日野 隆太郎准教授にインタビュー!

日野 隆太郎准教授にインタビュー!

金属材料の変形挙動を解明し最適な成形技術を追求する先進的研究。

最適な金属材料の塑性加工技術を実験・モデル化・検証によって導き出す。

 身の回りにあるさまざまな金属加工製品。私の研究室では、そうした金属材料を中心とした各種材料の弾塑性変形に関する研究を行っています。基礎となるのは、「弾塑性力学」および「材料科学」という分野です。

「弾塑性」というのは、弾性と塑性という2つのことばを合わせたものです。「弾性」は、バネを引っ張って手を離すと元の長さに戻るように、変形が元に戻る性質のこと。

また、「塑性」は、バネをうんと引っ張ったときに伸びきった状態になりますが、そのように変形が元に戻らない性質のことを言います。鉄鋼やアルミなど、身近にある金属材料はどれもこの「弾塑性」の性質を持っており、金属製品の多くは、こうした金属材料の変形特性を利用して成形されています。

 金属の成形加工法の代表例が、この塑性変形を利用した「塑性加工」です。自動車のボディやジュースの缶など、この加工を用いた工業製品は身の回りにあふれています。それだけ、塑性加工技術は重要なものであり、更なる進化が求められているものと言えるでしょう。
 例えば、自動車のボディは、塑性加工のひとつである「プレス成形」という方法で加工されます。これは、一般的には鉄板と呼ばれている鋼板を金型で挟んで変形させる加工法ですが、加工の際にはさまざまな問題が起こります。変形の途中で割れたりしわが入ったりして使い物にならなくなる、そして、最もやっかいなのが「スプリングバック」という現象です。前述のように、金属材料はすべて弾塑性、つまり、ばねの性質を持っているので、ばねと同様に、変形させた後には元に戻ろうとします。このことをスプリングバックと呼んでいます。この現象は変形の際に必ず起こるのですが、その起こり方がひどいと、設計した通りの形のものができなくなります。そこで、私の研究室では、これらの問題が起こるか起こらないかを予測するさまざまな技術や講じるべき対策などを求めて、最適な加工技術を明らかにするという研究をしています。

 「塑性加工」の際に、材料をどれくらい変形させたら元に戻らなくなるか、また変形させるためにどれくらいの力が必要かは、変形の状態によって変わってきます。中学・高校では、ばねの伸びはばねにかかっている力に比例すると習いますが、塑性変形ではそう単純ではありません。材料が変形する際には、変形に関係するさまざまな機械的性質というものがあり、例えば伸び・縮み(ひずみ)と力(応力)の関係を調べて機械的性質を明らかにし、そうした変形挙動を予測できるような材料モデルを確立することが必要になってきます。そのために、この研究室では、いろいろな実験装置を使って調べ、理論を考え、検証するといった一連の研究をおこなっています。

 実は、金属板材の変形挙動や破壊に関する多種多様のデータを全部ひとつの研究室で取得できるというのは、日本中を見回してもなかなかありません。そのようなことが可能な研究室は国内では十指に満たないのではないでしょうか。そういった意味でも、自分たちが調べたい機械特性を得るためには、どういう実験をして、その実験にはどういう装置が必要なのかといったことも併せて考え、独自の実験装置で独自のデータを取るというところに、この研究室の大きな特長があると言えるでしょう。

図1/研究概要と実験結果の一例

自動車業界からも求められている研究。インクリメンタル成形の研究も。

 私たちが扱っている金属材料は、最も多いのが高張力鋼板、次にアルミ、ステンレス、マグネシウム、チタンなど。非常に強度の高い高張力鋼板を多く扱うのには、理由があります。
 

 例えば自動車業界では、衝突安全性を向上させたり、自動運転技術を導入するなど、著しい技術の発達が見られます。そういった自動車の機能・性能を向上させることによって、実はどんどん自動車は重くなっていきます。そうすると当然、燃費が悪くなってしまうため、安全性を保ちながら軽量化する、あるいは、少なくとも重くならないようにするということが強く求められているのです。
 そのために取るべき方向性は大きく2つあります。1つは、材料の量を増やさずに強さを上げるというもの。

