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予防医療に向けたバイオマーカーの網羅的測定を低コストで行うバイオセンサーを開発
 
予防医療に向けたバイオマーカーの網羅的測定を低コストで行うバイオセンサーを開発
~医療やバイオテクノロジーに加え、MEMSやナノテクノロジーにも応用可能~
 
 NEDO産業技術研究助成事業の一環として、広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 分子生命情報科学研究部門の池田丈特任助教は、シリコン結合タンパク質「Si-tag」を接着分子として利用することで生体分子とシリコンデバイスを融合したバイオセンサー(注1)の開発に成功しました。生体分子の有する特異的物質認識機構・触媒機能と、微細加工・集積化が容易なシリコンデバイスを組み合わせることで、病気の診断に利用されるバイオマーカー(注2)を低コストかつ迅速に測定することが可能となります。病気を未然に、あるいはごく早期に発見するための日常的な診断技術として期待されます。将来的には、バイオテクノロジーと半導体デバイスを結びつける技術として、ナノテクノロジーや材料分野への応用にも期待される技術です。
 


図1 予防医療に向けたバイオマーカーの網羅的測定を低コストで実現するバイオセンサーの概念図

(左図)シリコン結合タンパク質「Si-tag」を介してリング光共振器上(注3)に抗体・酵素を固定化します。シリコン基板表面の酸化膜に直接結合させることが出来るため、基板表面の化学的修飾が不要で、迅速な固定化が可能です。
(右図)検体中の標的分子の有無を光共振器の共振波長のシフトとして検出します。標的分子の結合をリアルタイムで直接検出できるため、従来の免疫測定法のような酵素標識・蛍光標識が不要です。

 
(注1)生物・生体物質に関連した技術を使ったセンサーの総称。酵素や抗体などが特定の物質とだけ反応することを利用して対象物質の検出を行う。
(注2)病気の状態や変化を反映して濃度が変化するような生体由来の物質。病気の診断や治療効果の評価に利用される。例えば、健康診断で検査される血清中のGPT・GOTは肝機能の指標となるバイオマーカーである。
(注3)リング状に形成された光回路。一方の直線状光導波路から入力された光の中で、特定の波長を持つ光だけがリング状光導波路内で共振を起こし、他方の直線状光導波路から出力される。
 

1. 背景及び研究概要

 医療費が増大の一途をたどる今日、病気を未然に、あるいはごく初期の段階で発見・診断する予防医療の重要性が高まっています。病気の診断の指標となるバイオマーカーを日常的に測定できれば、病気の予兆を捉えることが可能となります。例えば、血糖値は生活習慣病の指標として代表的なバイオマーカーであり、酵素と電極を用いた血糖値センサーが実用化され、日常的な測定に利用されています。しかし、ヒトの体には血糖値以外にも多種多様のバイオマーカーが存在し、その多くは血糖値のような簡易な測定法が確立されていません。抗体を用いたELISA (酵素結合免疫吸着検定法:Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)などの免疫測定法で個別に測定することは可能ですが、多種のバイオマーカー全てを網羅的に測定するとなると膨大なコストと時間が必要となってしまうのが現状です。

 そこで、広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所では、シリコンリング光共振器上に抗体などの各種タンパク質を固定化することで共振器表面の屈折率変化に基づく物質検出が可能となることに着目し、シリコンチップ上に集積可能なバイオセンサー技術の開発に成功しました。この技術は、独自に発見したシリコン結合タンパク質「Si-tag」を接着分子として利用することで、デリケートな生体分子を迅速かつ安定にシリコンデバイス上に固定化することができます。従来の共有結合法でタンパク質固定化を行うためには基板表面の煩雑な化学修飾処理が必要ですが、この技術では目的とするタンパク質を予め遺伝子工学的にシリコン結合タンパク質と融合しておけば、その溶液をシリコン基板上に接触させるだけで当該タンパク質は速やかに基板表面に吸着します。このため、タンパク質固定化にかかる時間は5分未満と、従来の共有結合法と比べて数十分の一まで短縮でき、タンパク質とシリコンデバイスの融合が簡単に行えます。

