第490回物性セミナー開催(5研究科共同セミナー:3月3日)



題 目 走査トンネル顕微鏡と放射光による原子スケール複合表面磁性研究

Atomic scale surface magnetism studied by STM and synchrotron-based techniques
講 師 宮町俊生 (東京大学物性研究所)
日 時 2016 年3 月3 日(木) 16:30-
場 所 理学研究科C212
要 旨 走査トンネル顕微鏡(STM)は試料表面の構造・電子状態の原子分解能観測に加え、試料−STM 探針間のトンネル電流や電場を用いて原子スケールで構造・電子状態の操作・制御も可能な唯一の手法である[1]。STM 探針に磁性材料を用いることによって(スピン偏極STM)、試料表面の磁気情報も抽出可能である[2]。本セミナーでは、レアメタルフリー永久磁石として元素戦略の観点から応用が期待されている窒化鉄単原子層の極低温STM および放射光X 線吸収分光/X 線磁気円二色性(XAS/XMCD)測定の結果を紹介し、STM に放射光分光測定を相補的に組み合わせた原子スケールでの複合磁性研究が、表面磁性を根源的に理解する上で強力な手法となることを示す。

窒化鉄はFe16N2 やFe4N の組成比で高磁気異方性や室温強磁性を示すことがバルクで知られているが、単原子層では磁気モーメントが理論値の半分程度しか得られないことが問題になっていた。磁気モーメント低下の原因として、原子スケールでの欠陥に起因する電子・ 磁気状態の空間的乱れが挙けられるが、高い空間分解能て表面構造と電子・磁気状態を評価可能な手法の欠如からその詳細は明らかになっていなかった。

これまでに我々はCu(001)単結晶基板上のFe4N 単原子層の極低温STM 測定によりその構造および電子状態の詳細を原子分解能で調べ[3] 、従来の作製方法では原子欠陥が多数存在することを明らかにした。成膜条件の厳密制御により原子欠陥の少ない高品質なFe4N 単原子層の作製してUVSOR BL4B にてXAS/XMCD 測定を行った結果、先行研究と比較して磁気モーメントの大幅な増大が観測された。得られた実験値は第一原理計算から見積もられた理論値とよい一致を得た。原子欠陥周りのSTM 分光測定から、原子欠陥が周囲のFe4N 単原子層の電子・磁気状態に多大な影響を及ぼしていることが示唆される[4]。

[1] T. Miyamachi et al., Nat. Commun. 3, 938 (2012).

[2] T. Miyamachi et al., Nature 503, 242-246 (2013).

[3] Y. Takahashi et al., Phys. Rev. Lett. 116, 056802 (2016).

[4] Y. Takahashi et al., in preparation.
担 当 木村昭夫 (理学研究科)



*5 研究科共同セミナーの認定科目です


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