注目される最先端研究の一例(2009)

海を耕し、豊かな「里海」へ エチゼンクラゲが伝える海からのメッセージ

ここ数年、大発生を繰り返し深刻な漁業被害をもたらしてきたエチゼンクラゲの研究を進め、世界で初めてエチゼンクラゲの人工繁殖に成功。謎に包まれた生態を少しずつ解き明かしてきました。現在、農林水産省の農林水産技術会議から広島大学が受託し、全国11機関が参加するオールジャパン体制でクラゲ対策プロジェクトを進めており、そのリーダーとしてエチゼンクラゲの発生予測や抑制を目指しています。手入れの行き届いた「里山」のように、海も適度に手入れしてやれば適切な状態に保つことができます。美味しい魚が持続的に捕れる豊かな海を目指し「里海創生プロジェクト」に取り組んでいます。

生物圏科学研究科 教授 上 真一

ミズクラゲが大発生して白くなった宇和海の航空写真(2000年8月)

広島大学の技術、宇宙へ 高精度のガンマ線望遠鏡でかつてない宇宙の姿をとらえる

広島大学が中心となって開発した半導体センサーを採用した宇宙ガンマ線望遠鏡衛星(Fermi)が2008年6月に打ち上げられました。従来のものよりはるかに解像度の高いガンマ線センサーを開発しましたが、確立した技術しか認めないNASAからの要請を受け、さらにセンサー一つひとつのクオリティを上げることに成功、不良部分を含む確率を極限にまで下げ、飛躍的に信頼度を高めました。衛星からは、観測史上最も高エネルギーのガンマ線バーストなど、新発見となるデータが続々と送られてきています。

宇宙科学センター 特任教授 大杉 節

フェルミ・ガンマ線衛星用に開発されたセンサー(中央の正方形部分(9×9cm2))このセンサー約1万枚がガンマ線望遠鏡に使用されています

「制がん免疫療法」肝移植後のがんの再発を予防する新たな試み

肝臓がんに対する肝臓移植後はがんの再発が多く見られ、全世界で予防法の確立が望まれています。提供された肝臓内の血液の洗浄(臓器灌流)の際の灌流液内にナチュラルキラー細胞(NK細胞)が多量に含まれていることを確認し、肝由来リンパ球からNK細胞を効率よく回収するシステムを開発。抽出したNK細胞を培養し、患者に点滴投与する方法で、強力な抗腫瘍分子(健常な細胞には影響せず腫瘍細胞のみを傷害する分子)を誘導できることを証明しました。また、このNK細胞には移植後のC型肝炎の再発を予防する研究を進めています。

医歯薬学総合研究科 教授 大段 秀樹

肝臓移植手術後、3日目にNK細胞を点滴で投与

「単細胞」は褒め言葉 粘菌から学んだ知恵でかつてないロボットを創出

単細胞生物である真性粘菌やアメーバには脳も神経系もありませんが、複雑な環境の中をうまく動き回りながら生き抜いています。なぜそんなことができるのかを、実験家と協力しながら、数理的アプローチによって解明しようとしています。その成果の一つが、北海道大学の中垣准教授との共同研究で、2008年のイグ・ノーベル賞に輝いた「粘菌の迷路解き」です。最近、東北大学の石黒教授(ロボティクス)を加えた異分野混成チームを作り、「生物に学び、複雑な環境の中をあたかも生物のごとく、しなやかに動きまわれるロボットを創り出す」というプロジェクトを立ち上げました。

理学研究科 教授 小林 亮

粘菌のココロを数字の力で抽出し、ロボットに注入

人にやさしい社会を目指して 多様性理解が育む知と創造力を大学から社会へ

2004年度文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム」に採択された「高等教育のユニバーサルデザイン化-総合大学における障害学生就学支援-」を通じて全学的支援体制構築に取り組み、本学の障害学生に対し入学から卒業まで一貫した修学支援体制が整いました。2006年度には、マイクロソフト社と協力し、ITの利活用などにより修学・就労・生活環境のアクセシビリティ向上を推進する人材を育成する「アクセシビリティリーダー育成プログラム」がスタート。2009年6月にはこれを大学だけでなく社会に開かれたプログラムにすることを目標として、産学官連携による「アクセシビリティリーダー育成協議会」を設立しました。

総合科学研究科 教授 佐野(藤田) 眞理子

障害学生修学支援からアクセシビリティ支援・教育へ

世界に平和をもたらすために 「法の支配アプローチ」で紛争をなくすための方程式を見いだす

世界で頻発する紛争は、その原因も状態もすべて個別的であり対処法も異なると考えられてきました。しかしそこにはなにか共通するものがあり、どのケースにも有効で妥当な解決法があるのではという“戦略的視点”から「平和構築と法の支配:国際平和活動の理論的・機能的分析」(創文社、2003年)によって「法の支配アプローチ」を提唱。第3回大佛次郎論壇賞を受賞しました。また、外務省委託事業として設立された「平和構築人材育成センター」では国内外での実務研修の企画・実施に携わっています。現在は「現地社会でのオーナーシップ」を研究し、紛争地の人々の立場にたった平和構築を目指しています。

広島大学平和科学研究センター 准教授 篠田 英朗

シエラレオネ市民社会組織メンバーへのヒアリング調査


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