定金 正洋教授にインタビュー!

定金 正洋教授

新規ポリオキソメタレートの合成とさまざまな技術応用の研究。

新しいポリオキソメタレートの合成への挑戦と構造解析、そして応用へ。

定金教授

 私がメインでやっている研究は、「新規ポリオキソメタレートの合成と応用」というものです。ポリオキソメタレート(POM)は簡単に言うと金属の酸化物のこと。前周期遷移金属と呼ばれるもののうち、5族(バナジウム、ニオブ、タンタル)および6族(クロム・モリブデン・タングステン)のオキソ酸(酸素を含む無機酸)アニオン(陰イオン)は、酸性条件下で縮合して、ポリオキソメタレートと呼ばれるアニオン性酸化物分子を作ります。

 このPOMは、①多彩な構造を持つ②酸性が強い③酸化還元能力が高い、といった特徴を持つことから、酸触媒や酸化還元触媒として使用できる優れた材料と言えます。私の研究室では、実際に工業的にも活用されているこのPOMを研究対象として、新しい化合物を合成する、その合成がちゃんとできているかどうか構造を分析する、さらにはその新規化合物を応用へと展開する、といったことを行っています。
なぜこうした研究をやっているのかというと、ひとつには、いままでにない新しいものをつくりたいから。もうひとつは、応用によって研究成果を世の中に役立てたいからと言えるでしょう。
 最近もいくつかの新規化合物の合成に成功していますが、POMの化合物は前述したように触媒材料に応用できます。「触媒」というのは、それ自身は変わらないけれども、ある反応の速度を上げたり、反応に必要な温度を下げたりするような働きをするもの。一例としては、工場などで化成品をつくるための触媒としての利用。これを使うことで反応が早く進んで安く簡単にできるようになる訳です。例えば、総合化学メーカーが高分子をつくるのに使ったり、 合成繊維・合成樹脂メーカーがPMMA(Poly Methyl Methacrylate=ポリメチルメタクリレート樹脂)という透明なプラスチックの原料のさらに原料になるようなものをつくるのに使ったりしています。また、POMの化合物は重いので、この特徴を利用してウイルスにつけてやると、足などの写りにくい細部まで鮮明に撮影できるようになるといった、ウイルス染色剤にもなります。
このように、さまざまな用途に応用できるようなものを、新規化合物の合成とともに開発しています。

乳鉢
試料
研究風景

見つけた!できた!分かった!が楽しい。誰にもつくれないものをつくるのが夢。

試料2
指導風景

 研究室で生み出された新しい化合物というのはもちろん世界初のもの。2015年にはNature系の本に論文掲載されたこともあります。しかし、そういったまったく新しいものを生み出すというのにはもちろん苦労も多くて、たまたま見つかることもあれば、狙ってうまく成功したり、過去の研究から派生してできたり。その道筋はいろいろです。
研究するにあたって目指しているのは何かというと、僕たちは、「いい触媒をつくりたい、いい染色剤をつくりたい」というのが一番で、そこを常に意識してモノをつくっていると言えます。つまり、応用を意識することで、これだったらこういう風に触媒としていいだろうから、こういうものをつくりたい、という風に考えてのモノづくりという訳です。
 僕たちの研究の応用例としては、染色剤の試作品が実際に販売されていたり、企業さんとの共同研究を通して、企業さんの研究に貢献できている事例があります。そうした社会での応用というのはやはり、工学部、工学研究科の研究にとってかなり重要なものと言えますね。

 また、研究の独自性みたいなところを挙げるとすれば、いろんな人と組んでやっているというのが特徴的と言えるかもしれません。同様の研究をしている人たちは、特許なども絡んでくるので研究室単独でやるところが多いんですが、僕のところではそういうこともあまり気にしないで、協力を仰ぐんです。例えば、応用というときには、自分のところでつくったものをいろんな人に配ってやってもらうとか、ある測定技術が欲しいときには、それを持っている人に頼むとかそこに出かけていくとか。逆に依頼されたことを引き受けることもありますね。そういう協力関係は国内にとどまらず、外国の人たちともさまざまな形で一緒に組んでやるという、いい関係が築けています。
 研究をしていて楽しいと思えるのはやっぱり、新しい化合物が出てきたときや、その新しいものが何なのかが分かったときですね。その楽しさを求めて、今後もチャレンジを続けていきたいと思います。“誰にもつくれないものをつくりたい”というのが、生涯追い求める夢だと思いますね。

世の役に立つ化学をやりたいなら工学部へ。失敗を気にせず続けていこう。

取材風景

 僕が化学の道に進もうと思ったのは、高校生の時でした。父親が理科の先生をやっていたこともあって、たまたま家にあった科学雑誌を読んだんですね。ペラペラ見ていくと、新しい材料をつくって世の中に貢献するというような記事があって。そのあたりからですね。化学がいいかな、化学で材料をやろうと。

 それから大学に進んで、真面目に勉強して、修士を出てそのまま就職。でも1年弱で辞めてしまってドイツへ行ったんです。その後、アメリカの大学にも行きました。そんな風に、ポスドクなどで国内外で経験を積んでいくうちに、そんなに真面目じゃなくてもいいなぁと思うようになりました。
 高校生の皆さんが大学で化学をやりたいという場合には、大きく3つ進路があります。工学部、理学部、あるいは教育学部。その3つの中で、一番応用も考えて、みんなのために使える、役に立つっていうことを考えて化学をやるなら工学部です!卒業後の就職も、うちの学生たちはかなり順調に決めていますね。化学を出て化学系の会社に入りたいというんだったら、特に問題なく決まるようです。広島大学の学生さんというのは結構真面目な人が多くて、そういう意味でも企業からの評価が高いように思います。

 私が広島大学に来て8年が経ちますが、日々、真面目な学生さんたちを見ていると、せっかく若いんだから、もう少し変わったような人がいてもいいのでは?と思う時もあります。しかし、それも広島大学の気風というのかな。研究室の雰囲気はとても明るくて楽しい感じですから、どうぞ心配せず、また気負うことなく入ってきてください。

研究室メンバー

 そして、応用化学ばかりでなく、実験や研究というのはほとんどが失敗です。だから、研究者になろうとするなら、実験が好きで、実験がうまくいかなくても気にならないような、そういう鷹揚さもあるような人が向いているんじゃないでしょうか。
また、僕のように、いろんな人に協力してもらうことも、道を拓いていくためにはプラスになります。研究成果が社会へつながっていくように、研究もまたひとりではできない。そういう意識も大事だと思いますね。

 

 

 

定金 正洋 教授
Masahiro Sadakane
環境触媒化学研究室

1991年3月 岡山大学 工学部 精密応用化学科 卒業
1993年3月 岡山大学 大学院 工学研究科博士前期課程(応用化学専攻)修了
1993年4月1日~1994年3月15日 株式会社クラレ 総合職社員
1996年4月~1998年5月 ボン大学 化学科  博士課程修了
1998年7月1日~2001年3月31日 ジョージタウン大学 化学科 博士研究員
2001年4月1日~ 2001年11月30日 理化学研究所 有機金属化学研究室 基礎化学特別研究員
2001年12月1日~2008年12月31日 北海道大学 触媒化学研究センター 助教
2010年10月1日~2014年3月31日 JST さきがけ研究員
2009年1月1日~2019年3月31日 広島大学 大学院 工学研究科 准教授
2019年4月1日~ 広島大学 大学院工学研究科 教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 教授


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