助教 伊藤 隆太(ITO Ryuta)

研究分野、研究テーマ

政治学、国際関係論:進化政治学、国際政治理論、外交史、社会科学方法論、政治思想、現代安全保障論

経歴

2009年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2011年、同大学大学院法学研究科前期修了。2017年、同大学大学院後期博士課程修了。慶應義塾大学大学院研究員、同大学大学院助教(有期研究奨励)、日本国際問題研究所研究員を経て、2021年4月より現職。博士(法学)。

学部の教育内容

学部では主に進化政治学と国際政治理論の授業を担当しています。

進化政治学とは進化論的視点から政治現象を分析するアプローチです。これまで政治学では合理的選択理論、定量的モデル、ゲーム理論など、人間の心のしくみを分析射程から除外したモデルが一般的でした。これらは簡潔性や数学的エレガントさといった基準からすると評価されて然るべきですが、実在論的な意味での科学的根拠を備えているとは言い難いです。そこで、学部の授業ではこうした点をじっくりと説明するなかで、なぜ進化論的視点から戦争と平和、民主主義といった政治学的テーマを考えることが重要なのかを伝えています。

国際政治理論では、リアリズム、リベラリズム、コンストラクティヴィズム、合理的選択理論といった、国際政治学における主要理論を講義します。またこれらの理論が具体的な経験的事例においてどのように作用するのかも説明します。たとえば、第一次世界大戦、第二次世界大戦、ヴェトナム戦争、現代の米中対立など、本質的に重要な事例にたいして、国際政治理論がどのような説明を提示できるのか、を講義します。くわえて、なぜ、どのようにして、理論を正当化できるのか、という方法論的な問題も、科学哲学の議論を踏まえつつ説明しています。

大学院の教育内容

大学院では主に進化政治学の授業を担当しています。ただし、進化政治学とは学際的なアプローチで、進化論以外にも多くの学問分野の知識が必要になります。そこでこうした点を踏まえて、授業では以下のことを講義します。研究関心は以下にまとめられる。第一には進化政治学の理論的な解説です。進化政治学とは社会科学において、どのような位置づけにあるのか、なぜ進化という視点が必要なのか、などを解説します。第二は戦争と平和の原因を掘り下げて理解することです。戦争は人間本性の悲惨さに由来するもので、平和とはそれが環境的要因(教育、リテラシー等)により相殺されることで起こる現象です。第三は国際政治学の定性的理論の構築です。進化政治学に基づいて、実際にどのような国際政治理論が構築できるのかを示します。その過程で定性的な社会科学理論の研究の仕方を伝えます。第四は

科学哲学に基づいた社会科学の方法論研究です。科学的実在論と反実在論のいずれの陣営に与するのかにより、社会科学者の理論構築の方向性は大きく異なってきます。こうした点を議論します。第五は国際政治における経験的事象(第一次世界大戦、第二次世界大戦等)の分析である。たとえば、第一次世界大戦やヴェトナム戦争は部分的には――しかし重要な意味において――、過信の産物であったということが示されます。

最近の研究について

最近の研究関心は以下にまとめられます。第一には進化政治学の理論的な体系化です。既に出版した書籍で示した進化政治学の一般理論を、さらに強化・洗練しようと試みています。第二は戦争と平和の原因を明らかにすることです。人間集団がなぜ暴力を行使して、そうした暴力行使はいかにしてコントロールされうるのかを、学際的に分析します。第三はリアリスト理論等、国際政治学の定性的理論の構築です。人間の心理、感情、バイアスなどを考慮した新たな国際政治理論を築いています。第四は科学哲学に基づいた社会科学の方法論研究である。科学的実在論に依拠して、理論とは近似的真理に漸進的に接近するものであると捉え、シニカルな相対主義に陥ることなく、世界の多様な局面を一定の制約条件下でモデル化することを目指しています。第五は国際政治における経験的事象の分析です。太平洋戦争、現代米中関係、第二次世界大戦、現代中露のハイブリッド戦争など、本質的に重要な事例を研究しています。第六はリベラリズムについての政治思想的研究です。リベラル啓蒙主義や合理的楽観主義の視点から、なぜ人類が歴史上大きく暴力を衰退させることができたのか、を考察しています。


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