村松 久圭 助教にインタビュー!

人と共存・協働する新たなロボット開発に関する研究。

ロボットの「動き」を創る。

 みなさんは「ロボット」をお持ちでしょうか?もしかすると、お掃除ロボットをお持ちの方がいるかもしれません。では、お掃除ロボット以外のロボットで身の回りにあるロボットって何でしょう?これ、意外と思いつかないと思います。ロボットという言葉は映画や漫画、アニメなどで身近に感じるのですが、ロボットの存在自体は全く身近ではないのが現状です。近年、確かに人の代わりに作業するロボットは増えてきたのですが、未だ人と触れ合えるロボットというのは我々の周りには無いんです。

 ロボットの動きを考えるとき、その力を考えることがとても重要です。これはロボットの位置・速度・加速度どれもが力によって決定するためです。精密な位置を実現するために力をどうすべきか?速い動作を実現するために力をどうしたらいいか?安全な加速を実現するため力をどうしたらいいか?そして、これらに加えて優しい力加減をどう両立できるか?を考えることになります。こういったあらゆる運動を考えるにあたり、物理、数学、そして機械力学の知識が重要になります。

 そうしたなか、私たちは人と触れ合い共存できるロボット実現のための「人と調和するメカトロニクス技術の創出」に取り組んでいます。そこでは、ロボットの運動制御や設計開発、人間とロボットのインタラクション(触れ合い)解析、ロボットを用いた人間支援の研究を通して、精密かつ安全なロボットの運動や機構の実現およびそれらの解明に日々取り組んでいます。

これまでにない動きを実現するメカトロニクス。

 私の特徴的な研究として、運動の周期性と非周期性に着目し、これまでにない周期/非周期のロボット動作を実現するロボットの運動制御研究があります。従来ある研究の多くは位置・速度・加速度・力そのものをどのように制御するか?もしくは、空間ごとにその制御をいかに切り分けるか、といった研究がほとんどでした。一方、私の研究はロボットの状態の時間的な性質である周波数に着目し、ロボットの状態は周期的なものと非周期的なものが入り混じった状態なのではないかと考えています。そして、私はこの周期的なもの(準周期)と非周期的なもの(準非周期)が入り混じった周期/非周期状態という概念を新たに提唱しています。この周期/非周期の概念に基づき、これらを分離・制御することにより、ロボットが得意とする精密繰り返し運動と人間との突発的な接触に対して柔軟な動作を両立することにも成功しました。

精密に動きつつ優しく人と触れ合うロボット

 近年の新たな取り組みとして、ロボットの機構からこれまでにない動きを実現する研究にもチャレンジしています。それは複数の移動手段と複数の腕を組み合わせたロボットの開発研究です。これまで車輪で走行する、歩く、物を持つ、といった、それぞれの機能を有するロボットは開発されてきましたが、これらを全てひっくるめたロボットはありませんでした。そして、人や動物を模したものではなく、世の中に生物として存在しないような形状でもよいので、これらを全部詰め込んだ多様な機能を備えたロボットの開発をおこなっています。そして、機構と制御の双方の観点から新たな運動機能を創出すべく研究開発に取り組んでいます。

移動型多腕ロボット「ARMS」

研究者の自由さに憧れて。研究で誰かを幸せにする。

 勉強やテストは誰かが求める答えや与えられた答えを模索する作業ですが、研究は自分のアイデアで自由に、自分や社会が求める答えを創り出すことができるんです。これが非常に面白く、研究者という生き方の自由さでもあると思っています。例えば、アイデアを考える際には、人がやっていないおもしろいことに挑戦しようと想像をめぐらせます。当然、工学ですから、それが何の役に立つのかということも考えます。次に、そのアイデアを数式に落とし込み、物理や数学に基づき基幹となる理論を確立します。しかし、現実のすべてを数式に落とし込めるわけではないので、数式では組み取りきれなかった部分を実験で確かめます。これらを通し、自分の自由なアイデアから考えた理論が実験によって現実になり、ロボットを見たり触ったりすることで、夢に一歩近づいたことを実感できる研究はとても楽しいですね。研究者となってからは、自分の研究を創るおもしろさや、常に研究だけを考え、研究に熱中できる毎日に、大いにやりがいを感じています。

 工学研究の意義は、夢と現実の橋渡しをおこなっていくとことであると考えています。「夢やアイデアを数式や設計で理論的に取り扱い、実験により現実化する」という日々の取り組みを重ね、少しずつ夢でしかなかったことを現実すべく研究へ取り組んでいます。そして、誰かの役に立ち、誰かを幸せにする研究成果の実用化を目指しています。

 研究では自身が解決する問題を適切に設定することが重要です。そして、良い問題設定には独創性とオリジナリティが不可欠です。勉強により問題の解き方については賢くなれますが、適切な問題設定には自身の個性や感性を豊かにすることも必要となります。そこで、学生の皆さんには、勉強に加えて、何か好きなものを見つけて、自分だけの世界観や視点を磨いてほしいと思います。そして、自由な発想で新しい発見へチャレンジしてください。

村松    久圭    助教
Hisayoshi Muramatsu
機械力学研究室

2016年3月 慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 卒業
2017年9月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 前期博士課程 修了
2020年3月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 後期博士課程 修了
2019年4月~2020年3月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2020年4月~2020年6月 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2020年7月~  広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 助教


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