キャリアセンターの松水征夫センター長が今年3月末で定年退職を迎えられるのを記念した講演会が、社会科学研究科主催で下記のとおり開催された。
日時:平成21年2月20日(金)13:30−15:00
場所:広島大学法学部・経済学部3階大会議室
演題:「人材育成における大学の役割と課題」
主催:広島大学大学院社会科学研究科
講演の概要は下記のとおりである。
【人材育成における大学の役割と課題】
Ⅰ 学生の就職支援からキャリア支援へ
平成10年5月に学生就職センターが設置され、平成16年4月にキャリアセンターに改組・拡充されたことに伴い、センター業務が3・4年生対象の進路・就職支援から、入学から卒業・修了までの学生のキャリア(生き方を考える)支援に変わった。
Ⅱ キャリアセンターのキャリア支援事業
(低年次生支援プログラム)
1年次生向けには、オリエンテーションや教養ゼミでキャリアガイダンスを実施している。
2年次生向けには、キャリア教育(「職業選択と自己実現」、「インターンシップとキャリアデザイン」を教養教育科目の総合科目として開講)、インターンシップを担当している。
(高年次生支援プログラム)
3年次生向けには、就職活動を支援するため、各種ガイダンス、卒業生によるキャリアセミナー、業界セミナー、合同企業セミナー、個別企業セミナー、インターンシップを実施している。
4年次生向けには、就職相談を実施している。
大学院生向けには、キャリアパスセミナーを実施している。
Ⅲ 経済学部及び社会科学研究科の就職率の推移
平成19年度における全学の最終的な就職率は、14年ぶりに90%以上に改善したが、平成20年度は景気の悪化から1月末時点で昨年同期より6ポイント悪化しており、最終的に90%を割ることが心配される。
Ⅳ 経済環境の変化と就職活動の進め方の変化
景気の悪化から企業の採用抑制で、厳しい就職戦線が予想されることから、キャリアセンターでは就職活動の準備を早期に始めるように指導している。学生の不安感からキャリアセンター主催のガイダンスやセミナー参加者が増えているが、キャリアセンターの就職相談も昨年の1.5倍に増え、相談担当者を増やしているが1週間先まで相談予約が入っている状況である。
Ⅴ 企業等の求める人材像
企業によって言葉は異なるが、経済産業省が提唱している「社会人基礎力」(前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力)を求められており、キャリアセンターでも、「挑戦する意欲を持ち、行動する意欲を持つ学生を育成する」ために、現代GPによるフロントランナープログラムを展開している。
Ⅵ 経済学部の到達目標型教育プログラムについて
経済学部では、昼間コースでは「現代経済プログラム」、夜間主コースでは「経済経営統合プログラム」という2つの到達目標型教育プログラムを展開しているが、企業等の求める人材像に適合した教育プログラムになっており、この教育プログラムによる卒業生が企業等でどのような評価を受けるかを検証して、見直しをしていただきたい。
Ⅶ エントリーシートの質問項目と面接試験
企業等に提出するエントリーシートでは、志望動機、大学4年間に力を入れて取り組んだこと、入社後及び将来のやりたい仕事、自己PRの4つについては必ず聞かれ、面接試験でそれぞれについて詳しく聞かれ、企業等の求める人材像への適合度が点検され、即戦力になるかどうかで合否の判定が行われている。
本学の到達目標型教育プログラムは、社会が求める人材を育成するカリキュラムになっており、従来の大学の成績表とは別個に作成する到達度評価は、企業が面接で点検している学生の能力評価に代わるものであり、大学の到達度評価が適正に行われていることを理解していただければ、到達度評価表の提出により、現在数回にわたって実施されている企業面接が1回で済まされるようになる可能性を秘めている画期的な制度であると考えられる。
Ⅷ 内定の取消しについて
経済学部4年生のうち3人が内定を取り消されているという状況にある。これから活動を始める学生はまもなく内々定をもらうことになるが、これからは内々定の取消しが心配される。内定の取消しは雇用契約の成立後の取消しで解雇に当たることから、ハローワークが企業を指導することになっているが、内々定の取消しは法律的にそうした指導対象になっておらず、企業側が業績の悪化を理由に安易に内々定の取消しを行うことが心配される。
Ⅸ 各学部・研究科訪問による課題発見・問題解決を目指して
キャリアセンターが、平成10年5月の学生就職センターの設置から10周年を迎えることで、これまでのセンターの事業活動に対する意見をお聞きし、センターのこれから10年間の計画を検討する参考にするため、平成19年9月に全学部長・研究科長を訪問し、インタビューした結果に基づき、キャリアセンターでは平成20年度から新たに次のようなキャリア支援事業を実施した。
・学生の就業意識及び就職状況の分析のため、6月に1年次生の意識調査、11月に4年次生・M2年次生への進路選択・就職内定状況等を調査
・就職相談体制を見直し、10月以降相談員を1名増やすとともに、12月から東千田・霞キャンパスからもIP電話によるオンラインキャリア相談システムを導入
・障がいを有する学生の就職支援のためのセミナーを12月にアクセシビリティーセンターと共同で開催
・進路指導・就職指導に関するFD・SDを9月に「学生のキャリア支援を考えるフォーラム」として開催
・ドクター及びポスドクの就職支援のため、8月に理工系キャリアセミナーを開催するとともに、9月にはドクター・ポスドクと企業研究者等との交流会を開催
Ⅹ 新入生の進路・職業選択に関する意識調査結果
平成20年6月に全学部の新入生を対象として実施した「進路・職業選択に関する意識調査」から明らかになった問題点を指摘した。
XI 卒業・修了予定者の進路選択・就職内定状況等に関する実態調査結果
平成20年11月に全学部・研究科の卒業・修了予定者を対象として実施した「進路選択・就職内定状況等に関する実態調査」から明らかになった問題点を指摘した。主要なものは以下のとおりである。
・キャリア教育科目受講生がまだ少ない(経済学部生は全学部の中で受講者の割合が最も高い)
・キャリアセンターのキャリア支援プログラムへの参加者がまだ少ない(経済学部生は全学部の中で参加者の割合が最も高い)
・大学入学後の各種インターンシップへの参加者が少ない(経済学部生は全学部の中で参加者の割合が最も高い)
・3年以内の早期離職の可能性について尋ねたところ、15%程度の学生が「早期離職する場合があるかもしれない」としており、大学側も卒業生のフォローが必要ではないかと考えられる。
XⅡ 広島大学における人材育成の課題
(学士課程の課題)
・到達目標型教育プログラムの完成と見直し
・就業体験のインターンシップから、企業等と連携した教育目的のインターンシップへの移行
・キャリア教育の推進
(大学院課程における課題)
・大学院におけるキャリ教育の必要性
・研究目的と連動した長期インターンシップ(3ヶ月程度)の導入
・企業の求める高度専門職業人の育成
・異分野に移転可能なスキルの習得を目指した講座の開設