高木 健教授にインタビュー!

高木 健教授にインタビュー!

さまざまな環境に柔軟に適応する技術、“からくり”の研究。

ものを動かすメカニズムを追求し、新たな技術とからくりを創り出す研究。

高木 健教授

 私の専門分野は「機構学」です。あまり耳馴染みのない方は、江戸時代の「からくり人形」をイメージしてもらうと分かりやすいでしょう。また、私の研究室で開発したもののひとつに、「倒立振子型ロボット」というものがあります。これは、2つの車輪を備えた縦長のロボットで、車輪を蹴っても倒れないくらい、ちゃんと2輪でバランスを取りながら立ち、段差を上がる機能も備えています。「からくり」というと、決まった動きしかしないような印象ですが、このロボットは、地面の形状に応じて、勝手にうまく変形して地面に馴染み、いろいろな動作ができるようにつくってあります。そんな風に、機械自体がうまく情報処理をしていくような仕組み、いわゆる「からくり」を考案して、実際にそうした動作をする身体をつくるというのが、私の行っている研究です。

 このロボットがこのような形なのは、人間の生活環境のなかでの移動を想定したときに、例えば机の上にアクセスできたり、階段が登れれば非常に便利だろうという想いからです。これが人間が乗って移動する手段になるかもしれないし、これ自体が何かを取ってきてくれるという風なことも考えられますが、そうしたさまざまな用途への応用展開はさておき、まずは核となる技術開発を行うというのが私のスタンスです。核となる技術があれば、企業の方から「こんなことができませんか」と言われたときに、「こういう技術がありますよ」と示すことで、いろいろな提案ができます。私は物事が何かできると分かると、関連する産業は急速に発展していくものだと思っているのですが、こんなことがもうできるようになっているんだと世の中に示すことは非常に大事なことで、これこそが大学の使命だと思っています。
 開発を手掛けているロボット類はさまざまにありますが、ハンド(義手)というのもこれまで研究してきたもののひとつです。人間の手の動きを再現するというのは非常に難しいものなのですが、人間の腕の筋電を利用して動かすというハンドを開発しました。これは実によくできていまして、操作をする人の行いたいことに応じて軽快に素早く動作するだけでなく、空き缶をぎゅっとつぶすような力強い動作も実現できます。しかも大変軽い。これもセンサー等は使わず、機械的に処理できるようにつくってあります。俊敏さと力強さを両立させるという困難への解決策として、私の提案した機構が役立っています。そして、このような俊敏さと力強さを両立できるからくりは、(株)IHIの方から、ロケットエンジンのバルブの部分に使いたいというお話をいただいていて、いまも研究を進めているところです。ロケットでは、エンジンバルブを全開にして飛び立ち、宇宙に出たら燃料漏れを起こさないように素早く動作し、最後にぎゅっと力強く閉めたいということなので、まさにこのハンドの特性が生かせます。近いうちに製品化される計画で、ゆくゆくはJAXAに納品されて、宇宙ロケットに搭載されることになろうかと思います。

ホワイトボード
ロボット、高木先生、学生

からくりとは、機械的な解決策。便利さを実感できるような新たな技術の創造へ。

 さらに、現在取り組んでいる研究のひとつに、「アーム付きドローン」というものがあります。これは、空中でのドローンの姿勢を崩さず、うまくバランスをとってくれるロボットアームと、俊敏で力強いロボットハンドをドローンに取り付けるというもの。前者は、汎用アームではドローンの重心が崩れていたものを、ドローンの姿勢に影響を与えない機構によって改善したもので、特許申請しています。後者は、前述したような素早さと力強さを両立させた無段変速ロボットハンドです。この「アーム付きドローン」の研究は、内閣府のImPACT(革新的研究開発推進プログラム)というプログラムで進めているもの。年に2回、東北大学でデモンストレーションを行っており、「ちゃんとこんなことが現実にできるようになっている」ということを世の中に示していけることも、私の研究の特徴と言えるでしょう。レベル的にも、ビデオ紹介ではなく、その場で実践できるところまで到達できているということです。

