寄贈本の紹介(2019年度)

近代中国の国会と憲政ー議会専制の系譜

金子肇:著
有志社:出版社

著者からのメッセージ
「議会専制」とは、おそらく多くの日本人には耳慣れない言葉でしょう。民主主義を象徴する「議会」と、その対極にあるはずの「専制」が結びつくのでしょうか。しかし、近代中国とりわけ中華民国の時代には、「国会専制」や「立法専制」等々の表現が歴史の舞台にしばしば登場していました。本書は、「議会専制」という言葉をキーワードとして、辛亥革命から中国共産党の1954年全国人民代表大会に至る、近代中国の議会制と立憲政治の歴史を体系的に読み解こうとする試みです。

志賀直哉の方法

下岡友加:著
笠間書院:出版社

著者からのメッセージ
  日本近代口語文体の完成者と位置づけられる志賀直哉(1883-1971)の表現機構を個々の小説の具体相から明らかにした書。「城の崎にて」「灰色の月」といった代表的な短編小説から、志賀文学の最大のテーマである父との和解を描いた〈和解〉三部作、並びに唯一の長篇小説である「暗夜行路」を扱う。また、「暗夜行路」のために書かれた草稿や多くの未定稿及び全小説で用いられる人称の変化から、他者不在とされてきた志賀文学の特質に迫る。

戦後台湾の日本語文学 黄霊芝小説選

下岡友加:著
渓水社:出版社

著者からのメッセージ
  日本統治期台湾に生まれ、戦後も日本語を主な創作言語として使用してきた台湾人作家・黄霊芝(1928-2016)の小説選。黄霊芝自身の希望によって選ばれた小説10篇と、本書のために書き下ろされた黄の評論「違うんだよ、君―私の日文文芸―」を収める。第一回呉濁流文学賞受賞作である「蟹」や2・28事件を描く「董さん」など、精緻な描写力と巧妙な語りに卓越した力量をみせる作家である。巻末には編者による解説と年譜を付した。

戦後台湾の日本語文学 黄霊芝小説選2

下岡友加:著
渓水社:出版社

著者からのメッセージ
  日本統治期台湾に生まれ、戦後も日本語を主な創作言語として使用してきた台湾人作家・黄霊芝(1928-2016)の小説選の第二弾。前書に収めることのできなかった小説7篇と童話4篇、並びに本書のために書き下ろされた「俳句自選百句」を収録した。黄霊芝は1970年に創立した台北俳句会の主宰者であり、『台湾俳句歳時記』を編んだ功績によって第三回正岡子規国際俳句賞を受賞した俳人でもある。小説・童話・俳句と多岐にわたる黄の力量を楽しむことができる一冊。巻頭には編者による解説を付した。

ひですの経

折井善果・白井純・豊島正之:編著
八木書店:出版社

著者からのメッセージ
 19世紀末のベルリンの古書店目録に掲載された後、杳として行方の分からなかったキリシタン版『ひですの経』が2009年にボストンで再発見された。本書は世界で一冊しか存在しない「幻のキリシタン版」の原本調査をふまえ、高精細カラー複製に正確な翻字を添え、最新の学術的成果を盛り込んだ解説を加えた図書である。
 西洋式の金属活字印刷を用いて出版されたキリシタン版は、日本語資料として高い規範性を有する文献として夙に知られているが、『ひですの経』はそうした傾向に反し、日本イエズス会の写本に類似した言語的特徴が認められ、このことは、同文献が金属活字印刷に伴う十分な校正を経ていない「印刷された写本」と言うべき特異な存在であることを示している。

安曇野市方言のいま 安曇野市の言語状態(方言状態)の実態解明と問題分析

 

