第29回石田丈典講師

第29回石田丈典講師「『直感』について考える」
石田 丈典 講師

(2018年1月4日掲載)

第29回目のバイオのつぶやきは、「直感」をテーマにつぶやいてみたいと思います。

 先日、「精神と物質」*1という本を読んでいて、とても気になる一節がありました。ノーベル生理学・医学賞を受賞された利根川進先生が、ノーベル賞の授賞式でストックホルムに滞在していた時のエピソードです。

“ストックホルムに滞在中に、慣例として毎年行われるスウェーデン国営放送のノーベル賞受賞者による座談会に出席した折にも、「科学的直感の存在を信じるか」というテーマがでましたが、出席者全員がイエスと答えました。” (「精神と物質」*1より引用)

 その座談会では、その直感、またはセンスの良さというものがどこから来るかという疑問に対しては、明快な答えは得られなかったそうです。しかし、いい発見をするには、直感が大切だとこの本を読んで感じました。

 直感は、研究や創造性の必要な仕事にはとても重要で、新しい発想が生まれることと深く関係しているような気がします。また、「直感」と関連して「ひらめき」という言葉もありますが、お風呂やトイレでいいアイデアをひらめいたいう話を聞いたことがあります。あらためて、直感やひらめきについて考えると、自分は何も知らないことに気づきました。そもそも「直感」や「ひらめき」とはどういうものなのでしょうか?また、両者には違いがあるのでしょうか?

 そこで、「直感」や「ひらめき」について、脳科学の分野ではどのように捉えられているか調べてみました。脳科学者の池谷裕二先生の著書「脳には妙なクセがある」*2によると、脳科学の研究では「ひらめき」と「直感」の両者は区別して取り扱われているそうです。両者は、「ふと思いつく」という点では共通していますが、思いついた後にその理由を説明できる(言語化できる)場合は、「ひらめき」で、一方、本人にも理由がわからないが漠然と確信できる場合が、「直感」になるそうです。

池谷先生の上記の著書に、「直感」に関して以下のように書かれています。

“「直感」は、本人にも理由がわからない確信を示します。思い至ったまではよいのですが、「ただなんとなく」としか言いようがない曖昧な感覚です。根拠は明確ではありませんが、その答えの正しさが漠然と確信できるのが直感です。そして重要なことは、直感は意外と正しいという点です。単なる「ヤマ勘」や「でたらめ」とは決定的に異なります。” (「脳には妙なクセがある」*2より引用)

 これまでの経験で「ただなんとなく」と思ったことは、誰にでもあるのではないでしょうか。「ただなんとなく」という感覚が直感であるというのは、自分にとって新しい発見であり驚きでした。これまでは、直感はノーベル賞をとるような偉大な科学者にしか起こらないというような漠然としたイメージを持っていたからです。しかし、「ただなんとなく」という感覚が直感であるならば、誰にでも身近に起こっているということになります。自分の経験で考えてみると、あるアイデア(または実験)が、なんとなくうまくいきそうだなと思った経験は何度もあり、さらに意外とうまくいくことが多かったように思います。そう考えると、直感は、今までの経験や知識などの総和みたいなものなのかもしれません。頭の中で、これまでの経験や知識を総動員して情報処理した結果、うまく言語化できなかったものが「ただなんとなく」という感覚として浮かび上がってきたものが直感であり、そのため意外と正しいのかもしれません。

 ノーベル賞級のすごい発見につながるような直感を得ることは難しいかもしれません。しかし、ふと思いついた考えがなんとなく正しいかなと感じた時、それは直感である可能性が高いのではないでしょうか。明確な理由がないから、そのふと思いついた考えやアイデアを実行しないのはもったいない気がします。もし、明確な根拠や理由がなかった場合でも、“これは直感かも”と考えて試してみるのはいかがでしょうか?

 

参考文献

*1精神と物質—分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか、利根川進・立花隆、文藝春秋

*2脳には妙なクセがある、池谷裕二、扶桑社

 


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