鈴木 孝至(先端物質科学研究科 教授) 
(CnH2n+1NH3)2MeCl4 (Me = metal)は,誘電秩序や磁気秩序を示すだけでなく,強弾性相をも有する。これまで,この物質系については誘電体としてその相転移機構の解明に興味が持たれてきた。例えば,エチルアンモニウム基と鉄イオンをもつEAFeCは[*],降温とともにブリルアンゾーンX点フォノンのクエンチに起源を持ち3次元XYモデルによって記述される体心正方晶(I4/mmm)の原型相から底心斜方晶(Bmab)への構造相転移を示した後,誘電秩序相,新たな構造相,更に磁気秩序相へと逐次相転移を繰り返す。また,底心斜方晶相は強弾性をもつことも知られている。
我々は,この物質系が電場・磁場の交差相関だけでなく,応力も加えた3元交差相関が期待出来る初めてのマルチフェロイックス系であると位置づけ,この観点から研究を18年度に開始した。19年度は,引き続き各種金属イオンおよびアルキルアンモニウム基をもつ単結晶の育成を行った。試料が得られたものについては,構造の温度依存性,多重極限下における熱力学量・輸送特性などを測定した。
[*] T. Suzuki et al., JPSJ 52, 1669-1675 (1986).
2.1 蒸発法による単結晶育成
メチルアンモニウム基をもつMAFeC,MAMnC,MACoC,MACuC,MAZnCおよびエチルアンモニウム基をもつEAFeC,EAMnC,EACoC,EACuC,EAZnC,計10種類の単結晶育成時間の短縮並びに大型化に成功した。
2.2 単結晶X線回折による結晶構造測定
18年度に引き続き化学研究科井上研究室との共同で行った。これまでに,MAFeCにおける4つの秩序相の空間群まで含めた構造決定に成功している。 本年度は,EAFeCの構造相を決定した。とりわけ,磁気秩序相では,MAFeCと同様に磁気転移と同時に構造も転移することが判明した。
更に,鉄を銅に置換したEACuCに関する誘電率の温度依存性を測定したところ,26Kと37Kで誘電秩序があることを初めて見出した。37Kの誘電異常は,電場をc面内に印可した場合に観測されるのに対し,26Kの誘電異常は電場をc軸に平行に印可した場合に観測される。緩和法による比熱測定を行ったところ,37Kでは明確な不連続を観測したが26Kでは想定制度の範囲内で以上を見いだせなかった。緩和法では潜熱の開放を乾燥しづらい。この点を勘案すると,37Kは2次相転移,26Kは1次相転移と推測している。
2.3 単結晶試料の多重極限下物性測定
19年度において交差相関観測のため制作した磁場中誘電率測定装置を改良し,試料を磁場中で回転できるものとした。今後は,応力印可できる試料ホルダーの開発を目指す。