石灰岩地帯~人と自然の共生プロジェクト研究センター~

センター基本データ

  • 整理番号:14-11
  • 設置期間:2003年04月01日~2021年03月31日
  • センター長(所属/職名/氏名):大学院文学研究科 / 教授 / 竹広 文明
  • 連絡先(TEL/FAX/E-mail)

プロジェクト概要

目的

本研究センターは石灰岩地帯における自然と人間の共生の様相を、人文科学、自然科学の両者から迫ろうとするも のである。研究フィールドは広島県北部の帝釈峡地域に設定して研究活動を実施することにした。主な研究分野は考古学、歴史学、文化財学、地質鉱物学、植物 学で構成される。 この石灰岩地帯に住む人間は古来より、特異な自然環境の中で知恵を絞って自然に適応した生活活動を繰り広げてきた。この地域の人々は、 考古学的には約2万年前より石灰岩洞窟、岩陰をすみかとし、豊かな自然環境の中で、狩猟・採集といった生活活動を営なんできた。また、歴史時代になると、 山陽と山陰をつなぐ回廊としての地政学的な位置づけが、たとえば毛利氏と尼子氏の対立といった図式の中で、人間の政治、経済、文化の諸活動に影響を与えて きた。 今回の研究は帝釈峡地域の自然環境の特質を明確にし、その中で育まれてきた人間の歴史と文化がいかなる特徴を有するのか、といった事柄について、 瀬戸内側との自然及び歴史・文化との比較の上で解明していこうとするものである。 研究代表者の所属する文学研究科の付属施設として、帝釈峡遺跡群発掘調 査室が現地に設置されており、ここを基点に毎年、考古学の発掘調査を継続している。本研究センターの研究の主体もここを基地に実施を計画している。

背景

本研究センターを着想するに至った背景については、まず第一に、帝釈峡石灰岩地域を対象に実施されてきた既研究が考古学単独のもので、学際性がなく、行き 詰まりを感じていたことが強い動機となった。また、東京大学考古学研究室が北海道オホーツク沿岸文化をテーマに現地施設を基点に研究継続中であることが強 い刺激となっている。広島大学考古学研究室もまた、ここ30年以上にわたって、帝釈峡地域で考古学的調査を継続してきている。本研究センターのテーマは考 古学研究を超えて、中山間における石灰岩地帯の自然と人間文化の共生であり、他に例を見ない。 中山間の特定地域の自然と人間の共生研究から、過疎問題、 自然及び文化財の保護問題、周辺(地域社会)と中央といった、真の総合人間学的研究への進展も期待できよう。こうした地域研究は歴史学や考古学、民俗学と いった人文学関連分野で独自でなされることが多いが、本研究センターは特定地域の自然環境の特質を探り、人間がそれにいかに適応していったかを明らかにす るなど、自然科学分野と協調して研究を推進する点で大いに異なる。

研究計画

平成15~17年度:
帝釈峡地域における遺跡発掘調査・文化財の分布調査・古文献の悉皆調査と記録・地質学的調査・植物学的調査と各分野の個別調査と合同調査を実施。
平成18年度:
帝釈峡地域における遺跡発掘調査・文化財の分布調査・古文献の悉皆調査と記録・地質学的調査・植物学的調査と各分野研究の取りまとめの準備。
平成19年度:
帝釈峡地域を巡る自然科学と人文科学の総合研究の取りまとめ。この他に、研究成果報告の手段としては、各年度の発掘調査時には地域貢献の一 環としての現地において遺跡見学会、展示会、講演会を計画する。また、広島大学内においては、文学研究科史学研究会大会時などで学術発表したり、発掘成果 展示会を実施し、研究成果の公開を行う。
平成20年度:
広島県北部の帝釈峡・阿哲台石灰岩地帯での先史時代遺跡の発掘調査を通じて,特殊な環境に生きた当時の人々の生活や自然環境の復元を試みる。自然科学系など他分野との共同研究を行う。
平成21年度:
20年度と同様の研究を実施する。非石灰岩地帯での同様な検討の試行的検討を開始する。
平成22年度:
前年度と同様な研究を実施する。非石灰岩地帯でのあり方との比較研究は地域自治体との連携で本調査を開始する。

主な事業活動

帝釈峡地域における考古学的調査:石灰岩洞窟、岩陰遺跡の発掘調査の実施と成果の公開。発掘調査については地域住民の現地見学会や発掘調査体験(神石郡神 石町大風呂洞窟遺跡、比婆郡東城町東山岩陰遺跡において地域住民及び地元小中学校生徒を対象に複数回実施)を通じて地域社会に公開し、調査後は地域社会に 調査成果の報告会、講演会と発掘遺物展示会(神石郡神石町において2回実施)を実施して、地域貢献活動の一環とする。また、調査期間中の広報紙『いわか げ』や『帝釈峡遺跡群発掘調査年報』を刊行し、事業の内容を一般に公開する。 関連分野の研究活動は主に夏季の考古学的調査期間中に並行して実施する。歴 史学的調査は和名類聚抄に記載される地名と遺跡の立地から検討するなどの研究活動を実施。地質学的調査は遺跡の所在する洞窟や岩陰を対象に洞窟、岩陰の形 成時期、気温変動の分析といった研究活動を実施。植物学的調査は花粉分析の実施を計画中。 こうした一連の研究活動は大学内においても一般公開のシンポジ ウム、講演会という形で結実させる(計画中)。

主な研究成果

考古学分野:
神石郡神石町大風呂洞窟遺跡では中世から縄文時代草創期までの長期にわたる人間の生活活動が確認された。中世では出土土器から岡山県域で生産された陶器類の搬入が確認され、この地域における物流の一端が解明された。縄文時代においては約50m下に立地する大遺跡、観音堂洞窟遺跡との関連が取りざたされる遺物の出土など、一定以上の発掘成果が得られた。また、人間の生活活動は認められないが、自然堆積層から約3万年前の、ニホンモグラジネズミ、レミングといった氷河期の絶滅種の化石骨が確認され、氷期の自然環境の復元が可能となった。 その他の関連分野:自然科学分析の利用による検討では、古代における気温の変動からみた自然環境の復元と、当時の人間の生活との対応関係の調査は、良好な採集資料が得られなかったためか、顕著な成果は得られなかった。今後はカワニナを利用した別の方法による検討に切り替えることとした。また、植物学的見地からは花粉分析を実施して、古代における自然環境の復元をはかる予定であったが、これまでに準備が整わず、今後の課題とした。


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