茨木 創一教授にインタビュー!

茨木 創一教授にインタビュー!

日本のものつくりを支える工作機械とロボットの精度を高める研究。

工作機械の精度を高めるために、新たな三次元測定技術を開発。

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 金属等を加工して機械部品などを生み出す「工作機械」はさまざまな工場等で使われていますが、私はその中でも、金属を削ったり穴を空けたりする工作機械を主な研究対象としています。三次元空間を自由に動く工作機械の運動を三次元で計測する新しい測定技術の開発というのが私の中心的な研究です。もう少し詳しく説明しますと、機械の先端を三次元で測るのですが、これは、その先端部分のXYZ座標を割り出すことになります。

 しかもこれを㎛(マイクロメートル)オーダー、すなわち、1mmの1000分の1ほどの精度で測定することに取り組んでいます。実は、これが非常に難しい技術なのです。
 その難しさをGPSを例にお話ししましょう。携帯電話などで利用されているGPSの場合は、三点測量という数学の原理を使って、複数の衛星との距離からその携帯のXYZ位置を測定しています。私が取り組んでいる測定法のひとつは、それと原理は非常に似ているのですが、大きく違うのはその精度です。GPSの場合、必要とされる精度はせいぜい数m程度。それくらい誤差があってもあまり問題ないのです。それに比べて、工作機械の場合は1㎛。髪の毛の太さの100分の1ほどの大きさを測定しようとするのですから、その精度の高さがお分かりいただけるでしょう。こうした難しい測定を、ある種の数学を使った新しい測定法によっておこない、それによって工作機械を制御して、機械の精度を高めていくというのが、私の得意とするところです。
 ご存知のように、日本の産業界はものつくりに関する分野が強く、生産加工あるいは工作機械メーカーなどが、日本のエンジニアリングの根幹を支えてきました。基本的に機械の精度が良ければ、できあがるものの精度も良くなり、それがものの価値を生みます。そのため、工作機械の精度が直接的にものつくりの力となる――私は、まさにこうした理由から、機械の精度を高めるための測定技術に関する研究を続けています。
 これまでの研究成果の一部はすでに、工作機械の精度を測定する測定器および解析ソフトウェアとして実用化されています。後者は、測定結果から誤差の原因を調べて、その補正をしてやることで、機械の精度を高めてやるためのソフトウェアで、福田交易株式会社との共同研究によるもの。現在2種類が市販され、実際に使用されています。

一段精度の高い産業用ロボットの開発によって、ものつくりの自動化を推進する。

 もうひとつ、私が広島大学にやってきたあたりから本格的に取り組み始めた研究があります。それは、工場で使われる「産業用ロボット」の研究です。工作機械で培った測定技術をロボットにも適用してやろうという狙いでしたが、ロボットは、精度という観点から見ると、工作機械よりも一段精度が悪いものです。もともと産業用ロボットは、物を動かすような、人間がやる作業の代わりをするための機械なので、あまり高い精度は求められてこなかったということがあり、ロボットの精度を工作機械のように高めるという考え方自体が、いままでにない新しいものであると自負しています。そして始めてみると、この研究はかなりおもしろいことが分かりました。

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 いったいロボットはどれぐらいの精度で動くことができると思いますか?一見、精密な動きをしているように見えるロボットも、実際には、工作機械の1/10~1/100程度の精度しかありません。そのため、工作機械は緻密な動きをするようにがっちり作られているのに対して、ロボットは非常にやわな構造をしていますから、これに工作機械と同様の仕事をさせるというのはかなり無理があります。
 さらに問題となるのは、ロボットの動作は、一般的にはティーチングと呼ばれる方法で、人間が手作業でプログラミングする必要があることです。ティーチングでは、動かしたい動作の通りに人間がロボットを操作して、それをロボットに覚えさせます。例えば、けん玉ロボットがあるとしましょう。これに、工作機械と同様に、軌道を計算するなどしてプログラミングしてやっても、ボールはなかなかカップに入ってくれません。私の着眼点はまさにここで、ロボットの精度をもう一段高めてやれば、これが計算で入るのではないか、と考えました。もしもそれができるようになれば、大変な労力をかけて、人間がロボットをプログラミングする必要はなくなりますし、いままでロボットが使えなかったようなアプリケーションにもロボットを使えるようになる。それによって、一段とものつくりの自動化を進めることにつながるでしょう。これはそうしたことを最終的な目標とした研究で、これらのほかにも課題は山ほどあるのですが、いま非常に活発に取り組んでいるところです。少子高齢化や人手不足などが問題となっているいま、日本はもとより世界でも需要が高まっている産業用ロボットの研究は、大きなポテンシャルを秘めていると言えます。

