量子ビーム開発プロジェクト研究センター

センター基本データ

  • 整理番号:19-07
  • 設置期間:2007年12月01日~2022年03月31日
  • センター長(所属/職名/氏名):先端物質科学研究科 / 教授 / 栗木 雅夫
  • 連絡先(TEL/FAX/E-mail)

プロジェクト概要

目的

“粒子加速器”によって人工的に生成される“量子ビーム”の応用範囲は,装置の誕生からおよそ80年を経て,今なお拡大を続けている。イオン,電子のビームは言うに及ばず,光,中性子,中間子,反粒子などの2次ビームも様々な分野で積極的に活用されている。これら多様な量子ビームの基礎物性を独自の理論的・実験的手法を駆使して解明し,次世代加速器の実現や既存加速器の性能向上に結びつけることが本プロジェクト研究センターの使命である。
センターの核となる“ビーム物理研究室”は,平成10年先端物質科学研究科に新設された。高品位量子ビームの生成・制御法の開発および次世代加速器の設 計研究を専門とする,国内の大学では初めてのグループで,最新の荷電粒子トラップ技術やレーザー技術などを応用した国際的にもきわめてユニークな研究が展開されている。特性の異なる3種類の非中性プラズマ生成・捕獲システムをビームダイナミクスのシュミレーターとして用いる実験手法は他に類例がなく,テーブルトップの加速器研究を可能にする。独自に開発した分子動力学コードに基づく理論的研究も行われており,とくに極低温イオンビームの物性研究では世界一の実績を誇っている。また,他機関と共同で,三次元レーザー冷却法による重イオンビームの超低エミッタンス化や低速反粒子ビーム生成実験なども進めており,研究テーマの先進性,学際性,多様性の点で当該領域において異彩を放っている。
この広島大学オリジナルな研究をさらに発展させ,他大学の追随を許さない強固な加速器研究基盤を確立するため,平成18年,高エネルギー加速器研究機構 (KEK)より電子ビーム源のエキスパートをスカウトした。本学HiSORや西播磨のSPring-8に代表される放射光リング,世界中の研究者は共同開発を進めている国際リニアコライダー(ILC),次世代光源として注目されるエネルギー回収型線形加速器(ERL)や自由電子レーザー(FEL)などの性能に直結する,最も重要なコンポーネントが電子ビーム源である。現在,その基礎開発研究を実施している大学は本学と名古屋大のみであるが,名古屋大の当該研究室は平成20年度一杯で閉鎖される。これにより,本センターが国内唯一の次世代電子ビーム源研究開発拠点となる。ILC計画やERL計画の関係者から本学におけるビーム源開発研究の積極的推進を強く要望されており,両計画の主要メンバーを客員に迎えてKEKとの連携をさらに強化する。ERL用電子源の高出力試験等は日本原子力研究開発機構(JAEA)の東海サイトで実施する可能性が高く,JAEAのチームリーダーも本センターのメンバーに名を連ねてい る。
本センターは基礎ビーム物理学の研究拠点としては国内最大であり,当該分野にいち早く注目した本学の先見性と特色を内外に広くアピールするには格好の組織と言える。また,加速器科学業界への人材供給の点でも,大きな貢献が期待できる。
 

背景

量子ビームは,基礎科学分野のみならず,医療,物質・材料科学,生命科学,産業などの領域で既に必要欠くべからざる道具となっており,その結果,加速器の性能に対するユーザーからの要求が日増しに高度化している。最先端の要素技術を単に集積するだけでは満足に動作する次世代加速器の建設はもはや困難で,量子ビームの基礎物性に対する深い理解が必要不可欠となりつつある。このような認識を背景に,他大学に先駆けて組織されたのが上述の“ビーム物理研究室”であり,本センターは一連の研究および他機関との連携をさらに発展させる上での基盤となる。特定の加速器建設プロジェクトに束縛されることなく,量子ビームに関する多彩な基礎研究が展開可能な組織は国際的にも希有である。また,量子ビームに高い汎用性を考えるとき,本センターから発信される成果が基礎科学の領域に閉じない学際的・社会的意味をもつことは明らかであろう。本学は小型光源リング “HiSOR”を有しているが,本センターの研究はHiSORの大幅な性能向上にもつながると期待される。
量子ビームの物理学が国内で新しい学問分野として認知されたのはごく最近で,コミュニティーの基盤は未だ確率途上にある。国内外の加速器研究機関と協力して,本センターを我が国における新分野の中核に発展させたいと考えている。
 

研究計画

2010年度:
高品位量子ビームの基礎物性研究用プラズマトラップシステム“S-POD”(Simulator for Particle Orbit Dynamics)の3号器を完成させる。S-POD1〜3号器を併用し、高密度ビームのコヒーレント共鳴不安定化現象およびナノ・イオンビーム生成実験を行う。前年度着手したペニングトラップによるビームハロー形成実験を継続し、予備的データの再現性を確認する。イオンビーム冷却蓄積リング“S- LSR”において、共鳴結合理論に基づく二次元レーザー冷却実験を行う。
高輝度電子ビーム源開発に関しては、NEA-GaAs光陰極実用化に向けて懸案となっている寿命問題解決のため、陰極劣化メカニズムの理解と超低ガス放出材料の開発に力を注ぐ。また、個々のマイクロパルス(バンチ)長が10ps程度のビームを高い平均輝度で発生させるため、1ms程度の長いマクロパルス運転が可能なL-band RF 電子銃空洞、ドライブレーザー等の開発に着手する。

2011~2012年度:
複数の線形ポールトラップおよびペニングトラップを用いたビーム物性の基礎研究を引き続き実施する。S-PODで使用する高周波電圧を正弦波から矩形波に変えた場合の集団共鳴特性、円形加速器で起こり得る共鳴横断(resonance crossing)の効果、レーザー冷却法の適用によるプラズマ集積実験、ビームハロー形成実験、等を並行して進める予定である。S-LSRでは、ソレノイド磁場の導入により、レーザー散逸力の最終的な三次元化を試み、超低エミッタンスの極限ビーム生成を目指す。
スピン偏極電子源として実績のある超格子GaAsカソードの構造を「高量子効率」および「超低エミッタンス電子発生」を目標に最適化し、実用化に向けた準備研究を開始する。また、安定な光源として近年発展著しいファイバーレーザー(1.55μmおよび1.05μm)の二倍波に最適化された光電子陰極の開 発も併せて実施する。L-band RF電子銃による短パルス、1ms長パルス運転の実証を行い、現在開発中の光空洞中に蓄積されたレーザー光とのコンプトン散乱による、短パルスX線の発生を目指す。


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