山田健三・白井純:編著
私家版

著者からのメッセージ
私家版
 信州大学日本語学研究室の教員と院生、学生を中心とする長野県安曇野市方言調査の成果をもとに、『日本言語地図』および『長野県史方言編』の過去の調査結果と比較しながら、方言の地理的分布とその変遷について様々な角度から分析した結果をまとめた。
 安曇野市は2005年に豊科、穂高、堀金、三郷、明科の各町村が合併して誕生した新しい市だが、市内64地点の調査により、従来の町村区分に対応した方言の地理的分布が一部で認められ、市内でも南と北、平野と山間地などで地域差がみられた。それと共に、世代間では方言使用の違いが著しく、市内小中学校で実施したアンケート調査によれば、若い世代では殆ど方言を使わなくなっていることがはっきりと裏付けられた。

日宋漢籍交流史の諸相ー文選と史記、そして白氏文集

陳 翀:著
大樟樹出版社合同会社:出版社

著者からのメッセージ
  本書は、筆者が現在取り組んでいる『史記』『文選』『白氏文集』を中心とする東アジア漢籍交流史研究の一環で公刊された論文の内、とりわけ十一世紀から十三世紀の日本における漢籍の伝来・抄写及び注釈・解釈に光を当てるものにもとづきつつ、加筆修正を行ったものである。また、本書の主な目的は、古日記や古文書などの第一次史料に基づき、中世日本における漢籍受容の実相の一端を明らかにすることにある。さらに、その背景における日中両国の文学観ないし文化観の相違についても探究する。

アグリビジネスの地理学

後藤拓也:著
古今書院:出版社

著者からのメッセージ
  本書は、1990年代以降に急速なグローバル化を遂げた日本のアグリビジネスに着目し、それら企業群による海外進出プロセスと、それに伴う農業地域の再編成メカニズムを、地理学的アプローチによって解明した。分析事例として、タイプの異なる3部門(加工トマト、ブロイラー、い草)を比較検討した結果、いずれの部門でも企業による海外調達が進み、日本の国内産地が著しく衰退したことが判明した。しかし2000年代以降は、企業が農産物の安全性や品質を重視するようになり、相次いで国内産地の確保を進めるなど、企業と産地の関係性に新たな変化がみられる。本書の分析によって、農業のグローバル化という捉え難い現象を、グローバル/ナショナル/ローカルという重層的な地域スケールで体系的に理解することが可能になった。

フランス大衆小説研究の現在

宮川朗子:著
広島大学出版会:出版社

著者からのメッセージ
  19世紀以降、安い値段で大量生産されたフランス大衆小説は、しばしば悪しき書物とみなされたが、広い読者層を熱狂させた。学校教育の場で教えられたり、大学の文学研究の場で論じられたりしてこなかったために、本格的に研究が始まったのは1990年代のことである。本書では、あまり開拓されていないこの分野に興味を持つ方のために、最近の研究動向と3点の楽しい論文に加え、フランス大衆小説を研究する上で読むべき参考文献と、フランスにおける大衆小説の歴史を見渡せる年表を巻末に収めた。
  フランス大衆小説の世界とその研究状況が把握できる、コンパクトで便利な一冊である。

 

インドネシアの宗教美術 鋳造像・法具の世界

伊藤奈保子:著
法藏館:出版社

著者からのメッセージ
  インドネシアにおけるイスラーム化以前の宗教については未だ不明な点が多く残っている。本書は、インドネシアや欧米等の寺院・博物館に所蔵されている鋳造像約1000軀、儀礼に使用される法具約600例を実地調査および総合的な分析を行い、15世紀以前のインドネシアにおいてヒンドゥー教や仏教(密教含む)が信仰されていたことを実証的に考察したものである。
 インドから日本への密教流伝についても、中国を経由する陸路の他、東南アジアの海路の関連性も提示し、その中継地としてインドネシアに注目することで、当時の海流文化の一解明に成り得る可能性も示唆している。

 

辺境の生成 征服=入植運動・封建制・商業

足立 孝:著
名古屋大学出版会:出版社

著者からのメッセージ
 
遍在する辺境から歴史を問い直す。
とめどなく生み出される無数の「辺境」ーそこではなにが生起するのか。中世イベリア半島を舞台に、従来のレコンキスタの図式を排して、征服=入植運動・封建制・商業の展開プロセスを実証的に解明。ラテン・ヨーロッパをも見通す新たなモデルを導き出す。

