UI調査最終報告書

広島大学のユニバーシティアイデンティティに関する調査 最終報告書

平成15年11月11日
株式会社三菱総合研究所

調査の概要

広島大学のユニバーシティアイデンティティに関する調査(以下「本調査」)は、広島大学のアイデンティティを確立し、そのブランド価値を高めるための戦略の策定を目的として、平成15年3月から8月にかけて実施した。
その実施には、株式会社三菱総合研究所の5名の研究員と、広島大学の大学運営戦略会議の下に設置されたUI検討WGを中心とした「H.I.P.プロジェクト」が共同であたった。
本調査における具体的な調査分析活動としては、学内外を対象とするインターネットアンケート調査、企業への郵送式アンケート調査、教職員・一部学生を対象としたインタビュー調査、企業へのインタビュー調査、各種参考文献・資料等の分析などを行った。その調査分析結果に基づいてディスカッションを重ね、運営戦略会議での審議も頂いた上で、以下に述べる結論を広島大学のUI戦略として導出している。

1.広島大学の現状分析
(1)教職員インタビュー

本調査の開始時に、学内の各部局や各種機能を代表する17名にインタビュー調査を行った。
その回答内容は各位が置かれた立場等により多様ではあったものの、総じて、(1)広島大学のルーツであり、これまで広島大学の強み・特徴であると考えてきた「教育」「教員養成」等といった看板がまだ通用してはいるが、一方でかつての威光が薄れて通用しにくくなっていること、(2)現時点では他大学と比べた場合の広島大学の強み・特徴が必ずしも明確ではなくなっていると考えられること、(3)学生はまじめではあるが、アピール力が弱く、質も低下していると考えられること(教職員、あるいは広島大学全体も同様との指摘も一部にあり)、(4)地域とは必ずしも密着しているとはいえず、他方で、国際化を志向しながらも実態が追いついていないこと、等が共通した指摘内容であったとまとめられる。

(2)インターネットアンケート調査「広島大学について思うこと」
3月~5月にかけて、広島大学ホームページ上で「広島大学について思うこと」と題したアンケート調査を実施した。
広く学内外に呼びかけた結果、1196通の回収を得た(回答者の47%は学生、23%が教職員、他に卒業生、一般など)。
今後広島大学が学外にアピールすべき点を尋ねた結果、(1)教育に優れた大学であること(41.3%)、(2)研究に優れた大学であること(33.3%)、(3)総合大学として全体の水準が全国的にも高い大学であること(30.2%)の順となった。
特に学生に限ると「教育に優れた大学」を打ち出すべきとの声が強かった。

(3)企業等へのアンケート調査
6月~7月には、採用・研究等で広島大学との接点を持ったことのある組織を主な対象として、広島大学の人材、研究、社会連携などに関して郵送式アンケート調査を行い、375通の回収を得た(うち約80%は企業。企業の本社所在地は中国5県と域外でほぼ半々)。
その結果、(1)中四国では優秀な大学で、教員養成や平和・放射線医療研究などで優れており、(2)卒業生はまじめで基礎学力はあるものの、個性、行動力、リーダーシップ等の積極性に欠くとの認識をされており、(3)比較の対象となっているのは主として岡山大学であること、等が判明した。
回答企業の中から3社に対して別途インタビュー調査を実施し詳細を尋ねたが、アンケート調査結果を裏付けるような回答内容であった。

(4)学内外の資料分析
1)志願者状況・高校からの評価
広島大学の受験生は移転・定員数削減などを契機に近年大幅に減少している。
その減少率は定員減少比率を上回る大幅なものであり、ライバルと目される他の国立大学に比べても減少率は最も大きく、受験倍率は3倍程度に落ち込んでいる。
なおライバル校としては九州大学、岡山大学、神戸大学などの国立大学、大阪市立大や大阪府立大などの公立大学、立命館大学などの有力私立大学が想定されることが、予備校の調査結果などから判明している。
今後懸念されるのは、半数以上の広島大学受験生の出身地である中四国の若年人口が、全国平均以上に減少すると予測されることである。
なお、朝日新聞社の「大学ランキング2004年版」によれば、全国の高校601校からのアンケート回答に基づく大学評価においては、広島大学は全国の大学中19位である。

