尾形 陽一 准教授にインタビュー!

尾形 陽一 准教授にインタビュー!

流体工学、数値流体力学を用いた自動車・輸送機器の「流れ」に関する研究。

中心は自動車エンジンに関する「流れ場」研究。環境負荷の低減に貢献する。

尾形先生写真

 「動力システム研究室」という名前のとおり、私たちの研究室では、自動車や輸送機器などの動力エネルギーシステム、いわゆるエンジン部分に関するさまざまな現象を研究しています。自動車をはじめとした輸送機器におけるエネルギー損失やエミッション(排気ガス)の低減に繋がる流体力学的要素を見出し、実験と数値シミュレーションを用いて「流れ」および「流れ場(※)」の挙動や相関の解明に挑んでいます。

 私たちは、広島県内企業との共同研究をおこないながら、本学共同研究講座内燃機関研究室、他大学・高等専門学校と連携し、理論・実験・数値シミュレーションを用いたさまざまなアプローチにより、基礎研究から、実際の自動車開発に直結する応用に至る多様な研究を進めており、サスティナブル社会の発展に寄与する環境負荷の低減の実現を目指しています。
 研究対象は、自動車や輸送機器関連のさまざまな「流れ場」、なかでも燃料が燃えるエンジンシリンダに直結する「排気系」「冷却系」の流れ場の研究が中心となります。こうした排気系・冷却系の研究の背景にあるのは、年々厳しく求められている自動車の環境対策があり、「いかにきれいな排気ガスを出すか、エネルギー損失を低減するか」ということが自動車メーカーの大きな課題になっていることが挙げられます。自動車は今後も我々の日常生活と切っても切り離せないものですが、グローバルな環境対策の問題解決に向け、研究成果を実機エンジン開発にも応用することで、普段の生活における環境負荷低減に直結できると考えています。

※流れ場とは…流体力学では、流体の運動を記述する方法が2種類ある。1つは流体を流体粒子の集団と考えて、各粒子の運動を調べる方法(ラグランジュ的記述)。もう1つは、流れを「場 (field)」として捉える方法で、任意の時刻における空間の各点における速度、圧力、密度などの流れの物理量を調べる方法(オイラー的記述)。後者の場合の物理量の"場(field)を「流れ場」という。

管内乱流場などでの流体の挙動を実験とシミュレーションで解明していく。

 研究内容について、もう少し詳細に説明しましょう。主要な研究テーマには次のようなものがあります。
 1)自動車エンジン排気系における管内脈動乱流場と壁面熱伝達特性の相関
 2)自動車エンジン排気系、冷却系における気液二相流特性の解明および数値モデルの開発
 3)自動車エンジンシリンダ内の模擬条件下での燃料噴霧挙動特性  など

 1と2で扱うのは、エンジンの「外」の部分、3は「内」の部分です。エンジンの内部で燃料が燃えて、残りが排気ガスとして出てきますが、排気ガスを排出する際に「三元触媒」を使って、排気ガスの有害物質を浄化するという方法があります。効率よく浄化するには、三元触媒とそこに入ってくる排気ガスの流れ場がどういう風な状態になっているかを知る必要があるため、まずこの流れ場を解析しようというのが1の研究テーマです。排気ガスとして出てくる空気は、エンジンのピストン運動や吸排気バルブの開閉の影響により、短い周期で圧力・流速・温度が変動する、「脈動流」という脈打つような流れになります。しかも排気ガスが通るパイプは曲がっているため、排気系は非常に複雑な構造となるのです。そこで、私たちはPIV(粒子画像流速計)を使ってさまざまな測定をおこない、この部分の流れ場の様子を詳細に研究しています。