バッティの美文詩研究—サンスクリット宮廷文学とパーニニ文法学

川村悠人:著
法蔵館:出版社

著者からのメッセージ
   宮廷生活を営む王子のサンスクリット教科書として著された美文学作品『バッティの美文詩』(西インドに出たマイトラカ朝の宮廷詩人バッティの作、六世紀から七世紀頃)は、叙事詩の英雄ラーマの武勇伝を美文調で描きつつ大文法家パーニニ(紀元前五世紀から紀元前四世紀頃)の文法規則を例証することを目指したものであり、「美文論書」と呼ばれる作品群の先駆をなす。同作品は、サンスクリット文法学の伝統に対する宮廷詩人たちの態度や宮廷文化におけるサンスクリット語の有り様を探るための第一級の資料であり、文法学と詩学の両観点からその精髄を抽出したのが本書である。

The Kāraka Theory Embodied in the Rāma Story: A Sanskrit Textbook in Medieval India

川村悠人:著
D.K. Printworld:出版社

著者からのメッセージ
  サンスクリット伝統文法学が展開する意味論の中核を担う概念にカーラカ「行為参与者、行為実現者」と呼ばれるものがある。文の意味の主要素を動詞が表示する「行為」とし、その行為に様々な参与者が関わることで文意が完成する。古代インドの文法学者パーニニは、このカーラカにどのような種類があるか、それぞれのカーラカにはどのような特性があるかを文法規則を通じて定義している。本書は、前書で扱った宮廷詩人バッティがこれらカーラカ規則を詩的表現を用いて例証する章に焦点をあて、カーラカ理論研究に新たな資料と知見を提供しようとするものである。

フォークナー文学の水脈

花岡秀・藤平育子・大地真介他:著
彩流社:出版社

著者からのメッセージ
  アメリカ文学においてハーマン・メルヴィルと双璧をなすウィリアム・フォークナーは、アメリカ文学はもちろんのこと世界中の文学に多大な影響を与えた。本論集は、リチャード・ライト、コーマック・マッカーシー、アルベール・カミュ、小島信夫など様々な著名作家たちがいかにフォークナー文学のエッセンスを受け継いでいるかということを丁寧に検証することにより、フォークナーの「水脈」の実体を解き明かしている。

フォークナーと日本文学

諏訪部浩一・阿部公彦・大地真介他:著
松柏社:出版社

著者からのメッセージ
  本書は、日本ウィリアム・フォークナー協会設立20周年を記念して編まれた論集である。「南北戦争後の優れた文学の復興と同様のことが、ここ数年のうちに日本でも起こるだろう、すなわち、諸君の廃墟と絶望の中から、世界がその言葉を聞きたいと望むような日本人作家が現れ、日本限りの真実ではなく普遍の真実を語るようになるだろう」というフォークナーの予言を基に、太宰治、横溝正史、三島由紀夫、大江健三郎、中上健次らの日本文学とフォークナー文学を徹底的に比較検証している。

アメリカ文学と映画

杉野健太郎・諏訪部浩一・大地真介:編
三修社:出版社

著者からのメッセージ
  本書は、文学研究と映画研究の新たな地平を求めて、アメリカ文学を代表する作品のアダプテーションをめぐる批評実践を試みる論集である。文学と映画それぞれのメディアの表現方法の違い、原作と映画テクストの歴史性、改変の意味や効果などを論じている。取り上げる作品は、『白鯨』『ハックルベリー・フィンの冒険』『華麗なるギャツビー』『欲望という名の電車』『ブレードランナー』など。巻末に映画用語集を付けており、本論集は教科書としても使用できる。

