崔 龍範 准教授にインタビュー!

金属、樹脂、セラミックスなどあらゆる素材から新材料を生み出す研究。

超音波を利用したメッキのメカニズムを解明。

 「材料」というと皆さんはどんなものをイメージしますか? 身近すぎて意識したこともないという方も多いかもしれませんが、私たちの身の回りのものは実に様々な材料からできています。私が専門としているのはそういった材料の開発、そして開発した材料が使われた製品の製造プロセスの開発です。
 材料開発で求められるのは、従来品よりさらに高機能・高性能であることに加え、製造過程におけるコスト削減や省エネルギー化も実現することです。研究では目的に合わせた材料内部の変化現象のモデル化、材料生産プロセスにおける計測・制御といった、材料工学と機械工学の複合領域の課題を取り扱っています。

 まずはじめにご紹介するのは、超音波を利用したメッキ性向上についての研究です。塗装前の自動車を想像してください。自動車のボディは鋼板でできています。鋼板は安価で高強度、加工しやすいなどメリットも多いのですが、金属なので空気中の酸素と反応してどうしても酸化してしまいます。この腐食を防ぐために施されるのが薄い金属の膜を製品表面に加工する技術、メッキです。メッキを行う際に超音波を利用するメリットとしては、製品表面の不純物を取り除いたり、塗料を付着しやすくするといったことが知られています。しかし、それがどういったメカニズムによるものなのかは解明されていませんでした。私たちはJFEと共同研究を進め、超音波の振動が鍵であることを発見しました。超音波の振動によりメッキ素材が均一に塗れ広がりやすくなるだけでなく、鋼板表面にできた酸化膜を破壊していることがわかったのです。

実用化に向け検証を繰り返し、性能を満たす材料を作る。

 自動車の材料に関連するテーマとして、私たちは複合材料の製造プロセス開発についても取り組んでいます。各国でCO2排出規制が強化されていますが、自動車の場合は車体を軽量化することも燃費改善の有効手段のひとつと言えます。大幅な軽量化を実現するためには適切な設計と、必要な性能を満たす新しい複合材料の開発が必須です。研究では違った性質を持つ素材を組み合わせるため、それぞれの特性を理解しておくこともとても大切になります。様々な方法でシミュレーションやモデリングを行い、解析と検証を重ねて必要な特性が満たされるものを作り上げる、これが研究の基本的な流れです。

 また、忘れてはならないポイントのひとつに生産時の環境負荷低減があります。地球温暖化が取り上げられるようになってから、ものづくりの現場でも、ここに主軸を置いた製品が数多く開発されています。このように社会問題に貢献できるというのも材料を扱うことの面白さです。
 ご紹介した2つに加え、研究室ではセラミックスと樹脂を使った熱界面材料の開発も行っています。例えば、スマートフォンやパソコンを長時間使用すると機器そのものが熱くなることがありますが、これは内部にある半導体が熱を持つことが原因となっています。この半導体と放熱材の間に熱界面材料で作ったシートを挟むと、より効率的に熱を放出することができるようになります。熱界面材料は半導体とともに注目され、2030年には200%以上のマーケットになると言われている製品なので、実用化に向けた研究もますます発展していくことでしょう。
 研究を進めているものについてはすでに特許を取得しており、企業からの問い合わせも増えてきています。社会での実用化という最終目標のため、引き続き企業と共同開発を行いながら研究を進めていきます。

ものづくりに没頭できる国際色豊かな研究室。

 さて、3つのテーマを同時進行しているこの研究室には30名の学生がおり、うち10名は中国やインドからの外国人留学生です。研究室では英語を使ったコミュニケーションを行うことで、互いへの理解を深めています。また、学会や国際会議での発表に取り組んでもらい、研究に必要な想像力や主体性を養ってもらっています。発表の場に立つということは学生にとってモチベーションになっているようです。もちろん実際の研究では、自身の手を動かしながら体験を重ねることが一番大切です。自分たちで設計し、設備を活用して作ったものがどうなっているか、見て触って分析して確かめる必要があります。投資を抑えながら実用的なものづくりに取り組めるよう、私たちは2年前に新しい装置を自分たちで作り、ラボスケールで実験ができる設備に整えました。超音波が材料に当たる前後の動画が撮影できる装置や、ものに熱を加えた状態で圧力をかける装置などがあり、これらを使って研究に打ち込むことができます。卒業後の進路としては企業の研究職に就いたり、開発現場で働く人が多いですね。
 私は、材料には社会を変える力があると信じています。誰も作ってこられなかった新しい材料を手がけるという楽しさを感じ、実物に触れながらものづくりをしたいと望む方はぜひ研究室に来てください。全面的にサポートします。

崔 龍範 准教授
YONG BUM CHOI
材質制御工学研究室 准教授

2001年2月24日 韓国、慶尚大学 機械工学 卒業
2003年3月25日 韓国、慶尚大学 機械工学 博士課程前期 修了
2006年6月26日 広島大学大学院 工学研究科 機械システム工学専攻 博士課程後期 修了
2006年6月1日~2007年5月31日 京都大学エネルギー理工学研究所 産学官連携研究員
2007年6月1日~2020年3月31日 広島大学大学院 工学研究科 助教
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授


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