河野 佑准教授にインタビュー!

河野 佑准教授にインタビュー!

幅広い対象を持つ制御工学を理論から異分野応用まで研究。

身の回りの多くのものに活かされている制御工学。その理論を追求する。

 制御工学研究室の河野です。私は、制御工学の理論研究を中心に、異分野応用まで幅広く研究をおこなっており、「工学としての実用性と数学的な美しさの両立」を常に意識した研究姿勢を貫いています。

 まず、「制御」とは何かという話から始めましょう。制御とは文字通り、制して御する、「抑えつける」+「自由に操る」ということで、英語で言えば「control(コントロール)」、働きかけて目的に適うような応答を得るといった意味です。

私たちのまわりにある多くのものは制御されています。エアコンや全自動洗濯機といった家電類、自動車や航空機、ロボットなどの精密機械、インターネットなどの通信もそうですね。あるいは、スポーツで使われるボールコントロールや、心理学でマインドコントロールなどの用語がありますが、実はこれらも制御されるものとして挙げられます。このように、制御理論を当てはめることができるものは、非常に多岐にわたっています。

 制御の身近な例として、トレーニングや試験勉強を思い浮かべてみてください。この2つは、頑張っただけ報われるものではなく、期待する結果を得るためには、いつ、どれくらい努力するかを考える必要があります。トレーニングの場合、筋力アップという結果を得るために必要な運動量はどのように導き出されるでしょうか。トレーニングや学習にはいろいろなパターンがあり、得られる結果はさまざまです。

トレーニングの場合を数式に表してみると、次のようになります。

 このように時間変化する現象は、上記のような微分方程式で表すことができ、こうした式で表されるものはすべて制御工学で扱うことができます。難しく言えば、ダイナミクス(*)を持つものすべてが制御工学の対象になるのです。
*ダイナミクスとは時間的な発展のあるふるまいのこと。ダイナミクスを持つもの=時々刻々と変化するもの。

 また、上記のような数式を「数理モデル」と呼び、制御工学の研究では、現象を数理モデルで表して解析し、その制御方法を考えます。コンピュータでのシミュレーションや実機での実験を通して、提案法の有効性を検証します。

新たな電力システムの価格設計ほか、分野横断的な研究に挑む。

 私は新たな制御理論の構築とともに、異分野応用にも大いに関心があり、さまざまな分野や国の先生方と共同研究をおこなっています。そもそも制御工学は分野横断的な研究領域と言われています。前述したように、幅広いものを対象とするため、機械工学、電気工学、化学工学、生物学、経済学などで扱われるものも、制御工学で扱うことが可能です。つまり、こうしたすべての分野を包括的に扱うのが「理論研究」であり、各対象に特化した研究が「応用研究」ということになります。

 これまでにおこなってきた異分野応用研究の例として、『電力システムの価格制度』に関する研究(*)を紹介しましょう。2016年4月より日本でも電力の小売全面自由化が始まりました。消費者は電力を好きな会社から買えるようになり、電力会社は各時刻の電力価格を自由に設定することができるようになったのですが、その際に必要とされたのが、「新しい電力価格の設計の仕組み」でした。この仕組みを考えるとき、考慮すべきはどんなことでしょうか。それは、「電力の安定供給」と、「消費者と電力会社の双方が得をする」といった2点で、前者には電気工学の知識、後者には経済学の知識が必要となります。制御工学+電気工学+経済学の横断型研究がおこなわれることとなったこの共同研究では、電力供給の仕組みや消費者と電力会社の行動をモデル化し、電力価格決定方針を定式化するといった作業をおこないました。
*この研究は科学技術振興機構(JST)による戦略的創造研究推進事業CRESTの一プロジェクトとして実施されました。 

また、過去には数理脳学者や数理生物学者との出逢いもあり、『ブレインネットワーク』に関する研究もしています。「パーキンソン病」という神経変性疾患をご存知でしょうか。手足が震える「振戦」という症状が特徴的なこの病気の患者さんは、脳のニューロンの同期の仕方が健常者と異なっていることが分かってきています。これも制御工学の対象として捉え、臨床データの提供をいただきながら、同期を制御する方法などに挑んでいるところです。

 上記の例のほか、感染症ネットワーク、交通ネットワーク、ソーシャルネットワークなど、「大規模複雑ネットワーク」と呼ばれるものも研究対象とし、オランダのフローニンゲン大学やイギリスのケンブリッジ大学などの先生方と協力して研究に取り組んでいます。

自由度の高い分野だけに、研究は興味や関心次第。数学を味方にして前進を。

 そのほか、最近取り組んでいるもののひとつに『プライバシー問題』があります。IoT化もどんどん進んでいますが、そのシステムづくりは、誰もが自分たちの情報を偽りなく提供するという考えのもとでおこなわれています。しかし、プライバシー情報の特定が心配されています。例えば、電力の消費パターンを見れば、在宅時間はもとより、洗濯機をいつ回しているのかというようなところまで分かってしまうという危惧があります。そこで、差分プライバシーと呼ばれる技術を用いて、プライバシーを守り、かつ効率的なシステムづくりに取り組んでいます。

 私は、制御工学という学問は非常に自由度が高く、因果関係が複雑な対象を扱う、だからこそおもしろいと感じています。 さらに応用研究の場合には、いろいろな分野の人と話して、各分野の考え方を知っていくこと自体がとても楽しいです。制御の考え方では、いろいろな現象から数式へと戻る訳ですが、当該の式を通して見るからこそ現象が理解できることや、ある分野での考え方が別の分野での問題に使えるということもあったりします。そのため、研究に際して一番大切にしているのは「数学」と言えるかもしれません。最近注目されている自動運転とか工場の自動化など、なにかしら物を動かすというときに必要とされるのが制御工学で、そこにはやはり数学があります。冒頭で、「工学としての実用性と数学的な美しさの両立」を常に意識した研究姿勢、と言いましたが、それはつまり、こういうことです。物を動かすときに、とりあえず動けばいいというのではなくて、やはりちゃんと式を使って解析することによって、どういう場合だとうまく制御できるのかということを明らかにしたいという思いが私にはあります。理論的な解析もおこないながら、実際に物も動く、これらを両立させたいのと同時に、それによって、社会に役立つような成果を得たいとも願っています。さて、いろいろ紹介しましたが、「制御工学っておもしろそうだな」と思ってもらえたでしょうか。難しそうと感じた人でも、必要な知識は一から教えますので、やる気さえあれば、大丈夫だと思ってください。自由度の高い分野であるからこそ、研究テーマは、理論でも応用でも、個人の興味に合わせて見つけることができます。ぜひ私たちと一緒に、制御の世界を味わってみましょう。

 

河野 佑 准教授
Yu Kawano
制御工学研究室

2011年3月         大阪大学大学院 基礎工学研究科 修士課程修了
2013年9月         大阪大学大学院 基礎工学研究科 博士課程修了
2012年 8月~11月      タリン工科大学(エストニア)人工知能工学科 特別研究生
2013年4月~9月       日本学術振興会特別研究員(DC2)
2015年4月~11月     フローニンゲン大学(オランダ)自然科学部 客員研究員
2013年10月~2016年11月 京都大学大学院 情報学研究科 特定研究員 JST CREST EMS領域
             (情報学研究科より特任助教の称号付与)
2016年11月~2019年3月 フローニンゲン大学理工学部 研究員
2019年4月~2020年3月  広島大学大学院工学研究科 准教授
2020年4月~       広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授


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