ロボット、高木先生、学生

 現在、どんなことができるかと言いますと、このハンドではしごをかけたり、あるいは鳥のようにとまることができるんです。はしごを上空からかけることで、災害時に屋上にひとを逃がすことができたり、とまれることによって、木の上に定点カメラの設置ができたりします。レスキューやセキュリティ、物流、サンプル採取など、活躍できる場面は今後、いろいろと広がっていくように思っています。
 しかし、お見せしているものがそのまま私がめざしているものという訳ではありません。めざしているのは、製品そのものではなくて、技術そのものをつくること。ロボットやハンドといったものは副産物に過ぎないと思っています。その根本となる技術そのものを創造すること、言い換えれば、機械的な解決策を提案することで、そこから新たに動けるものが生まれて、便利になったと感じてくれるひとがいればうれしいと思います。
 また私は、性能が数%向上したというようなものではなくて、できたとはっきり分かるような研究が好きです。以前観たドラマに、「昨日できなかったことが今日できるようになる」という台詞がありました。まさにそんな瞬間がこうした研究にはあって、それがやはりものすごくおもしろい。そんな瞬間こそが研究の喜びであり、楽しさであると感じています。

原点はレゴブロック。昨日までできなかったことができる瞬間を追い求めて。

 私はいったん社会人を経験したのちに、研究室にもう一度入りたいと思ってドクターに進み、研究者になりました。小さいときからレゴブロックが大好きで、レゴでからくり仕掛けのロボットのようなものをたくさんつくっていまして、そんなものづくり大好きな子どもがそのまま大人になったという感じです。レゴブロックはいまも研究室に置いてあって、3次元のものを学生たちと議論するときのツールにもなっているほど。かなりのヘビーユーザーですね。
 そして、私が挑んでいるような研究を行っているひとは意外に少なく、日本では私を含めて3名ほどしかいないと思っています。理論を掘り下げていくというような研究者は結構多いのですが、機構というのは、いろいろなものを組み合わせていくものなので、うまく組み合わせていけたり、実際にものをつくってちゃんと動かすところまでやっているひとというのは、なかなかいない。そういう意味では、希少であり、最先端の研究であると言えます。
そうした希少性・先進性ゆえに、環境に柔軟に対応できる機構に関する本というのは、まだ出版されていないため、いつかは自身の研究を書籍にまとめたいというのが、私の大きな目標です。それにはまだ知識も技術も足りないので、これからも努力していかねばと思います。ロボットは世に出ても数年ですぐ消えてしまいますが、核となる技術や考え方の部分はずっと残っていく。そういう意味でも、次世代にまで継承されるような本を書けたらと願っています。
 最後に、工学部や工学研究科の魅力についてご紹介しましょう。ここでは、最終的にひとの手に届くものをつくっています。私自身、学部生から修士までは非常によく遊んでいましたが、研究の楽しさに引き戻されて今日があります。ここはやはり、研究の楽しさ、ものづくりの楽しさを味わえる場所だと思っています。昨日までできなかったものが今日できるようになり、ひとの手に届くものが生まれていく。それが自分の手でできたときの喜びはとても大きなものです。そんなものづくりの喜びをぜひ皆さんと分かち合いたいと思います。

ロボット
研究室のみなさん

 

 

 

高木 健 准教授
Takeshi Takaki
ロボティクス研究室 教授

2000年3月 東京理科大学 理工学部機械工学科 卒業
2002年3月 東京理科大学 理工学研究科 機械工学専攻修士課程 修了
2002年4月1日~2003年3月31日 株式会社ディスコ 技術者
2006年3月 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 メカノマイクロ工学専攻博士課程 修了
2006年4月1日~2007年3月31日 東京工業大学 特別研究員
2007年4月1日~2008年7月31日 広島大学 大学院工学研究科  特任助教
2008年8月1日~2010年3月31日 広島大学 大学院工学研究科  助教
2010年4月1日~2011年3月31日 広島大学 大学院工学研究院  助教
2011年4月1日~2017年3月31日 広島大学 大学院工学研究院  准教授
2017年4月1日~広島大学 大学院工学研究科 准教授
2020年4月1日~広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 教授


up