竹澤 晃弘准教授にインタビュー!

竹澤 晃弘准教授にインタビュー!

ものの最適な形をコンピュータでつくりだす研究。

構造最適化によって、より良いものづくりを追求。理論から応用まで幅広く。

竹澤 晃弘准教授

 私の現在の研究キーワードは、「トポロジー最適化」、「輸送機器」、「3Dプリンタ」の3つです。「構造最適化」とはコンピュータでより良い形を生み出すという技術で、より良い性能をより軽量に、あるいはより安価に実現することをめざしていきます。「輸送機器」とは自動車や船舶等のいわゆる乗り物で、広島県の基幹産業です。さらに「3Dプリンタ」は構造最適化で生まれた複雑な構造を実験するのに不可欠な技術です。
 研究の流れはおよそ次のようなものです。まず、コンピュータでものの性能を評価する「シミュレーション技術」によって対象物を評価します。すると、その結果からコンピュータが、この値をもっと良くするには、この部分のこの形状を変えればよいというようなことを判断して、新しい形を描き出します。

次に、そうしたシミュレーションの結果をもとに、3Dプリンタによる成型を行います。さらにその出来上がった実物を使ってさまざまな実験を行い、コンピュータが導き出した結論の実証に挑みます。私の研究室ではここまでを一括して行っています。
 このように、シミュレーションから実験に至る一連の内容を行っている研究室というのは、珍しいスタイルであると自負しています。研究分野自体もそれほど大きくはないので、希少かつ最先端の研究分野と言えるでしょう。
 このスタイルに行きつくまでには、シミュレーションの際に用いられるアルゴリズムに関する研究を中心に行ってきたのですが、現在は、そうした技術を使った応用研究へも力点を置いて、他大学や企業などとの共同研究も行っています。

 その具体例のひとつが、3Dプリンタでつくるポーラス(多孔質)材料の開発です。ポーラス金属は、動物骨内部など自然界に多く見られる、軽量高機能の材料として従来から注目されてきましたが、3Dプリンタが得意とする構造ということもあり、現在ブームが再燃しております。私の研究室では、こうしたポーラス材料の内部構造を「トポロジー最適化」で設計し、従来の鋳造や鍛造、切削加工では製造が難しかった複雑形状も造形可能で、極めて自由度の高い製造手法として注目を集める「3Dプリンタ」で忠実に造形し、軽量で高性能なポーラス材料を実現する研究開発を行っています。

材料

めざすのは常に新しいことへの挑戦。いずれは社会で活用されるものにつなげたい。

 私が実験まで自分のところでやるようになって、発見したことや良かったと思うことがいくつかあります。以前、シミュレーションだけを行っていた頃には、実験というのは非常に敷居が高いものでした。しかし、3Dプリンタをきっかけに思い切って取り組んでみると、もちろん大変なこともありますが、自分で形にして評価をすることでパソコンの中で動かしてみるだけでは見えない課題が見えてくる、非常に大きな収穫がありました。これこそが、実際に作って実験まで行うことのメリットだと思っています。研究に際しては、なるべく新しいことをやりたいと思いますから、いまのスタイルはそうした意味でも、得るものが大きいと感じています。
 研究の醍醐味という面でも変化がありました。今までは、新しいアルゴリズムを生み出して、それが論文に採択されてというようなプロセスを楽しいと感じていましたが、最近では、それにシミュレーションで意図したとおりの結果が実験で出た喜びが加わりました。さすがに予想外の結果を発見するというような研究とは違って、コンピュータがある程度答えを出していて、実験でその答え合わせをするというような感じなのですが、それでも、誤差の影響なども加味したうえで、コンピュータが設計したとおりの性能が出ていたりすると、非常にうれしいものです。
今後も、手法の開発から応用までを幅広く研究しながら、新しい最適化の手法を生み出したり、3Dプリンタを活用して新しい構造をつくり出していきたいと考えています。そして、自分のつくった技術が、身近な製品、例えば自動車や工業製品などに使われるように頑張っていきたいと思います。
 さてここで、3Dプリンタについて少し触れておきましょう。私はこの3Dプリンタという技術が大好きです。先に述べたように、これは3次元で複雑な形を自在につくれる技術で、従来の製造手法では一般的な形から脱却できないところがあったのですが、その制約を取り払う大変自由度の高い製造技術と言えます。また逆に、自由なことを許されると、どうつくってよいか分からないというようなことも起きていますので、コンピュータの力も借りながら、本当に良い形を生み出す技術を追求していきたいと考えています。この3Dプリンタですが、研究で主に使用するものは金属材料を使用するもので、これまでは1億円超もするため手が出なかったのですが、価格も下がってきておりますので、将来的には大学で持ちたいという野望があります。

竹澤 准教授,学生
竹澤 准教授

大学で自らを高めて社会へ挑もう。希少な研究を経験する場を提供したい。

 私が広島大学で研究生活をスタートさせてから丸10年が過ぎました。いまの研究職に就くまでには少し回り道をしています。私は元々、修士修了後には一般企業に就職したのですが、学生のときの研究のおもしろさがどうしても忘れられず、大学の研究職へと舵を切ることにしました。この進路変更が実現できたのは、もちろん広島大学の先生方を始めとした沢山の方に助けて頂いたことも大きいのですが、何よりも大学4年時と修士2年間の人並み外れた努力のお陰だと思っております。
 そんな経験もあって、卒業生たちが就職した後も活躍をし続けていけるか、たとえ職場が合わなかったとしても転職ができるだけのスキルを身につけていけるかということには非常に関心を持っています。そして、学生の皆さんにも、大学での過ごし方について、よく考えていただきたいと思うのです。合格してこの田舎のキャンパスでのんびり過ごすというような気持ちではなく、大学ではむしろ、厳しい社会に飛び込むための自己防衛策として、自身のスキルを高めて将来良い仕事をしていけるように備えていくことが必要だと私は感じています。ブラック企業という言葉が最近話題になったように、一度大企業に就職すれば一生安泰という時代ではありません。高い技術とそれに対する誇りは何よりも自分自身を守ってくれます。

竹澤 准教授,学生
研究室のみなさん

 そうした意味で、私どもの学科・研究科にはぜひとも、厳しい環境に身を置いて、自分を高めたいという心構えを持って来て欲しいと思っています。ただ、学問は決して単なる苦行ではなく、一生懸命取り組めば必ず面白さがわかります。大学での研究は、よそでは経験することがなかなか難しい希少な体験です。自身の興味の方向性とも相談しながら、ぜひ志を持った若い皆さんに、この研究の場に参加して欲しいと願っています。

 

 

竹澤 晃弘 准教授
Akihiro Takezawa
構造設計研究室 准教授

2003年3月 京都大学 工学部 物理工学科 卒業
2005年3月 京都大学 工学研究科 精密工学専攻修士課程 修了
2005年4月1日~ 2007年3月31日 ファナック株式会社 研究員
2007年4月1日~ 2009年7月31日 広島大学 大学院工学研究科 助手
2009年8月1日~ 2010年3月31日 広島大学 大学院工学研究科  助教
2010年4月1日~ 2010年8月31日 広島大学 大学院工学研究院  助教
2010年9月1日~ 2017年3月31日広島大学 大学院工学研究院  准教授
2017年4月1日~ 広島大学 大学院工学研究科 准教授


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