田中 貴宏教授にインタビュー!

田中 貴宏教授にインタビュー!

GISを活用し、より良い都市計画やまちづくりを進めていく研究。

GIS(地理情報システム)を活用し、都市や地域が抱える問題解決に取り組む。

田中教授

 私は建築学を専門としています。建築学は構造・計画・環境の3つに大きく分かれますが、私の研究分野はその中でも、計画と環境にまたがるところ、地域・都市計画やまちづくりと地域・都市環境学とを融合したような内容です。つまり、環境や地域特性に配慮しながら都市計画やまちづくりを考えていくというもので、科学的な知見と地域住民の思いの両方を集めて、より良い地域や都市の計画やデザインに活かしていこうとするものです。その際にツールとなるのが地図であり、GISという地理情報と各種データとを結びつけるコンピュータシステムを使って、客観的あるいは主観的なデータを収集・分析しながら、最終目標である「地域づくりや都市づくり」に向けての“橋渡し”をしていこうとしています。

 私の研究の中から3つを紹介したいと思います。1つは、「都市高温化緩和のための都市環境気候図(クリマアトラス)」。2つめは、「コンパクトシティの計画支援を目的としたCO2排出特性マップ」。3つめは、「中山間地域における地域資源情報のマップ化・共有化」。まずは、これらを順に説明していきましょう。

1.都市高温化緩和のための都市環境気候図(クリマアトラス)
 近年、地球温暖化による気候変動、とりわけ気温の上昇が指摘されていますが、都市部ではさらに、ヒートアイランド現象が問題となっています。都市をつくると、そこの気温はどうしても周辺よりも高くなるのですが、これに気候変動の影響が重なって、特に夏の都市部はかなり高温化しています。そうした都市部の気温上昇の影響はある程度緩和する必要があるため、気候変動適応策と呼ばれるさまざまな対策をまちづくりとして提案しようとするものです。気温を下げるには、風通しを良くするとか、緑を植えるなど、さまざまな方法がありますが、例えば、沿岸部と内陸部とでは、適した対策が異なってきます。そこで、気温分布を測ったり、コンピュータでシミュレーションを行い、それぞれの場所で高温化に影響している要因を分析するなどして、それらの結果を都市環境気候図というものにまとめて、ガイドラインとして示そうというものです。例えば、神奈川県横浜市の「新たな『横浜市環境管理計画』」に掲載されるなど、研究成果は一部の地方自治体等で役立てられています。

田中教授

客観的・主観的な諸データを根気強く集め、解析し、マップに集約する。

2.コンパクトシティの計画支援を目的としたCO2排出特性マップ
 現在、多くの地方都市で人口減少が進んでおり、広島県も例外ではありません。今後も減り続けるであろうと予測されています。一方で、日本の地方都市の市街地は随分広がっています。すると、このまま人口減少が続けば、市街地の人口密度が減少します。そうなると、例えば住民1人あたりのインフラの維持管理コストは増加していく訳ですね。そこで、コンパクトシティと呼ばれる集約型のまちづくり、市街地を集約化していくことが必要と言われています。国土交通省でも、「立地適正化計画」という形でこうした動きを後押しする制度を打ち出しているのですが、私の研究室では、CO2 排出やコストの観点から市街地のデータを地図化し、どこをどのように集約化すればよいかを示していこうとしています。

3.中山間地域における地域資源情報のマップ化・共有化
 これは、研究というよりも、地域の皆さんと連携してのまちづくり活動といった内容です。広島大学と包括的連携協定を結んでいる世羅町のある地区の皆さんから、将来の地域づくりについてのご相談をいただきまして、学生と世羅町を訪ねて、地域の皆さんとお話をしたり、調査・活動を行いながら、近畿大学工学部の先生とも一緒に、地域計画づくりをお手伝いしたというものです。具体的な内容をひとつ紹介しますと、高齢化の進む地域で、健康そしてコミュニケーションという観点から見たときの課題を解決するために、ウォーキングを皆さんでされてはどうかという提案をしました。そして、それに向けてウォーキングマップを作成し、その中に景色のきれいなところといった地域資源の情報を盛り込みました。このマップはいまも備後三川というJRの駅の前に設置されています。

 また昨年、平成30年7月に発生した豪雨災害のときにも、ご縁のあった広島県三原市の方々から、災害ボランティアセンター立ち上げの際に協力要請があり、その現場でも、地図を活用する私たちの技術を使い、運営サポートを行いました。具体的には、被害の全体像、支援先までの交通状況、支援要請と対応状況等を地図上で把握したいといった現場のニーズに対して、GISを活用しながら、目的に合わせた地図を作成し、掲示や配布を行いました。今後は、今回の知見を基に、パッケージ化を検討しており、再びどこかで災害が発生した際には、この度得られたノウハウを広く共有できればと考えています。

三原市ボランティア

まちづくりは広い意味での“ものづくり”。長いスパンながら成果を実感できる。

 私たちの研究はどれも社会や地域の課題解決を意図しています。そのため、客観的データだけでなく、主観的なデータである「住民の思い」に触れることが大事であると考えており、その両者をベースとして、計画やデザインを進めていくことが、研究の特徴と思っています。 さらに、研究の醍醐味はというと、なにより地域住民の皆さんに、研究の成果を喜んでいただけるということでしょう。喜びを共有でき、一定程度、貢献できたなと実感できるときは大変うれしく思います。また、こうした地域での活動を通して、学生が成長している姿を目の当たりにすることも多くあり、それも大変感激する瞬間です。

 私が大学の研究職に就くまでというのは、決して真っすぐな道のりではありませんでした。大学に入った頃は建築設計をやろうとしていた学生でしたが、徐々にまちや都市に興味が移っていき、卒業後は民間企業に勤務。しかし、途中から大学の研究者になろうと思うようになって、会社を辞めてポスドクとなり、その後大学教員となり、今に至ります。真っすぐとはいきませんでしたが、興味のある方向に進むことができましたので、多くの優秀な学生たちと研究に取り組む毎日はとても充実しています。そして、都市計画やまちづくりというものはどうしても長期的なものなので、自分自身の世代だけでは、解決を見ることができないかもしれませんが、大学の教員というのはありがたいもので、次の世代の教育という役割があるんですね。彼らに思いを託せるということも、この仕事の良いところだと思います。
 いろいろお話ししましたが、研究自体が総合的、分野横断的なものなので、フィールドも国内にとどまらず、例えばタイの大学とも共同研究を行っておりますし、現場でのリサーチと研究室でコンピュータに向かう作業を両方こなさなければいけないという、結構ハードな研究かもしれません。しかし、社会や地域に貢献したいと考えている高校生の皆さんにとって、この分野の研究はとてもやり甲斐のあるものになるのではないかと思います。都市計画やまちづくりを通して夢を実現したいと考える皆さんがこの研究に参加してくださるのをお待ちしています。

研究室の皆さんと

 

 

 

 

 

田中 貴宏 教授
Tanaka Takahiro
都市・建築計画学研究室

1997年3月 横浜国立大学  工学部建設学科 卒業
1999年3月 横浜国立大学大学院 工学研究科 人工環境システム学専攻 博士課程前期 修了
(民間企業勤務を経て)
2004年4月1日~2008年3月31日 神戸大学大学院 自然科学研究科 COE研究員
2008年4月1日~2008年9月30日 横浜国立大学大学院 環境情報研究院 COEフェロー
2008年10月1日~2017年9月30日 広島大学大学院 工学研究科 准教授
2017年10月1日~ 広島大学大学院 工学研究科 教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 教授


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