内田 龍彦准教授にインタビュー!

内田 龍彦准教授にインタビュー!

河川の流れと河底の地形変化の解析から治水に貢献する研究。

複雑な水の流れを明らかにする解析方法の開発で、土木学会論文賞も受賞。

内田 龍彦准教授

 私の研究分野である水工学は、土木工学のなかでも、水をうまく治める「治水」に関わるもので、河川工学や数値流体力学とともに専門としています。研究対象は、河川を流れる洪水流、氾濫流、津波などの流れと土砂運送など。水害から身を守るために重要な河川計画づくりに役立つような、水の流れに関する研究を行っています。特徴となるのは、水の流れと土砂の運動の関係を、川底に着目した解析法を用いて研究している点です。
 川にはいろいろなスケールの流れがあり、川幅や水面、川底などの境界によって狭められることで流れが変わってくるため、そうした三次元的な現象をどのようにして解析するのかということが非常に大事になってきます。ここで特に重要なのが、川底の流れです。

川底の流れが境界条件となって水の流れの抵抗を決め、さらに、川底に作用する力によって、川底の土砂が動いて地形が変化します。そこで、こうした川底の流れを直接的に解析する手段の開発にも努め、水面を有する比較的浅い流れに着目して、土砂に作用する川底付近の流速を解くことのできる底面流速解析法を開発。川底の土砂と流れの相互作用の解明とモデル化を進めています。
 今年の6月には、さきに発表した、河川の構造物周辺の三次元流れと川底付近の複雑な流れを解析する手法に関する論文が、これまで解析が困難だった種々の粗面スケールを持つ底面境界付近に生じる水理現象に対する新たな学術・技術の展開に貢献する独創的な研究成果として、土木学会論文賞を受賞しました。
 この分野の歴史は古く、多くの研究者がさまざまな提案を行っていますが、そうしたそれぞれの研究間のつながりはあまり見受けられません。いま私がやっている研究は、二次元解析法と三次元解析法という、従来の大きな枠組みの中間に位置するようなものなので、さまざまな研究をつないで体系化するような役割を担えればと期待しています。
 さらに、地球温暖化によって頻度も規模も高まるであろう洪水等の予測手段として応用されるなど、温暖化対策の一助となれば喜ばしいことです。これからは、もっと洪水に対して強い川づくりをしなければなりません。特に、人が多く住んでいるところの河川の安全性を確保するために、川の形を変えるという作業が今後、必要になってくるでしょう。洪水発生時の川の応答を先の解析法で予測することで、効果的な対応策を講じることができると思います。

現地調査や実験、解析まで、研究活動は幅広い。意義深い広島での研究。

 具体的な研究手法としては、現地で実際にどのようなことが起きているかを観察したり、定期的に現地に出かけて、降雨のあとの土中の水分量を調査して、水がどう入って川にでてくるかを推定したり。また、実験水路で模型化して川の流れを再現するなど。そのほか、解析にはまず紙と鉛筆で方程式を組み上げて、コンピュータで解いていくといった流れです。
基本的に水の流れはナビエ・ストークス方程式によって記述できますが、それですべてを解くことは不可能で、現象もさまざまにある。水工学の領域は、理論的なものから思いもよらないようなスケールの大きな現象の関係を持つものまで大変幅広いんですね。そういったことが、長く興味を持ち続けてこられた理由なのではないかと思っています。
 こうした研究に私自身、楽しく取り組んでいますが、なかでも特にわくわくしてくるのは、研究計画を思いついたときでしょうか。

水路,内田先生,学生
水路,内田先生,学生

こんなことをしたら楽しいんじゃないかと思いついた瞬間が一番おもしろい。あるいは、なかなか解けない問題を考えていて、ふとその道筋が思い浮かんだときも非常に興奮します。以前、家族と買物をしているときに急にひらめいて、早く帰ってこれを定式化したい、と思ったことがありました。おそらく、考え続けるということ自体が好きなんだろうと思います。

内田先生と学生

 さて、私がこの道に進もうと決めたきっかけは、母校である広島大学に非常に熱心で厳しい先生方がたくさんおられて、水工学の楽しさを学べたことと言えるでしょう。いずれは私も、そうした先生方のように、学ぶことや研究することの楽しさを学生たちに伝えていける指導者をめざしていきたいと思います。
 広島は水量豊かな太田川の河口デルタに位置し、環境と調和した川づくりが求められる一方、上流部の領域の多くは土砂災害危険地域であり、減災対策も求められています。

 そうした広島の地で、こうした河川にまつわる研究を行っていくことの意義についてもまた考え併せながら、今後も地に足のついた研究を続けていく所存です。

ブレイクスルーを見つけたい。工学部・工学研究科は、個々の能力を生かせるところ。

 私の研究者としての今後の目標は、ブレイクスルーを見つけることです。いま抱えているもやっとしたことをなくしていくというのがずっと抱いている目標ですね。
 例えば、最近興味を持っていることに、データと情報の違いというのがあります。この違いを実は大事にしなければいけないなと思うんです。どういうことかと言いますと、いまや、インターネットで調べると、なんでもデータは手に入ります。正しいものから間違っているものまでいろいろなデータがあるなかから、自分にとって大事な情報を引き出さないといけない訳です。そのためにどうすればよいのか。それを実は常々考えているんです。研究でも、コンピュータが進化したので、容量も大きくなって、たくさんデータは入る。でも結局は、必要なものをちゃんと取ってきて、必要なものを向こうに持っていくということをしないと、何の役にも立たないんですね。そんなところも含めて、いつかブレイクスルーを!という想いを常に抱いて、研究に努めていきたいと思っています。

砂波
測定中

 最後に、進路を考えている皆さんにひとこと。
 工学部は、しっかりした理論を学べるところもあれば、すぐに人の役に立つような内容を学べるところなど、出口が非常にはっきりしており、さまざまな興味に応えられるところだと思います。ひとりで何かを追求したいという人と、人の役に立ちたいという人がみんなつながって、ともにイキイキできる。自分で考えることさえできれば、一人ひとりの能力をうまく生かせるところだと思います。

つまり、自分で考えて判断できる能力というのが、工学部ではとても重要です。皆さんには、旺盛な好奇心を持って、ぜひわが工学部や工学研究科へ進んできていただきたいと思います。

 

 

 

内田 龍彦 准教授
Tatsuhiko Uchida
水工学研究室 准教授

1998年3月 広島大学 工学部第四類(建設系) 卒業
2000年3月 広島大学大学院 工学研究科 環境工学専攻 博士課程前期 修了
2003年11月 広島大学大学院 工学研究科 環境工学専攻 博士課程後期 修了
2003年12月~2004年3月 広島大学大学院 工学研究科 研究員
2004年4月1日~2007年3月31日 広島大学大学院 工学研究科 助手
2007年4月1日~2008年3月31日 広島大学 大学院工学研究科  助教
2008年4月1日~2015年3月31日 中央大学 研究開発機構  機構准教授
2008年4月1日~(2013年度を除き2017年3月31日) 中央大学大学院 理工学研究科  兼任講師
2012年4月1日~(2013年度を除き2017年3月31日) 中央大学 理工学部  兼任講師
2013年4月1日~2014年3月31日 The Univercity of Iowa,Visiting research scholar
2015年4月1日~2017年3月31日 中央大学 研究開発機構  機構教授
2017年4月1日~ 広島大学 大学院工学研究科  准教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授


up