流産物のDNA検査、遺伝学的検査はどう扱う?

 2017年2月14日付けの地元新聞に、「県立広島病院で流産物のDNA検査を導入する」という記事が取り上げられていました。これは2013年から当院の遺伝子診療部で扱っている流産や不育症の原因検索検査で、他にも胎児の病気の診断にも利用できる検査です。
 しかしながら遺伝学的検査と呼ばれるこのような検査は、診療においてはまだ保険診療となっておらず研究段階の検査で、様々な課題を抱えています。そのため臨床応用には、専門施設で専門医により慎重に扱う必要があり、社会への情報提供・報道にも、医療者が責任を持って行なうことが大切です。最近の記事の多くがセンセーショナルな情報のみで、読者側に誤解や混乱を生じるものが多いので要注意です。

 さて皆さんは、一般的な流産の頻度をご存知でしょうか。流産を経験する女性は、妊娠した女性の10~20%と意外に多いのです。その原因の約8割が赤ちゃん側の染色体異常です。その他の原因に、DNA検査で分かる赤ちゃん側の遺伝子の異常や、お母さん側では、ホルモンの病気、血液の病気、環境の因子などがありますが、いずれも僅かです。
 そこで最も必要となるのが、遺伝学的検査よりも、専門医の臨床診断なのです。妊娠してからの経過や赤ちゃんの状態を細かく評価し臨床診断を行なってから、どの検査が有効なのかを判断することが最も重要です。一般的な診療では流産や死産の原因について、詳しい説明が少ないのですが、最新の医学を有効に活用したいものです。

 出生前検査のコラムでも超音波検査のことをお話しましたが、どんな道具も検査も同じ。利用する人の技術や知識があってこそ、その意義が高まるのです。新型出生前検査でも、実施できる施設や医師が限られているのはそのためです。
 これまで流産を経験した多くの女性が自分を責め、自分がしたことが原因だったのではないかと後悔の思いを抱いてきましたが、原因の多くは臨床診断と遺伝学的診断で判明できるようになりました。そして、きちんと検査を行なっておくことで、次回の妊娠に備えることができるのです。これこそが遺伝学的検査のメリットです。ただしメリットばかりではないので、しっかりと専門施設での遺伝カウンセリングが必要です。

 学会の認定する『生殖医療に関する遺伝カウンセリング受入れ可能な臨床遺伝専門医』http://www.jsog.or.jp/activity/rinshoiden_senmoni.html も随分増えてきました。広島では当院に次いで、中電病院、呉医療センター、県立広島病院、中国労災病院で可能となりました。是非お近くの専門医にご相談ください!

 最後に、一つお知らせです。
私達は、最新の様々な医療情報が、マスコミでは正しく詳細に伝わらないことが多いため、女性医療者自ら社会に伝えたいと考え、「妊娠を考える女性と家族のためのセミナー」を8月から行なっています。上記のように、他では聞けない話題が満載です。
 次回は来る2月18日3月25日に予定していますので、皆様ふるって、ご家族お揃いでご参加ください。

第2回 妊娠を考える女性と家族のためのセミナー
第2回 妊娠を考える女性と家族のためのセミナー

2017年2月18日開催


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