第13回中ノ三弥子准教授

バイオのつぶやき第13回
中ノ 三弥子 准教授

2016年7月5日

 逢うはずのないところで知り合いにバッタリってことありませんか?しかも日本ではなく海外で。そして「世界は狭いなあ~」って思うのです。私は同じ人で2回ありました。申し遅れました、私は、広島大学・先端物質科学研究科・分子生命機能科学専攻の「中の三弥子(ミヤコ)」と申します。広島大学に着任して7年目になる教員です。広島大学に着任する前は、オーストラリアのシドニーにあるマッコーリー大学で2年間ポスドク(博士号を取得後に研究する人)として働いていました。私の研究分野は、「糖鎖生物化学」です。糖鎖とは、ブドウ糖などの単糖が鎖状につながった分子で、動物や植物などに多く含まれています。最も有名な糖鎖と言えば、赤血球(細胞の1種)表面を覆っている糖鎖でしょう。この糖鎖を構成する単糖の種類やつながり方の違いでABO血液型が決定されているのです。この20年の間で、細胞表面の糖鎖が受精、分化、細胞の増殖、シグナル伝達、免疫、さらにはガンやウイルス感染など様々な生命現象に関わっていることがわかってきています。私は、大学4年生の頃から、糖鎖の構造解析(構成単糖の種類やつながり方を解析)を行い、その構造の違いと癌などの疾患との関連を調べています。そんな研究人生の中で、「世界は狭いなあ~」って思うことがあったんです。このコラムでは、そんな偶然の出逢いから親友そして研究者仲間に至るまでの話をつぶやきたいと思います。どうぞ聞いてやってください。

 

 博士後期課程の2年生の1年間、私はアメリカのボルチモアにあるジョンズホプキンス大学の研究室に交換留学生としていました。糖鎖化学では大変有名な研究室であったため、世界各国から様々な研究者が数週間から数カ月にわたって糖鎖を勉強しに来ていました。その中の一人でクロアチア出身の女性研究員と仲良くなり、夜まで糖鎖について語りあったり、ご飯に行ったり、買い物などに行きました。そして、ある日、彼女が、「今週末、ジョンズホプキンス大学のヨーロッパコミュニティーで知り合ったリジ(本名:エリザベス、オーストリア・ウィーンから語学留学のために数カ月滞在)と一緒にインナーハーバー(ボルチモアで最も有名な観光スポット)に行かない?」と誘ってくれ、私はリジが誰なのか知りませんでした(糖鎖研究とは全く無関係ということは聞いていた)が、面白い人だということで、行くことにしました。リジはとても気さくで、英語がイマイチな私に、時々、どこかで仕入れた変な関西弁を使い場を和ましてくれました。1カ月後、リジが「私、婚約したの。今週末、フィアンセがウィーンから来て、婚約パーティーを家でするから是非来てね」と言ってくれたので、友人と一緒にリジの家にいきました。「彼が私のフィアンセ、ダニエルよ。今、ウィーンのドリンク会社で勤務しているの。私がウィーンに戻ったら結婚するの」と紹介されました。糖鎖研究とは無関係な企業人であるダニエルとは、それほど話すこともなく、二人がウィーンに戻り結婚したと友人から聞いただけでした。それから5年後、私は博士号を取得し、日本の大学でポスドクをしていた秋、オーストラリアのケアンズで開催される大きな国際学会(参加人数約2000人)に参加しました。糖鎖研究を発表しているポスターのセクションを見つけ、ゆっくり1枚ずつポスターを見ていました。ポスターの前には、その発表者が立っていて説明してくれます。英語が苦手でシャイな私は、まずはポスターを見て、分からなかった発表者に質問するようにしていました。次のポスターに移り、その発表者の視線を感じながらもポスターを見ていました。一瞬、顔をあげたとき、発表者と目があいました。数秒の沈黙の後、「もしかして、ダ、ダ、ダニエル? え~、なんでここに居るの?」と尋ねました。ダニエルは結婚後、別の会社に就職し、そこでたまたま糖鎖研究を始め、この学会に参加したということでした。糖鎖研究とは無縁だったダニエルにケアンズで逢うなんて。世界は狭いと感じました。ダニエルは「リジも元気で、娘もできたよ」と話してくれましたが、今どこの研究所で働いているかは言いませんでした(多分言っていたのかもしれませんが、全く聞いたことがない研究所名だったので、私が忘れてしまったのだと思います)。それから1年後、私は再び海外で働きたくなり、その時のボスに糖鎖分析で有名な海外の研究室を紹介して頂きました。それが冒頭に書いたシドニーのマッコーリー大学でした。そこでもまた世界は狭いと思うことがありました。それは、私が日本からオーストラリアに渡った日、空港に迎えに来てくれていたのは、あのダニエルでした。「もしかして、ダ、ダ、ダニエル? え~、なんでここに居るの?」「マッコーリー大学の研究室で働いているからだよ。ミヤコと同じ研究室だよ」と。2回目の偶然の再会です。ダニエルは家族と一緒にウィーンからシドニーにポスドクとして働きに来ていたのでした。よって、シドニーに居た2年間は、ダニエルの家族共々(奥さんのリジとも)仲良くしてもらいました。彼らは、私の住む家を一緒に探してくれたり、家具を買うのを付き合ってくれたり、ホームパーティーに招いてくれたり、BBQ(オーストラリアではバービーと言う)に誘ってくれたり、海外に単身で住む私に大変親切にしてくれました。お陰で楽しいオーストラリア生活を寂しい思いをせず有意義に過ごすことが出来ました。今では彼らは、My Best Friendsです。

 先日、マックスプランク&理研のシンポジウムに参加しました。マックスプランクは、日本で言う理研みたいなドイツを代表する最大の研究所です。私は、今、理研の招へい研究員でもあるので、ベルリンで開催されたそのシンポジウムに研究成果を発表しに行ってきました。ダニエルもマックスプランクの研究員として参加していました。今はベルリンに住んでいるのです。シンポジウムが終わった翌日、日本に帰る飛行機が昼からだったので、朝食を食べに、ダニエルの家族(ダニエル、リジ、娘二人、おばあちゃん)と一緒に、ベルリンで有名なテレビ塔にいきました。

奥に見えるのがベルリンテレビ塔

奥に見えるのがベルリンテレビ塔

ベルリンテレビ塔での朝食 360度プレート

ベルリンテレビ塔での朝食 360度プレート

 塔の中ほどにある球体(高さ約200m)が、回転レストランで、20分間で360度回転しており、そこからベルリンの素晴らしい景色が一望できまし た。私は、360度プレートというベルリン名物が沢山乗ったプレートを、My Best Friendsとワイワイ話しながら頂きました。実を言うと、あまりにも嬉しすぎて楽しすぎて味はほとんど覚えていません。本当に連れて行ってくれてあり がとう。最後に記念写真を撮りました。また世界のどこかで会える日を楽しみにしてるよって思いながら。

 

リジと私とダニエル

リジと私とダニエル

 ダニエルは今、私の共同研究者の一人でもあります。このように、海外に行けば、色々楽しいことがあり、仕事もグローバルにできます。学生の皆様も、様々な制度などを利用して、海外に行ってみてください。そこで世界は狭いと思う素晴らしい出逢いがあるかもしれませんから。


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