材料を目標(2010年)に研究開発が開始されています。国際目標値としては、国際エネルギー省(IEA)の5.0 質量%の水素を80℃で吸蔵放出する材料開発が設定されています。私達は、上記NEDOの目標値をクリアーすることを目指して、軽量元素であるリチウム(Li)、カーボン(C)、マグネシウム(Mg)をベースにした新材料の開発研究に着手し、様々な新規材料を開発しつつあります。目標達成の直前まできているのが現状で、世界中から注目されています。以下に、開発研究の進捗状況、今後の研究計画および将来を展望してみたいと思います。
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3.開発研究の現状と今後の研究計画
3.1 研究組織
平成15年、広島大学自然科学研究支援開発センターを中心にして、三菱重工業株式会社広島研究所(広島)、太平洋セメント株式会社中央研究所(千葉)、および独立行政法人産業技術総合研究所関西センター(大阪)の産学官からなる研究探索チームを組織し、NEDO水素安全利用等基盤技術開発プロジェクト「水素に関する共通基盤技術開発」の受託研究に応募し、5年間のプロジェクト研究として採択されました。私達は、この研究グループを“水素貯蔵メカノケミカルチーム”と呼び、3ヶ月毎に、開発推進委員会を開催し、最新の情報交換を行っています。
本開発チームの主な研究スタッフは、以下の通りです。
〇研究チームメンバー(開発推進委員長 藤井博信)
広島大学自然科学研究支援開発センター 藤井博信、市川貴之、冷 海燕
三菱重工業株式会社広島研究所 池田哲也、若元郁夫
太平洋セメント株式会社中央研究所 松浦 茂、窪川豊之、常世田 和彦
独立行政法人産業技術総合研究所関西センター 清林 哲
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3.2 研究推進状況
私達は、現在、軽元素であるリチウム(Li)、カーボン(C)、マグネシウム(Mg)を主成分とする水素貯蔵材料の開発研究を行っています。(1)リチウム系材料は、可逆的な化学反応を利用して水素を蓄える方法で、最近注目され初めた貯蔵材料です。この系は、非常に高容量の水素をコンパクトに貯蔵出来るメリットはありますが、反応速度が遅く放出温度も比較的高いため、いかに優れた触媒物質をいかに効果的に添加するかが今後の課題となっています。(2) カーボン系材料は、分子状水素あるいは原子状水素をナノメートル級の微細構造・組織の表面または内部に吸着させるタイプです。活性炭、カーボン・ナノチューブ、グラファイト・ナノファイバー、ナノ構造化グラファイトなど特異なナノ炭素系材料(ナノカーボン)がこれに属します。こうしたナノカーボン材料を用いた水素貯蔵機能の本格的な研究は始まったばかりで、未だ水素吸蔵メカニズムの概念すら確立されていないのが実状です。(3)マグネシウム系材料は、原子状の水素を金属格子間位置に固溶して水素を蓄える従来型の水素吸蔵法です。残念ながら、マグネシウム金属は水素分子を水素原子へ解離する作用が弱く、300℃以上の温度でしか、水素を吸蔵放出しません。この欠点を克服するため、現在、世界中で様々な触媒添加が試みられているのです。
私達は、これら水素の吸蔵メカニズムの違う3種類の新規材料について、ナノ構造化、ナノ複合化をキーワードに、活性ガス雰囲気中でメカノケミカルに合成できるボール・ミル装置、更に、このようにして得た試料について、空気に一切晒すことなく水素貯蔵機能を評価できる装置などを独自に開発し、水素貯蔵機能の開発研究を行っています。これらの装置は、世界広しと言えども、現時点では広島大学にしかなく、世界に優位性を保っています。
では、これまでの研究成果を以下に要約します。
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(1)リチウム系水素貯蔵機能の開発
20世紀の初め、すでにアンモニア合成の研究の一環として発見されていた、リチウム窒化物反応系LiNH2+ LiH ⇔ Li2NH+ H2に着目し、私達はリチウムアミド(LiNH2)と水素化リチウム(LiH)の1:1の混合物に少量のTiCl3を触媒として添加し、水素雰囲気中で2時間ボールミル処理する事によって、ナノ組織化したリチウム窒素複合材料を作成し、その水素吸蔵・放出特性を評価してみました。その結果、可逆的に180℃の温度で6重量%の水素を速やかに吸蔵し、220℃の温度で速やかに水素を放出することを発見し、繰り返し特性も良好であることから、世界的な注目を集めています。この水素化反応の特徴は水素吸蔵・放出に伴う物質移動を伴っているにもかかわらず、水素放出反応が極めて早い点です。