2)就職の状況・企業からの評価
経済状況の悪化に伴い、広島大学卒業生の就職も厳しくなっている。
一つには教職への就職率が大幅に低下していることで、2000年度の産業別就職割合では教育は9.7%にとどまっており(01年5月学内資料)、「教育の広大」の地位が揺らいでいる。
他方、企業への就職状況も芳しいとはいえない。
雑誌「AERA」03年8月18〜25日号所収の調査によれば、同誌の抽出した109の有名な企業・団体、いわゆる「人気企業」への就職率を比較すると、広島大学(4.9%)は、岡山大学(2.3%)を上回るものの、筑波大学(6.9%)、九州大学(9.3%)、神戸大学(13.7%)などを下回っている。
企業の人事担当者等へのアンケート結果に基づき、マスコミが大学のランキングを作成する場合、広島大学の順位は総じて高くない。
02年以降の調査結果から一例を示すと「週刊ダイヤモンド:企業が選ぶ役に立つ大学」調査で43位、「日経産業新聞:企業が選ぶ優れた大学」調査で25位などとなっている。過去数年間の同種類の調査を見ても、傾向に変わりはない。

3)実力と評価のギャップ
他方、広島大学が全国の大学中トップと評価される項目もある。
(1)障害学生への支援:総合評価(全国障害学生支援センターが01年に実施した、障害学生の受入れ状況の調査)、(2)社会人への開放度(社会人特別選抜の実施状況についての調査結果、朝日新聞「大学ランキング2004」所収)、であるが、広く一般に知られているとは考えにくい。
研究実績(論文引用件数)などでは全国10位前後に位置付けられる広島大学が、高校や企業による評価ではより低位にとどまる原因として、(1)情報発信力の弱さ(例えば過去1年間の日経新聞全国版登場件数では21位・三菱総合研究所調査)、(2)卒業生、ひいては大学全体に外部にアピールする魅力の乏しさなどが原因として考えられ、特徴の明確化、アイデンティティ戦略確立の必要性が改めて確認された。

広島大学としての特徴の明確化が必要

2.広島大学のアイデンティティ戦略

(1)広島大学の「こだわり」は教育・人材育成
次に、手順に沿ってアイデンティティ戦略を検討した。
まず、広島大学としての「こだわり」に関して、本調査に直接関わる機会を持った大学運営戦略会議メンバー、H.I.P.プロジェクトメンバーにそれぞれ記入式アンケート調査で確認した。

その結果、「21世紀の日本を引っ張っていく人材を輩出する大学でありたい」(牟田学長)をはじめとして、積極的、リーダー、挑戦的、元気がある、自己実現、成長できる等、広島大学を構成する学生、教職員という「ヒト」のあり方への言及が多く見られ、「人材」の観点を重視していることが伺えた。

また、現状分析で述べた教職員、企業、ネットでの各アンケート調査結果においても、広島大学の「研究」については総じて一定の評価を受けており、むしろ課題は「教育・人材の育成・人材を集める」など、ヒトの問題と密接に絡むことが認識される。
 
(2)全学的な共通指針
広島大学がこれまで全学的に共通の指針として掲げてきた主なものには以下がある。

特に到達目標として「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」が掲げられており、COEプログラムでの採択実績などを見ても、研究面での広島大学の傾注姿勢とその実力はすでに強く感じられるところである。
これに比べると、人材の育成を含む「教育」は広島大学創設時以来のカンバンであり、現在もイメージ調査では上位に挙がる項目ながら、近年その威光が減衰しているところである。

(3)他大学のアイデンティティ戦略
国立大学を中心に他の大学においては、アイデンティティ戦略ははまだ明確に打ち出されていない例も多い。
早い段階で率先して取り組むことにより、他大学に先駆けて「広島大学」のブランドを確立できるものと考える。

(4)広島大学のポジション
これまでの調査分析に基づいて確認された広島大学のポジションとして、まず現在の広島大学が持つ強みは、過去からの伝統に立脚したイメージであり、これからの広島大学に求められるものは、伝統は踏まえつつも、新たなことに挑戦・行動するイメージを確立することであると考えられる。

(5)広島大学のSVR
広島大学はこれまで、学内構成員や学外の各種のStakeholder(利害関係者)に対して、そのResource(資源)を使って、教育、研究、社会連携、といったValue(価値)を提供してきている。
しかし教育、研究、社会連携、といったValueは、広島大学のみが提供するものではなく、大学全般が共通して提供するValueであったと考えられる。
では広島大学として、特にこだわって提供していきたいValue、広島大学の特徴となり得るValueは何か。
ここまでの検討結果から、「ヒト」にこだわり、優秀な人材が育ち、集まる大学であること。
優秀な人材とは、挑戦するマインドと、具体的に行動する力を持った人材が育つ大学であること。
であると考えられる。

