森川 克己准教授にインタビュー!

森川 克己准教授にインタビュー!

生産システムを中心とする社会システムの効率的運用に関する研究。

製造企業の経営を効率化する、さまざまな手法の開発に挑む。

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 私は、経営上の諸問題に工学的手法でアプローチする「経営工学」の視点から研究しています。我々の生活を支える多様な製品を作り出している製造企業を対象として、さまざまな生産システムの効率化を図っていこうとするものです。ポイントとしては、「無駄をなくす」ということが挙げられます。無駄をできるだけ取り除いて、人やシステムが持っている価値を100%引き出せるようなやり方を見つけるというのが、我々の目指しているものと言えるでしょう。

 例えば、少しでもエネルギーを節約する、少しでも短い時間でできるようにする、より少ない在庫でうまく生産できるようにする、できるだけ少ない人でやりくりする、といった観点から「効率化」を図っていきます。その際に駆使するのは、数学や情報、ソフトウェアなどです。データに基づく議論をしたり、数学を用いて良い仕組みを見つけだす、ソフトを使って解析やシミュレーションを行うといった研究手法を取ります。

 ではここで、研究内容を少しご紹介しましょう。研究の大きな柱のひとつにあるのが、「スケジューリングの支援と自動化」です。スケジューリングというのは、いわゆる予定を立てることです。私の研究分野では、「生産スケジュール」というものがよく扱われます。注文の納期に遅れないようにしながら、生産環境の複雑な制約条件を満たし、さらには、個々の作業者や機械に無駄な待ち時間が生じないような生産スケジュールが、多くの生産現場で求められています。しかし、その作成は、注文数、機械台数、作業者数が多くなるほど難易度も高くなる場合が多いのです。

 そこで、私どもの研究では、おおまかな生産スケジュールを自動的に生成し、その後、スケジューリング担当者が現場の状況や細かい制約などを考慮して、そのスケジュールを対話的な操作で修正していくという方法に着目しています。複雑な条件を考慮できるスケジューリング手法の開発や、スケジューリング担当者が使いやすい仕組みの検討など、さまざまな角度から、実用性のあるスケジューリング支援システムについて研究しています。

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複雑な事象をモデル化やシミュレーションによって解明しようとする試み。

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 もうひとつ、研究の一例をあげておきます。それは、「マテリアルフローコントロール」というものです。なんだかカタカナがたくさん並びましたが、あまりよく知られている言葉ではないので、少し解説しましょう。

 まず専門用語について。「マテリアルフロー」とはモノの流れのことです。材料は工場の中で何度か処理をされて製品へと変わっていきますが、その流れを制御(コントロール)することで、少ない在庫で効率の良い生産を実現することを目指す研究です。もう少し具体的に説明しましょう。

 先に紹介したスケジューリングでは全ての情報が分かっているとしたもとで、いつ何をするかという具体的な計画を作成します。実際の環境では、処理に要する時間がはっきりしなかったり、新しい注文が急に到着することが多いなどの理由で、事前に詳細なスケジュールを立案しにくい場合があります。そのような状況では、目の前にある仕事の優先度を何らかの方法で定め、優先度の高いものから処理していくという仕事の進め方が思い当たります。一見合理的に思えますが、優先度の決め方が難しいですし、目の前に仕事があってもあえてそれを処理しないことが適切な場合もあります。生産システムへの仕事の投入のタイミング、処理経路、それぞれの機械での処理の優先度、を決定することがマテリアルフローコントロールなのですが、その最適化を考えるのは大変難解です。

 そこで、こうした研究を進める際には、対象を絞って簡単化して考えるというのが主流になります。実際の生産システムは多種多様で複雑なので、細部は簡単化、簡略化して、抽象的なモデルをつくる「モデル化」や、コンピュータ上でソフトウェアやデータベース等を使ってシミュレートする「シミュレーション」などをおこない、特定の条件下での振る舞いを調べるといったことを積み重ねていくことで、効果的なコントロール方法を見つけ出します。

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 このような問題は、人間が含まれるサービス分野のシステムにも見受けられます。たとえば、体調を崩して病院に行くと、すでに多くの患者さんが待っていたという経験をした方もいらっしゃるでしょう。患者さんの待ち時間を短くするという観点からは予約の仕組みが有効ですが、急患にも配慮できる仕組みでなければ受け入れられないでしょう。患者さんの視点だけでなく病院の視点からも考える必要があります。人間が含まれるサービス分野も奥の深い研究課題が多くありますが、マテリアルフローコントロールの考え方を応用しながら、いくつか研究しています。

SDGsにもつながる大きな夢の実現に向けて、これからもシステムを考えていく。

 研究のスタート地点となったのは、広島大学4年生のときに配属された「生産工学」研究室。「生産システム工学」研究室の前身ですね。学部卒業とともに就職を考えていましたが、ご指導いただいていた先生に進学を勧めていただき、ご縁があってそのまま研究を続け、すでに人生の半分以上をこの研究室で過ごしています。

 我々の研究は、製造企業などで効率を高める仕組みの実現に貢献するものであり、効率的な生産や物流は、商品・サービスの価格を抑え、地球環境への負荷を減らし、持続可能な社会の構築を支えます。こうした研究を通して、生産システムを含んだ、「人と地球に優しいシステム」を実現することが私の夢です。

 つまり、ものづくりの現場を考える研究というのは、SDGsが叫ばれるなかで、その17の目標にあることをずっとやってきているということになるんですね。研究には苦しみながら取り組んでいるというのが実情ではありますが、実際の企業の方の声に刺激を受けたり、込み入ったプログラムが完成して期待通りの挙動をしてくれたときの喜びを糧としながら、これからも懸命に取り組んでいきたいと思っています。

 最後に、ひとこと――。私たちと一緒に、生産システム工学研究室で学びませんか。

 経営工学を学ぶことのできる大学や研究室は、実は限られていると言っていいと思います。そうしたなかで、当研究室のスタッフ3名は、それぞれ異なる大学・大学院で経営工学を学びました。この3人が協力することで、幅広い教育研究を実現できていると自負しています。

 製造の現場の効率を考えるというとなかなかイメージしづらいかもしれませんが、普段、気付かずに使っているものを改めて考えてみると、いろいろな仕組みが裏で動いています。そして、そこの何かを見直すともっと良くなる可能性があるんですね。幅広い視野でものを見たり、見方を変えたりする力は、どんな人にも必要だと思います。

 卒業生は製造業やサービス業を中心に、公務員や大学の教職員など幅広い分野で活躍しています。また、経営工学分野の知識には、即戦力として役立つ知識のみならず、企業や組織で管理運営する立場になったときに役立つ知識も含まれますので、将来的にも、学んで良かったと思える学問分野のはずです。

 卒業論文や修士論文の研究指導に際しては、問題を俯瞰的に捉えてその本質を見抜き、解決策を考え抜くという力が身につくようにと心がけています。こうした力はどんな分野に進んでも、大いに生かせるものです。ぜひ多くの皆さんのご参加をお待ちしています。

 

森川 克己 准教授
Katsumi Morikawa
生産システム工学研究室 准教授

1985年3月 広島大学 工学部第二類(電気系)卒業
1987年3月 広島大学大学院  工学研究科 博士課程前期システム工学専攻 修了
1987年4月~1998年3月 広島大学 工学部 助手
1998年4月~2010年3月 広島大学 工学部 助教授
2010年4月~ 広島大学大学院 工学研究科 准教授
2020年4月~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授

 


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