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図2.リチウムアミド(LiNH2)と水素化リチウム(LiH)の等量の混合物に少量のTiCl3を触媒添加した水素貯蔵材料の水素放出特性
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この原因は、アンモニアを仲介とする2段階の素反応過程によって、水素放出反応が支配されていることによる、ということを明らかにしました。最近では、リチウム以外の他の金属系イミドと水素化リチウムとのナノ複合化などによって、NEDO目標値(5.5質量%以上の水素を150℃以下で吸蔵放出する材料開発)をクリアーしつつあります。
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(2)マグネシウムの水素貯蔵機能に及ぼす遷移金属元素触媒の添加効果
マグネシウムは、四半世紀前から水素を多量に吸蔵することでよく知られていました。私達はマグネシウム水素化物(MgH2)に遷移金属ニッケル(Ni)ナノ粒子を少量添加し、機械的ミリング処理することによって、MgH2表面をナノ金属粒子で一様に被覆すると水素貯蔵機能が著しく改善され、6.5 重量%の水素を100℃の低温で吸蔵し、その水素を150〜250℃の低温で放出させることに成功しました。ちなみに、触媒を添加しないでミリング処理したMgH2は、300〜350℃の温度でしか水素放出しません。さらに、Ni金属以外のチタン(Ti)金属ナノ粒子やニオブ金属(Nb)ナノ粒子などでも同様な触媒効果を発揮することを見出しました。このように触媒添加効果によって、マグネシウム水素化物(MgH2)は水素貯蔵材料として実用化段階に到達し、現在、英国を中心にしてMgを用いた水素貯蔵タンクが設計されています。
(3)ナノ構造化したグラファイトの水素貯蔵機能の開発
グラファイトを10気圧の水素雰囲気圧力下で80時間機械的ミリングすることによりナノ構造化すると、7.4wt%に及ぶ多量の水素を吸蔵することを明らかにしてきました。その吸蔵水素は、一部ミリング処理中に生成したナノサイズのグラフェンシート(炭素原子の六角網面)のエッジ部に共有結合し、残りはグラフェンシートの面間に生成した欠陥サイトに弱く結合しています。昇温に伴うガス脱離実験より、それらの水素は300℃と500℃の2つの温度から放出を始めることを明らかにしました。さらに、様々な触媒金属を添加して、水素放出温度の低温化を目指した研究を行ってきました。その結果、鉄金属ナノ粒子が最も良い触媒作用を示す事が明らかとなりました。しかし、現在までのところ、250℃以下で水素を吸蔵放出させることには成功していません。更なるブレークスルーが必要です。このため、今後は基本に立ち返って、水素貯蔵に最適な、物理吸着と化学吸着の中間にある水素(H)−炭素(C)結合状態の解明を目指した研究に取り組みます。こうした水素貯蔵機能の理解は、ナノ構造化カーボン系材料が水素貯蔵材料として真に有望か否かの見極めとなり、必ずや将来役に立つと考えられるからです。
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4.将来展望
本プロジェクトチームは、特許に関連した守秘義務を厳守し、スタート当初から研究開発会議を3ヶ月間隔に開催し、研究成果についての情報交換を密にしつつ、役割分担をはっきりさせ、これまで開発研究を進めてきました。平成16年度以降においては、リチウム窒素系化合物の改良研究に加えて、新規リチウム系材料を創製し、NEDOの定める目標値をクリアーし、平成17年度から実用化に向けた研究に着手する予定です。
こうした開発研究により、NEDOの目標値である150℃以下の温度で5.5 質量%以上の水素を吸放出する材料が創製できれば、燃料電池自動車の移動体用水素燃料タンクへの利用を初め、オンサイト発電のための燃料電池用の定置式水素貯蔵タンクへの利用など、あらゆる分野への水素を利用した燃料電池の普及が加速され、その波及効果は計り知れないものがあります。
私達は、こうした開発研究を通して産学官の密接な協力関係を構築し、今後の広島大学の発展に寄与していきたいと考えています。
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