第179回物質科学セミナー(4研究科共同セミナー:7月20日)



題名:Spring-8 BL40B2 における放射光WAXD/SAXS 同時測定システムの展開

講師:増永啓康(ますながひろやす) 氏(高輝度光科学研究センター)



日時:2007 年7 月20 日(金)17:00–18:00

場所:総合科学部 K313 号室



講演要旨:

高分子材料の物性は高次構造に大きく依存する。高分子材料の物性と構造との関係を明らかにするためには、Åからμ m までの幅広いオーダーの高次構造の3 次元情報を非破壊で且つ定量的に得ることのできるX 線散乱測定が非常に有用である。しかも、高輝度光源である放射光を用いることで、より速い構造変化の「その場」観測が可能となる。このような構造変化過程を観測すべく、通常は異なる散乱角度範囲の実験、すなわち広角X 線回折(WAXD) 測定と小角X 線散乱(SAXS) 測定を別々に行なう場合がほとんどである。

しかしながら、外部刺激や温度下における高次構造の変化は、例えば昇温時と降温時で相当のヒステリシスを示し、厳密に同じ試料状態をWAXD とSAXS の実験で再現しているとは言えない場合が多い。そのためにWAXD とSAXS を同時に測定する試みがなされてきており、さらには光散乱やラマン散乱などをも組み合わせた測定により、広い階層の構造変化を観測することが行われてきた。このような同時測定システムをユーザーに提供することは高分子化学の発展の上にも重要である。例えば放射光施設ESRF 及びESRF においては2 次元WAXD/SAXS 同時測定の可能なシステムが標準設備としてセットアップされている。残念ながら本邦では、PF 及びSPring-8 で2 次元WAXD/SAXS 同時測定システムを標準設備として揃えることは出来ていなかった。数多くのユーザーに同時測定の有用性を提供するために、本研究では高分子をはじめとするソフトマテリアルに対する「放射光2 次元WAXD/SAXS 同時測定システム」をSPring-8 40B2 ビームラインに標準仕様として構築することを試みた。こうして完成したシステムを用いた測定例として、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレンランダム共重合体の強誘電相転移における結晶格子とラメラ積層構造との関わり、延伸過程におけるポリエチレンの微結晶配向変化と高次構造との相関、など様々な系についてこれまで検討してきた。今回は、このシステムの概要を紹介するとともに、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)I 型の融点直下における結晶相転移について特に結晶格子内構造変化とラメラ積層構造変化との関わりに注目して検討した結果を報告する。



世話人:荻田典男(内6550)


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