(6)結論:広島大学は「挑戦し、行動する人材が育つ大学」を目指す
本調査における検討の結果として、広島大学は「挑戦し、行動する人材が育つ」大学となることを目指す、を軸としたアイデンティティ戦略を確立することを提案する。

広島大学のアイデンティティ戦略確立の提案

世界をリードする立場にたった日本は、今後、自ら目標を設定し、その目標に向かって挑戦、課題解決することが求められており、広島大学もその例外ではない。従来、広島大学関係者・出身者の特徴として、まじめで優秀であることは認識されてきたが、今後の環境下では、それに加えて積極性、リーダーシップなども併せ持ち、(1)自ら目標を設定し、それを達成できる能力を持った人材、(2)未来を創り出す(クリエイティビティを持った)人材が育ち、集まるような大学となる必要がある。ここでいう「人材」が学生に限らず、教職員も含む広島大学の全構成員を対象に含めていることは言うまでもない。

「挑戦し、行動する人材が育つ大学を目指す」ために、その柱となるべき施策のイメージとしては、(1)教職員の多面的なサポートによって、一人一人の可能性を引き出す教育システム、(2)学生に積極的に学外での活躍の場を与える、(3)優秀な研究人材確保・育成のための大学院研究科の再編や、大学院学生確保のための諸制度の見直し、(4)教職員の評価のあり方の見直し(研究重視の評価から、優れた教育者にも評価を与える=教員、年功序列的な処遇からの転換=教職員)、(5)情報発信戦略の見直し、などが考えられる。
これらについては7月~8月に、教育・研究・社会連携と3つの検討分科会を設置し、アイデンティティ戦略の具体化策を検討した(以下の3.~5.で詳細を述べる)。
 
3.教育分科会での戦略検討結果

教育に関して、広島大学がこれまで重視してきた点としては、(1)学生の自主性を尊重した多面的なサポート、(2)教職員と学生との活発なコミュニケーション、(3)教養的教育の重視、(4)専門分野の基礎的能力を持った人材の育成、の4つがあげられる。
一方、学士課程については学生の学力の低下、学習意欲変容への対応などが、大学院課程については定員の確保などが教育における課題であると学内資料においてすでに整理されている。
今回の検討の前提として、入学者については、(1)広島大学の入学生はまじめでおとなしい、これは今後5~10年では変わらない、(2)キャンパス移転によって志願者が減少したが、キャンパスが統合化されていることによる教育上のメリットも大きく、このメリットを積極的にアピールしていけば、志願者を増やすことができる、(3)今後、入学者の学力は下がることはあっても、上がることはないと予想、(4)今後は平均的な底上げと同時に、「とんがった人材」を入学させ、伸ばす機会を作るの4点を指摘した。他方、卒業生については、(1)「地味」、「実力がある」という従来の評価に、「自ら目標設定を行い、行動できる人材」といった新しい広大生の特徴をどう付加するか、(2)今後は新しいタイプのリーダーを輩出する、(3)自立支援・就職対策の充実、などが重要であると考えた。

広島大学が今後育成すべき人材は、「グローバルな視点を持ち、かつ、ローカルを知っていて、世界の中のこの地域、分野といった設定の中で活躍できる人材」「新しい分野に情熱を持てる人材」であると考えられる。
ここまでの結果を前提として、広島大学の教育のアイデンティティ(=コアコンピタンスでもある)として、以下の5つを抽出した。
それは、(1)平和を希求する精神を育む教育、(2)多様な社会的ニーズに対応できる教育体制、(3)統合された教育環境のもと、じっくり学べる大学、(4)幅広い教養と専門分野の基礎的能力をもった人材の育成、(5)教職員の多面的なサポートによって、一人一人の可能性を引き出す教育システム、であり、その実現のための重点施策として、(1)広大生の意識や生活実態の定点調査、(2)エントリーマネジメントの強化、(3)学生の自律性やチャレンジ精神を育む仕掛けのつくりこみ、(4)学部の壁を越えた教養的教育、教育プログラム制等、広大ならではの教育システムの確立、(5)入学から卒業までの学生サポート体制の拡充、(6)教職員の教育に対する貢献と成果を適正に評価するしくみづくり、の6項目を指摘した。
 
