金田一 清香准教授にインタビュー!

金田一 清香准教授にインタビュー!

快適な建物のあり方を探り、建築×エネルギー問題を研究する。

建築物や設備の観点から快適空間の創造と省エネルギーを考える。

金田一 清香准教授

 私の専門分野である建築環境工学は、幅広い建築にまつわる学問の中でも、人間にとって最も身近な環境としての建築空間を考えるものです。目標とするのは、『快適な空間の創造』。住宅のほか、学校や店舗、ビルディングなどの非住宅まで建築物全般に対して、熱・空気・音・光・建築設備などをどのように扱うのがよいかを研究しています。中心的に取り組んでいるのは、建築に関連するエネルギーの問題です。

 最初に、その建築におけるエネルギーについてお話しをしましょう。建築には思いのほか、大きなエネルギーが使われています。エネルギーというと、自動車をはじめとした運輸関係が多くを占めるように思われがちですが、人間は一日の中で約9割の時間を建物内で過ごすため、家庭や業務用の建築物で多くのエネルギーが消費されているのです。2020年10月の菅首相の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル宣言」が出されました。カーボンニュートラルとは、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量であるという概念ですが、発電をどうするかというエネルギー供給の話だけではなく、需要の側でいかに省エネルギーに取り組んでいくかということも、今後ますます重要になってくると思われます。

 こうした課題に向けて、私がおこなっているのが、「空調システムの省エネルギー化」や「未利用エネルギーの熱的活用」に関する研究です。

 快適な空間を実現するには、工学的にどのように設計するかということが大変重要です。風をどう取り入れて空気の流れをどのようにするか、あるいは採光や断熱といった「設計上の工夫」をまずは図らなければなりません。それに加えて大きな要素となるのが、「空調などの設備機器の力」です。より良い空気環境を実現するためには、空調や換気のための設備やシステムを取り入れる必要があります。しかも、そこには前述したような省エネルギーの視点が不可欠です。今後は、近年注目されている「再生可能エネルギーの活用」や地中熱をはじめとした「未利用エネルギーの活用」が進められることでしょう。私のグループでは、それらのエネルギーを効率良く利用する方法などをさまざまな視点から研究しています。

地中熱ヒートポンプの導入をサポート。ため池などの未利用熱への応用も。

 空調に関する研究ではこれまでに、「地中熱ヒートポンプ」をテーマのひとつとしています。ヒートポンプというのは、空気中などの低温の熱を移動させることで暖房や冷房を行う技術ですが、室外機の凍結等の問題により、従来エアコンの設置が難しかった寒冷地で、二酸化炭素の排出を減らす方法として評価されているのがこの「地中熱ヒートポンプ」です。寒冷地で重宝されてきたこの技術を、温暖地でいかに上手く活用できるか、というところが研究の着眼点になっています。温暖地では冷房の需要が大きいため、運用開始後に年々排熱が地中に貯まり、地盤温度が上昇してしまうことが懸念されています。

金田一先生 生徒たちと

環境配慮の先進国スウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニー イケアでは地中熱ヒートポンプを、日本のいくつかの店舗でも取り入れていて、私の研究室でも運用面でのお手伝いをさせていただいています。こういう大きな建築物の場合は、空調もオーダーメイドですから、建物完成時に導入して終わりではなく、その後も継続して運用をサポートする仕組みづくりが必要になっています

 さらにここから派生して、瀬戸内地域に多く存在する調整池などの貯留水を熱源として利用する方法も考えています。水には自然対流があるため、ヒートポンプの排熱を土よりも上手く逃がしてくれます。現在はこの「未利用熱ヒートポンプ」の実用化を目指して、さまざまな実験や解析をおこなっているところです。

 こうした空調などにかかる建物エネルギーの効率化というのは、私の研究の大きな柱のひとつになっています。

温暖地の建物性能の向上を図り、子ども達がいい空間に暮らせる可能性を拡げたい。

 私は2012年に広島大学に赴任しました。北海道生まれの私が温暖地の広島に来て感じたのは意外にも、「家の中が寒い」ということで、北海道と本州では断熱習慣がかなり異なるということを肌で感じることが度々あります。北海道では寒さをがまんすることはしませんが、温暖地の皆さんは結構がまんされているなという印象です。最近は断熱材を入れるなど温暖地の建物性能も上がってきましたので、冷暖房も変わっていく可能性があります。建物性能が上がれば、エアコン1台での全館空調も可能になります。温暖地でもがまんをしたりエネルギーを増やしたりすることなく、快適な空間で過ごせるようになればよいなと思います。特にこちらで親となった私は、子ども達にはそういう経験をして欲しいと強く願うようになりました。温暖地の住宅や学校なども、建築的にもう少し性能が欲しいと思いますし、温暖地の風習に合った全館暖房、セントラルヒーティングができないかと考えて、これも研究テーマのひとつになっています。

 一方、これまで研究を続けていて難しいと感じるのは、建築は人に非常に近いものであるけれども、一般の人に向けて、なかなか細部まで伝えられないということです。例えば、最近は換気の話がかなり取り沙汰されますが、多くの人がいまは、窓を開けながら空調を使っています。そのせいもあって、電気使用量は大きく跳ね上がって、電気の安定供給が脅かされかねない事態になっているようです。しかし、エネルギーを増やすことなく換気量を増やせる可能性というのはまだまだあります。換気に窓を開ける以外の選択肢があることを、もっと一般の人に伝えられるとよいなと、最近特に感じています。

 最後に、建築に興味を持っている皆さんへ――。
 私のいる工学部第四類の建築の学生さん達は、一級建築士国家資格の合格率が全国でもトップレベルですし、大半が建築業界に就職しています。これは非常に誇れることであるとともに、建築に興味を持ち続けたまま就職してくれるということ自体を大変ありがたいことだと思っています。優秀な学生さん達と一緒に研究を進めていく時間はとても楽しいですし、学生さん達の成長を目の当たりにできることは大きな幸せです。そして、皆さんも彼らに続いて建築を学びたいと思ってくださるなら、ベースとして物理現象を理解して理系的な考え方ができること、さらには、さまざまな制約の中で新たな提案ができるような学習を心掛けてもらいたいと思います。皆さんが研究室の扉を叩いてくれる日を待っています。

金田一先生と生徒

 

金田一 清香 准教授
Sayaka Kindaichi
建築環境学研究室

北海道大学大学院 工学研究科 修士課程修了
北海道大学大学院 工学研究科  博士課程修了
2004年10月~2006年3月 北海道大学 大学院工学研究科 寄附講座教員
2006年4月~2007年3月   北海道大学 大学院工学研究科 特任助手
2007年4月~2007年9月   北海道大学 大学院工学研究科 特任助教
2007年11月~2009年9月 東京大学 大学院工学系研究科 特任助教
2012年6月~2018年1月   広島大学 大学院工学研究院 助教
2018年2月~2020年3月   広島大学 大学院工学研究院 准教授
2020年4月~                  広島大学学術院(先進理工系科学研究科)  准教授


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