 次に2つめの研究について。「気液二相流」というのは気体と液体が混在する流れのことです。例えば、寒い日に窓に水滴がつく結露と同じように、排気系の管の中でも、水蒸気を含んだ排気ガスが冷却され、凝縮が起こって管の中に水滴がつくということが起こります。その水滴が液滴群となり、管内の気流で流されて飛散し、管の壁やセンサーに当たってそれらがダメージを受けるというようなことになるのです。こうした管内気流を受けて飛散する液滴の挙動には不明な点が多いため、その挙動のメカニズムをシミュレーションで明らかにしようとしています。
 また、エンジン内で上下運動をするピストン冷却系という機構でも同様の研究をおこなっています。高出力スポーツ車用のエンジンなどには、ピストン自体にオイル循環路を設けた「クーリングチャンネル」というものに、ノズルから噴出したオイルジェットが流入してピストンを冷却するものですが、冷却効率を上げるにはジェットの挙動をうまく制御する必要があります。しかし、その際にネックになるのが、ノズルがエンジンの構造上、曲がっていることです。様々な運転条件で曲がりノズルから噴射されるジェットの挙動を制御し、チャンネルにうまく流入させるために、ノズル内でどの様にオイルが流れてノズル出口から噴射され、液体のオイルと周りの空気が相互作用するかを、高速度カメラやPIVを用いて計測・解析をしています。

 最後に3つめです。エンジンシリンダ内は、ピストンの運動によって風が吹いており、その中にガソリンや軽油などの燃料が噴霧となって噴射され、噴霧が曲げられたり、排気バルブやシリンダ壁面に衝突した状態で燃焼が生じます。よって、燃料噴霧の挙動が気流がある時にどの様に変わるかを知る必要があり、噴霧の噴射圧力や雰囲気圧力・気流の速度などを変えられる実験装置を用いてさまざまな条件下での実験をおこない、環境によくない物質の排出(エミッション)を一層低減するための要素の一つとして、この研究を進めています。

 いずれの研究でも、流体および熱のエネルギーの損失をなるべく減らすためにはどうしたらいいのかということを追求しており、研究の際には、「何のための研究か」といった工学的観点と、「なぜそうなるのか」といった理学的観点を意識してテーマに向き合うようにしています。

学生とのひととき
実験の様子

醍醐味はこれまでにない知見を発見すること。成果を社会に還元していきたい。

 私は講義が終われば将棋に明け暮れているような学生でしたが、学部4年のときに「数値流体力学」の研究室に配属されたあたりから、研究者をめざすようになりました。自分で流体シミュレーションコードを書き、いろいろな結果が出せるようになったことで、流体力学がよりおもしろい学問と感じるようになったことが大きかったように思います。

 さらに、研究を続けるなかで研究の楽しさを感じることも多々あります。例えば、これまでの知見ではよく分からない結果か出てきた際に、原因を探って、新しいあるいは発展性のある知見を見出せたとき。学生からさまざまなアイデアや議論が出てきた場合にも感心させられると共にいっそうの楽しさを覚えます。

 一方で、私たちの研究は、研究室の学生や共同研究者をはじめとした多くの人に支えられているということに常に感謝しています。そして、真摯に研究に取り組んだ結果として得られた研究成果が社会に還元され、環境問題等の解決に貢献できることにつながれば、これほどの喜びはありません。

 私たちの研究室には留学生も多く、インターナショナルな雰囲気のなか、日本人学生も賑やかにかつ懸命に研究に取り組んでいます。広島大学の学生は、社会から高く評価され大いに期待されていますし、工学系の学生たちも卒業後は製造業に限らず、実にさまざまな分野で活躍しているということを、企業との共同研究を通じて実感しています。進路を考えている皆さん、ぜひ工学部にアプローチしてみてください。そして、皆さんの普段の生活に密着した「流体力学・流体工学」の研究に興味が湧きましたら、ぜひこの研究室を訪ねてきてください。

研究室の学生達と一緒に

尾形 陽一  准教授
Yoichi Ogata
動力システム研究室

1998年3月  東京工業大学大学院 総合理工学研究科 修士課程修了
2000年4月~ 東京工業大学大学院 理工学研究科 助手
2005年7月  東京工業大学大学院 総合理工学研究科 博士課程修了(理学) 
2007年4月~ 広島大学大学院 工学研究科 准教授
2020年4月~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授


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