量子生命科学セミナー 第10回



量子生命科学

日 時:2006年6月23日(金)14:35〜16:05

場 所:理学部E104室

講演題目: NMR化学シフトとその意義

講 演 者: 齊藤 肇 先生 (広島大学客員教授、姫路工業大学(兵庫県立大学)名誉教授)

概要:

 原子核を取り囲む電子によって外部磁場の遮蔽がおこり,共鳴周波数に化学シフトを生じさせる。化学シフトの発見は,serendipityとしてNMRの発見後まもなくなされ,NMRそのものを物理から,化学,生物学へとバトンタッチさせることにもなった。とはいえ,分子の高次構造を知る手段としての認識は,スピン結合定数,核オーバーハウザー効果などのパラメータにくらべてはるかに遅れ,その意義に理解が得られるようになったのは,比較的最近になってからである。これは,化学シフト値そのものが分子の揺らぎによる平均化をうけやすく,その値が高次構造を反映して変化するとの認識が困難であったことによる。固体高分解能NMRによる,固体状態のポリペプチド,線維タンパク質その他にコンホメーション依存シフトの存在の提唱(H.Saito, Magn.Reson.Chem.24, 835-852(1986))を嚆矢として,溶液状態のタンパク質においてもその存在が認識されるようになった。講義では,種々の核種における化学シフト範囲を明らかにし,化学シフト理論,固体NMRにおけるコンホメーション依存シフトの検証,溶液タンパク質データベースから,化学シフトの意義について述べる。これらの化学シフトデータをもとにして,線維タンパク質,膜タンパク質の高次構造の決定法についてふれる。また,アミロイド生成機構,15N化学シフトに

よる水素結合研究への応用や,等方化学シフトのみならずテンソル量としての化学シフトをもとにした,脂質二重膜中のペプチド構造や,極めて遅い化学交換速度の決定などについてもふれる。



量子生命科学セミナーは「ナノテク・バイオ・IT 融合教育プログラム(NaBiTプログラム)」の一環として、理学研究科で開講されています。「ナノテク・バイオ・IT融合教育プログラム」(NaBiTプログラム)は,広島大学大学院理学研究科および量子生命科学プロジェクト研究センターを母体として平成15年度からスタートしました。詳細は,http://www.nabit.hiroshima-u.ac.jp/ を参照してください。

(お問合せ先:相田美砂子(内7412))


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