題目: 高スピン偏極ヘテロ接合界面の第一原理設計
講師: 白井正文(東北大学 電気通信研究所)
日時: 2008年10月21日(火) 17:00-18:00
場所: 理学研究科C212
超高密度磁気ディスク装置の読出しヘッドや不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)の基幹要素であるトンネル磁気(TMR)抵抗素子は、伝導に寄与する電子のスピンが一方向に偏極した電流を利用した次世代スピントロニクス素子の典型である。スピントロニクス研究の将来の進展を期するためには、効率よくスピン偏極電流を供給するスピン源の創製が不可欠である。そこで、高スピン偏極(ハーフメタル)強磁性体のスピンフィルタ機能を利用したスピン源を、第一原理計算に基づいて理論設計した。ハーフメタル特性を有するホイスラー合金を電極に用いた素子において、低温で500%を越える大きなTMR比が観測されているが、温度上昇に伴い比は急激に低下する。我々は、ハーフメタル電極と酸化物障壁の接合界面に形成される局在電子状態が、界面におけるスピン偏極率の低下、ならびに温度上昇に伴う特性劣化の要因と考えている。そこで、ホイスラー合金/MgO接合における電子構造を第一原理計算し、高スピン偏極界面を探索した。その結果、Co2MnSi/MgO(100)接合では、界面がCo終端であるかMnSi終端であるかに依らずスピン偏極率が著しく低下するが、CrAl終端の界面を有するCo2CrAl/MgO(100)接合では、フェルミ準位近傍に界局在電子状態は存在せず、高スピン偏極率が接合界面に至るまで保持されることを見出した。しかし、Co2CrAlのΔ1バンドはフェルミ準位近傍に存在せず、MgOにおけるΔ1バンド電子の優先透過性を活用できないので、Co2CrAlを数原子層挿入したCo2MnSi/Co2CrAl/MgO/Co2CrAl/Co2MnSi(100)接合が、温度上昇に伴うTMR特性の劣化を克服する素子構造として有力な候補である[1]。現在のエレクトロニクスの基幹を担う素子・プロセス技術の有効活用を考慮すると、Siをベースとしたスピントロニクス素子の開発が望まれる。特に、Siへの高効率スピン注入の実現が非常に重要な課題である。バルクにおいて100%スピン偏極した電子構造を有するハーフメタル強磁性体はスピン源として有望な材料であるが、半導体とヘテロ接合を形成すると、界面付近において著しいスピン偏極率の低下を示す場合が多い。そこで、格子整合性の比較的よいホイスラー合金とSiのヘテロ接合の電子構造を第一原理計算することにより、ヘテロ接合界面においても高スピン偏極率が保持されるスピン源の候補を探索した。その結果、ホイスラー合金Co2FeSi/Si(110)界面において、高スピン偏極率が保持されることを初めて見出した。この(110)界面は各原子周りの配位様式が比較的バルクと似た構造をしているために、エネルギー的にも安定であり、高スピン偏極率を保持しているものと考えられる。ホイスラー合金Co2FeSiは高い強磁性転移温度を有し、実際にSi基板表面の熱酸化膜上に規則合金として形成可能である。したがって、Co2FeSi及びその関連物質はSi(110)界面を介した高効率スピン注入源として非常に有望である[2]。[1] Y. Miura, H. Uchida, Y. Oba, K. Abe, and M. Shirai,Phys. Rev. B 77, 054413 (2008).[2] K. Abe, Y. Miura, Y. Shiozawa, and M. Shirai, (to be published).
担当: 木村 昭夫(理学研究科)・内線7471
5研究科共同セミナーの認定科目です
*5研究科共同セミナーの単位認定等につきましては、所属研究科の学生支援窓口にてご確認ください。
後援 先進物質機能研究センター
Home
- 自然科学研究支援開発センター(先進機能物質部門)
- 第334回 物性セミナー(5研究科共同セミナー:10月21日)