 この生体分子と半導体デバイスを融合したバイオセンサーは、従来の免疫測定法の利点を踏襲しつつ、半導体加工技術による微細加工性やデバイス集積度を実現し、数十分の一レベルの低コスト化が図れるようになります。予防医療向けバイオセンサー技術としての活用のほかに、さらに将来的には、バイオテクノロジーと半導体デバイスを結びつける技術として、ナノテクノロジーや材料分野などへの応用にも期待がもたれます。

 

2. 競合技術への強み

この技術には、次のような強みがあります。
(1)迅速・簡単なタンパク質固定化
シリコン結合タンパク質を融合したタンパク質を含む溶液をシリコン基板上に接触させるだけで、迅速な(5分未満)タンパク質固定化が可能であり、任意のタンパク質とシリコンデバイスを簡単に組み合わせることができます。
(2)低コスト
リング共振器はサイズが数十µm程度と小さいため、高価な抗体の使用量を最小限に抑えることができます。また、固定化タンパク質を可逆的に解離させ再固定化を行うことで、デバイスの再生や再利用が可能であり、一層の低コスト化に寄与します。
(3)多項目同時測定
半導体加工技術によるチップ上への集積化が可能なことから、バイオマーカーの網羅的測定に適しています。

 

表1 本技術と従来手法との比較表

  独自開発のバイオセンサー
【今回の技術】
電界効果トランジスタを利用したバイオセンサー
【競合技術】
免疫測定法
【従来技術】
タンパク質の固定化時間 ◎5分未満
接触させるだけで固定化
△数時間
煩雑な化学修飾が必要
△1時間~一晩
測定時間 ◎数十分 ◎数十分 △数時間~数日
検出感度 ○ng/mlレベル
現在さらなる高感度化を進めている
◎pg/mlレベル
ただし溶液の組成に制限有
◎pg/mlレベル
多項目同時測定 ◎チップ上への集積化が可能 ◎チップ上の集積化が可能
低コスト化 ◎微細化・集積化によるコスト低減
デバイスの再利用も可能
○微細化・集積化によるコスト低減
固定化したタンパク質が失活したら再利用不可
△抗体の使用量大
酵素標識・蛍光標識も必要
総合評価 ○個別の測定には適しているが、網羅的測定には不向き

 

 

3. 今後の展望

 今後、広島大学では、このバイオセンサー技術の実用化を目指して、固定化タンパク質の安定性評価やデバイスの高感度化、専用測定機器(発光部および受光部)の開発を進めて行きます。また、集積化した状態におけるデバイスの安定動作の確認や信頼性の確保などの課題への対応も進めて行きます。そのために、半導体加工・オンチップ光配線や光学測定機器の技術開発・商品開発に関心を持つ、あるいは実績を有する企業や組織などと、意見交換や技術相談、測定機器の共同開発を提案します。

 また、現在注力しているバイオテクノロジーや医療分野に加えて、将来的にはMEMS(注3)やナノテクノロジー、材料分野で広く利用される技術としても応用されることを目標としています。このような分野での技術開発・商品開発に関心を持つ、あるいは実績を有する企業や組織などと、シリコン結合タンパク質を利用したバイオ融合デバイス開発に関する意見交換や技術相談、共同研究を提案します。

(注3)Micro Electro Mechanical Systems。微細な電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んで、多様な機能を集積化したデバイス。
 

4. 研究者(池田丈特任助教)の略歴

2002年 東京大学農学部生命工学専修卒業
2004年 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了
2007年 東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了
2007年 広島大学大学院先端物質科学研究科・博士研究員
2008年~ 広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所・特任助教

 

5. お問い合わせ先

(本プレス発表の内容についての問い合わせ先)
広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 分子生命情報科学研究部門 特任助教 池田丈
TEL: 082-424-7047  FAX: 082-424-7047
E-mail: ikedatakeshi hiroshima-u.ac.jp
研究室HP: http://home.hiroshima-u.ac.jp/akbio/

(NEDO制度内容についての一般的な問い合せ先)
NEDO研究開発推進部 若手研究グラントグループ 松村、松﨑、千田
TEL: 044-520-5174  FAX: 044-520-5178
個別事業HP 産業技術研究助成事業(若手研究グラント)