人生はフィールドワーク: 多様性理解が育む知と創造力

佐野(藤田)眞理子 教授

基本情報

  • 所属又は配属:大学院総合科学研究科
  • 職名:教授
  • 専門分野:文化人類学/高等教育のユニバーサルデザイン

研究者になるまでの軌跡

 文化人類学的思考の特徴 は、Making the strange familiar, and the familiar strangeであるとよく言われます。つまり、異文化でのフィールドワークで遭遇する未知のもの、不可解なものがその社会の人々の考え方、ものの見方の理解度が深まることによって、見慣れたもの、親しみを覚えるものに変わっていくと同時に、自文化で「常識」とされていることも改めて見直すことにつながり、新しい知見が得られるということです。この人類学的思考は、私の研究・教育、アクセシビリティセンターの実践活動、さらに、日常生活においても基盤となっていると思います。
 この思考パターンの緊張感と面白さに気付かされたのは、アメリカで過ごした大学院時代でした。アメリカは多民族・多文化社会です。同質性を好む日本社会と対照的に、多様性そのものが価値を持つ社会です。例えば、パーティや食事会でも、専門分野が異なる人々を集めるのが普通のこと。そこで、まず、聞かれるのは、「あなたはどんな研究をしているの?」それに、さっと答えられないと、つまらない人、怠け者の院生・研究者とみられてしまいます。つまり、名刺に書かれているような所属、肩書ではなく、その人の考え、意見が重要視されるのです。指導教員には、1分、3分、5分のスピーチを常々用意しておくように、それも、自分の専門分野以外の人にわかるように伝えられるようにと、よく言われたものでした。最初は、頭痛がガンガンして緊張しましたが、相手は往々にして、「それは面白いね。私の分野でもこういう研究があるけれど、それと似ているね。こういう点はどう思う?」と、今まで全く別物と思っていた事柄と接点が 見いだせ、話しているうちに、お互いにどんどん展開していって、家に戻ってくるころには、たくさんアイデアが浮かんできて、とても得をした気分になりました。
 相手の常識は、こちらの非常識。女性研究者として幸運だったと思ったのは、誰も、「結婚」か「研究(仕事)」か、といった選択を迫らなかったことです。「別次元の問題でしょう。なぜ、どちらかを選ばなければならないの?」と、全く、意味が分からないといった様相でした。今でこそ、イクメンと評価されるようになりましたが、当時でも、男性が家事・育児を手伝うのは当たり前、しないとひんしゅくを買います。だから、配偶者とは、家事・育児、そしてもちろん家計の負担もきっちり半分半分。このポリシーをお互いにずっと貫いています。日本で出会って、結婚していたら、こうはいかなかったかもしれません。その他、「高齢者でも、障害者でも、可能な限り支援される側より、する側に回るように努めること、そのことが生きがいになっていること。」「留学生や障害学生にサ ポートはしても、評価基準は変えないこと」等、アメリカの常識で、後の私の生き方に大きな影響を与えたことはたくさんあります。
 異文化との出会い→衝突→理解→自分が「常識と思っていること」の見直し→新たな展開といったプロセスは、将来への夢と希望につながると思っています。

学生に対するメッセージ

 1)フィールドワーク: 情報は、人の言うことや本に書いてあることを鵜呑みにしないで自分の足で、耳で、目で集め、確かめること。
 2)多様な人々を知ること: できるだけ異文化、異人種、異分野、異業種の人々と交流して、相互理解に努めましょう。
 3)答えを見つけるよりも、問いかけが大事: 見つけた答えに満足せず、その答えから見えて来る問題点は何? Q→A→Q→A→Qを積み重ねること。
 そして、これらの3つの活動をすること自体が楽しみになると、ワクワクするような人生が送れると思いますよ。

(2016年6月掲載)
*所属・職名等は掲載時点のものです。
 


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