4.研究分科会での戦略検討結果

広島大学ではすでに現時点においても研究水準の高さを誇り得る地位にある。
文部科学省の「COEプログラム」においては2年間で合計4件が採択されており、研究資金の受入、引用論文数、民間機関の実施した研究者アンケートに基づく第三者評価等でも、広島大学は全国の大学中10位内外を占めている。
現在の研究水準の維持向上も当然課題ではあるが、現在の実力が正しく外部に認識されておらず、相応の評価をされていない点もまた課題であると考えられる。

広島大学長期ビジョンでは「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」を、広島大学の将来的な到達目標として掲げている。
研究の水準を現在以上に高め、複数の特定分野では世界の研究拠点となることを目指したものであり、その実現のためには、学術室の設置による研究司令塔機能の確立、基礎的研究の一層の進展と先端的研究の重点的推進、トップレベル研究者招聘による体制の強化、大学ブランドの確立、研究科の再編・再構築などの戦略の実施が提案されている(「研究計画WG報告」2003年9月)。これらは極めて当然の提案であるが、(1)戦略の実行が、実際にはどこまで可能なのか(提案倒れに終わらせない工夫はあるか)、(2)研究に係るヒトの問題の解決ができるのか(国立大学の体系から大きく脱皮しないと、「スター研究者」の確保もできないのではないか。大学院課程で外部へ流失してしまう例も散見される若手研究者の確保・育成の問題)、(3)対外情報発信の問題(組織的な対応の不足、地の利のなさ)、などが依然として積み残されている。

本分科会の検討では、到達目標である「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」の実現に向けて、研究内容で他大学との特徴づけを図る「研究アイデンティティ戦略」と、研究内容を正しく理解してもらう「研究発信戦略」の2つに分けて戦略を立案することを提案している。
「研究アイデンティティ戦略」においては、(1)研究活動を通じた外部資金の導入を最大化することへの取り組み、(2)研究人材の充実:チャレンジャー型研究者の育成と、世界級研究者の引き抜き、(3)研究分野の選択と集中の3点を提案。
「研究発信戦略」においては、(1)広島大学の特徴作りのためのキーコンテンツの作成と、情報発信が出来るスター研究者の獲得・育成、(2)中央、海外を対象とした研究情報発信能力の強化、(3)学内における情報発信体制の整備(有力メディアへの登場件数を目標とする組織作り)を提案している。
 
5.社会連携分科会での戦略検討結果

広島大学は、「地域社会・国際社会との共存」を理念に掲げ、中期目標においても、社会連携を教育と研究に次ぐ第三の柱として重視している。
本分科会の検討では、社会連携活動は、「社会に開かれた大学」を目指し、広島県内外の企業・住民・自治体等のステークホルダーから「社会にとっての価値ある存在」、「地域社会の潜在能力を高める存在」として評価されることを目的とした活動であるとした。
また、広島大学自身としては、産学連携等による外部資金の獲得、教育・研究の実化による創発的な人材の創出、といった点も、社会連携に取り組む大きな目的であることを確認した。

具体的な活動としては、これまでに、講演会の講師や委員会の主査といった地域文化の牽引役としての活動、平和と国際貢献に関する活動、地域貢献研究の推進、リエゾンフェアやまちづくりなどの産学連携の推進、公開講座やマネジメント専攻などによる社会人教育等の諸活動を、個々人の活動として、あるいは一部組織的に実施してきている。

本分科会では、これらの活動を推し進め、大学と地域社会の有機的な連携体制をもつことを広島大学の社会連携としての特徴とするために、全学的な「組織対応」をもって活動を行うべきとし、学内外の接点となる組織体をより充実し、各学部間あるいはキャンパス(含むサテライトキャンパス)等を有機的に連動できる仕組みの構築を提案している。
これは、研究者が地域の課題等に取り組むだけでなく、学生等の構成員が地域社会に育てられる機会や社会人あるいはその家族等が大学を活用していくような仕組みを構築することも意味している。
また、社会連携の推進といった視点からは、環境・バイオ・港湾等の地域の産業振興に向けた学術的な研究や、平和を脅かす要因の研究・放射線医療等の広島大学ならではの学問領域があること、さらに社会人教育にも一層注力する姿勢を示すことは、企業との共同研究や地域貢献の面で企業等の外部ステークホルダーにアピールしやすいことも指摘している。

広島大学ならではの研究と組織的にかつ継続的な社会連携活動によって、広島で学んでいること、広島を代表する大学であるという自負心を育てること、あるいは地域社会に育てられ創発するマインドを高めること等につながり、このような環境を提供することは、「挑戦し、行動する人材が育つ」広島大学のアイデンティティの根幹に寄与するものと考えられる。


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