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日本のものつくりに貢献したい。必要なのは新しいアイデアに挑むこと。

 自動車や飛行機のメーカーを始めとしたさまざまなメーカーが工作機械を買ってものをつくるため、工作機械の業界というのは、日本のものつくり産業の景気の良し悪しの指標になるとも言われています。中国などの新興国との国際的な競争がますます高まるなか、10年ぐらい前までは、およそ30年に渡って、世界一の工作機械生産国だった日本ですが、いまは中国がトップになり、ドイツと日本が同じぐらいでそれに続くといったような位置づけになってしまいました。私が研究をするモチベーションには、工作機械に関する研究を通して、そうした日本のものつくりの分野に貢献したいという思いがあります。
 さらに、産業用ロボットに関しては、新しいアイデア、新しい研究が、どんどん必要となる分野だと感じているので、新風を吹き込めるような成果を追い求めていきたいと思っています。
 私が研究に際して大切に思っているのは次の2つです。ひとつは、小さなことでもいいので、新しいアイデアで研究を進めたいということ。もうひとつは、工作機械やロボットの研究では、実際の機械を扱っていますから、計算やシミュレーションだけではなく、実際に手を動かして、ものを使って、自分のアイデアを確かめるような実験をするように努めているということです。
 現在、留学生を含めて約20名ほどの学生を指導していますが、彼らにも、コンピュータの計算と実際の機械を使った実験をセットにした研究スタイルを踏襲してもらっています。学生たちは機械工学でものをつくることのおもしろさを実感しながら、どんどん実験のスキルも上がっています。ひとりの研究者として成長してくれている様を目にするのもまた、この仕事の喜びですね。
 私は博士課程をアメリカの大学で過ごしましたが、その時の先生が学生の好きなようにやらせてくれる方でしたので、在籍していた4~5年の間に研究らしい研究ができてとても楽しかったという想いがあり、卒業後は大学の先生になる道を選びました。そうした経験も手伝って、やはり研究というものは基本的には先生からあれこれ指示を与えられるものではないと考えていますから、学生たちにも、アイデアも自分でしっかり考えながら、自分の研究というものを自分で持っておける、そんな学生になって欲しいと願っています。
 ここまでの話から、おもしろそうだなと感じた人がいれば、ぜひうちの研究室に入ってきてください。実際にものをつくったりしますので、ものつくりの実感のある、工学部らしい研究ができるところです。また、まだ3年目の新しい研究室ですので、どんどん新しいことにチャレンジしていける楽しさも味わえるのではないでしょうか。

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茨木 創一 教授
Soichi Ibaraki
機械設計システム研究室 教授

1994年3月 京都大学 工学部 精密工学科 卒業
1996年3月 京都大学大学院 工学研究科 精密工学専攻 修士課程 修了
2000年12月 カリフォルニア大学バークレー校 工学研究科 機械工学専攻 博士課程 修了
2001年4月1日~2006年6月30日 京都大学 工学研究科 助手
2006年7月1日~2007年3月31日 京都大学 工学研究科 助教授
2007年4月1日~2016年10月31日 京都大学 工学研究科 准教授
2016年11月1日~ 広島大学大学院 工学研究科 教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 教授


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