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 例えば、自動車のボディに使われる鋼板の厚みを増やさず、材料の強度を上げていく訳です。そしてもう1つは、材料自体を軽くするというもの。これは、マルチマテリアル化と呼ばれるもので、従来、鋼板だけで作っていたものを部分的にアルミやFRPという繊維強化プラスチック材料などに置き換えるというやり方です。この2つのうち、コスト的に有利なのは前者であることから、強度の高い鋼板の使用される量とその強度のレベルはいずれもどんどん上がっているのです。ところが、鋼板の強度を上げると、非常に厄介な問題が起こってきます。それは、材料の強度を上げるほど、割れやすくなるということ。そうすると、いままで普通の鋼板でできていた部品が作れないということになります。
 そのため、従来の技術とは違う工夫が必要になってきます。まずは、どれくらいまでなら成形でき、どの程度変形させると割れてしまうのかを予測できるような材料モデルと割れ予測理論を作る必要があります。加えて、金型の形や工程設計等をどのようにすれば割れずに成形できるのかを調べていくことも必要です。高張力鋼板を使った研究のベースには、このような産業界からの要請があると言えます。

 さらに、いままでお話ししたような研究に加えて、「インクリメンタルフォーミング」に関する研究もおこなっています。これは少々特殊な世界になりますが、多品種少量生産に使えるような新しい技術で、1990年代あたりから日本で研究が始まりました。加工のやり方はというと、固定した金属板の裏側に棒状の工具を押し当て、その棒を3次元的に動かしていくと、その棒の軌跡に沿って、板材が膨らんでいくというもの。この方法は、工具の動かし方を変えるだけで、さまざまな形のものが金型を使わずに成形でき、プレス成形ではできないような変形をさせることができるという大変興味深い成形技術です。

 私たちの研究室では、大きくこの2つの金属成形技術についての研究を進めています。

実験と理論を両輪として進む、ものづくりの進化とともにある先進の研究。

 お話ししたような塑性加工、プレス成形の分野は、成熟した技術であるように見られていて、大学で研究するような問題はあまり残っていないのではないかといった見方をされることもあるのですが、実際には、工業製品の機能・性能がどんどん進化する中で、新たな問題や研究テーマがどんどん出てきています。従って、ものづくりの国である日本が世界で勝負をしていく限りは、私たちが手掛けているような研究が必要になってくると考えます。そうした意味で、実際にものを作る現場に貢献できるような、非常に重要な研究であると自負しています。

 そして、明らかにしたいニーズ、調べたいことがあると、そのために独自の装置を作って独自のデータを取るというこの研究室のやり方は、前任の先生の頃からずっと受け継がれている方法。個人的にはそんな風に工夫をしていくところにおもしろさを感じていますし、他の研究室ではなかなか取れない、非常に特徴的なデータが取れることで、オリジナリティを発揮できると思っています。

 私自身は、学部4年生の研究室配属の時から、まさにこの研究室で、この研究をするようになりました。もともと実験をすることが好きということもあり、実験装置から作っていくこの研究室のやり方はとても合っていたのでしょう。

 大学での研究というと、研究分野によっては、理論ばかり、コンピュータによる計算ばかりであったり、あるいは年中実験ばかりをやっているようなところもあるかと思いますが、この研究室は、実験と理論的な計算というのが必ず両輪のようにセットになっています。そのどちらかに重きを置くということはありますが、必ずその両方を学生の皆さんにはやってもらうことになりますので、実験と理論の両方の力をつけたいという人にはぜひ来て欲しいと思います。その両方にどっぷり浸かることができます。
 さらに言えば、ここでの研究は、数学的なモデルを作るというところまでは学術的な世界であり、これらの知見がダイレクトにプレス成形技術といった応用面につながっていく。学術面と応用面が非常に近いところにあることも特長のひとつと言えるでしょう。自動車業界をはじめ、鉄鋼メーカーなどの産業界との共同研究あるいは委託実験などの機会も豊富にあります。おもしろそうだと感じた方は、どうぞこの研究室をめざしてください。皆さんの参加をお待ちしています。

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日野 隆太郎 准教授
Ryutarou Hino
成形プロセス工学研究室 准教授

1991年3月26日 広島大学 工学部第一類(機械系)  卒業
1993年3月26日 広島大学大学院 工学研究科 材料工学専攻 博士課程前期 修了
1996年3月26日 広島大学大学院 工学研究科 材料工学専攻 博士課程後期 修了
1996年4月1日~1999年3月31日 福井大学 工学部 助手
1999年4月1日~2001年3月31日 広島大学 工学部 助手
2001年4月1日~2003年3月31日 広島大学大学院 工学研究科 助手
2001年6月1日~2002年2月21日 連合王国・ブラッドフォード大学 客員研究員
2003年4月1日~2007年3月31日 広島大学大学院 工学研究科 助教授
2007年4月1日~2016年3月31日 広島大学大学院 工学研究科 准教授
2016年4月1日~2019年3月31日 広島大学学術院(大学院工学研究科) 准教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授


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