「弱きもの」から抵抗者への変容

光森幸子:著
渓水社:出版社

著者からのメッセージ
  1983年に『カラー・パープル』でピューリツァー賞と全米図書賞を受賞したアリス・ウォーカーの長編小説全七作品を、四種類の暴力を切り口に、多角的かつ連続的視座から詳細に考察している。ウォーカーが提唱したウーマニズムを公民権運動の「非暴力思想」と関連付け、ウーマニズムの深化と発展、さらに彼女独自の思想の展開や宗教観を読み解き、既に一定の読みが定着している作品部分にも焦点を当て、ウォーカー作品の持つ広く深い世界観と新たな作品解釈を提示し、改めてその現代的意義を強く訴えている。

良寛道人遺稿

佐藤利行ほか:編
中国国学出版社:出版社

著者からのメッセージ
 
良寛(1758-1831)、江戸期の漢詩人、歌人、書家。『良寛道人遺稿』は慶応3年(1867)に編纂されたもので、良寛詩集の最初の版本であると同時に、良寛詩集の中では唯一の木版本でもある。この遺稿は現存数が極めて少なく、文学と書道の両面において高い文献的価値を有している。首都師範大学との共同研究で『良寛道人遺稿』の貴重な版本を発見し、中国教育部人文社会科学重点研究基地重大プログラムの研究成果として復刻を果たした。

明治維新と世界認識体系 ―幕末の徳川政権 信義と征夷のあいだ―

奈良勝司:著
有志舎:出版社

著者からのメッセージ
 
明治維新の「負け組」である徳川政権(幕府)を正面から捉え、単なる旧体制や抵抗勢力ではなく、近世的「公儀」、攘夷の実行機関、日本の国家代表といった性格規定が錯綜し、複数の政治路線が併存・競合した政治体として、文久~慶応期を中心にその政治動向を検討した。とりわけ、政権内の積極開国論が西洋への恐れや自己保身ではなく、近世後期から昌平黌で儒者古賀侗庵を中心に融合が進んだ朱子学合理主義と西洋知識に根ざす世界認識・国際秩序観、および学問吟味試験を通した実力派旗本層の台頭と不可分に結びついていたことを明らかにした。徳川政権という「鏡」を通して明治維新を分析することで、近代日本の土台を逆照射するする研究です。

明治維新をとらえ直すー非『国民』的アプローチから再検討する変革の姿ー

奈良勝司:著
有志舎:出版社

著者からのメッセージ
 
比較史の観点と近世史の成果をふまえ、長期的に明治維新を捉え直した。すなわち、江戸社会の〈自己完結の世界〉が生んだ「他者のなさ」が武家政権由来の「武威」意識と相まって独特の世界観を形成していたこと、そのもとで身分や領域ごとに細分化された無数の共同体群が、バランス調整と全会一致の原理で動いていたことを指摘し、それらが幕末維新期にいかに展開(転回)したのかを論じた。特に「公議」論の勃興に注目し、多数意見=衆議と正しさ=至当性の一致を必要としたこの理念を、維新政権も三条実美を頂点に追及したこと、明治六年政変におけるその分裂が、政治社会に民撰議院・立憲政体・君徳補導の追及をそれぞれ促したことを指摘した。

いじめはなぜなくならないのか

衛藤吉則:編
ナカニシヤ出版:出版社

著者からのメッセージ
  1900年代後半に、いじめ・校内暴力・不登校など、「学校病理」(学校教育がかかえる子どもたちの心身のゆがみに基づく問題)という言葉が広く世間で知られるようになった。これらの問題に対応すべく、わが国では、知徳体の総合的な力である「生きる力」の育成が方針とされ、とりわけ、「いじめ問題」を背景に「特別の教科 道徳」が設置されるに至った。本書は、この「いじめ問題」の構造的理解と克服の方法について、研究者や現場の小中学校教師によって教育学的・心理学的・倫理学的視点から解説したものである。本書は、喫緊の課題である「いじめ問題」の理解と解決法を考えるひとつの参考となるものと考える。


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