注目される最先端研究の一例(2012)

卓越した研究力で、時代を牽引

研究者インタビュー1

「地球の医者」としての務めを果たすため、環境問題を分子レベルで解明する

大学院理学研究科 地球惑星システム学専攻 教授 高橋 嘉夫

マクロな現象を、ミクロな視点で分析

46億年もの地球の進化の歴史は、まさに奇跡の連続です。しかしその歴史を1年に例えると、人間は近代社会の発展に伴い、たった1秒で地球を急激に変えようとしています。私の研究は、そうした環境問題に対処するため、地球のこれまでの営み及び現在の地球が直面する問題に化学的に迫り、解決の糸口を探るもの。地球上のあらゆるものは元素でできているため、温暖化や水質汚染などのマクロな現象も、分子レベルで見ると新たな発見があります。
化学の目で地球を診断する、言わば「地球の医者」として、今そこにある環境化学・地球化学の課題に日々取り組み続けています。

微生物を用いて、レアアースを回収

最近では、大学構内にある池のバクテリアに関する研究から、レアアースの回収方法を提案しました。ハイテク産業に不可欠であるにもかかわらず、鉱石からの回収やリサイクルが困難なレアアース。低コストで環境負荷の少ない微生物を利用する方法を確立すれば、安定供給も夢ではありません。現在はさらに研究を発展させ、新たにDNAを用いた回収方法を開発中です。
その他にも、温暖化におけるエアロゾルの冷却効果に関する研究や、福島第一原発事故後のセシウムの移行状況調査などを進めています。これからも自身の研究を通して環境問題の解決に寄与していきたいですし、社会貢献度の高いこの分野で次世代の研究者を育てることもまた、私の使命だと考えています。

PROFILE

1997年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。98年より広島大学に在籍。専門は環境地球化学、放射化学。放射光を用いた環境地球化学的研究が評価され、日本地球化学会奨励賞、日本放射化学会奨励賞などを受賞。

研究者インタビュー2

科学と社会の歩みをたどることで、今の時代を考えるヒントが見えてくる

大学院総合科学研究科 総合科学専攻 准教授 隠岐 さや香

自然科学の転換期、18世紀フランスに着目

科学はどのように発展してきたのか、社会の中でどう位置付けられてきたのか。科学技術の歴史を、それを取り巻く社会とともにひもとくのが科学技術史です。中でも、私が長年追い続けているのは18世紀フランスのパリ王立科学アカデミー。これは史上初となる自然科学のためのアカデミーで、神学や哲学から科学が分岐した転換期にも位置する組織です。この時代の国家政策との関わりに着目しても、一人の科学者の生き方や思想に目を向けても、様々な発見があり興味は尽きません。神の存在など当時の人の世界観を理解しないと分からないことも多く、膨大な史料を読み解くのは根気のいる作業ですが、この上ない楽しみでもあります。

“科学は何の役に立つのか”という問いへの答え

科学の歴史をたどると、時代と共に変化してきたものと変わらないものの両方が見えてきます。過去には今では存在しない学問分野や概念が見られますが、一方で「科学は何の役に立つのか」という大きな問いは数百年もの間変わらず繰り返されてきました。現代においても原発の問題をはじめとした科学技術の在り方や、学問・研究の意味が問われることは少なくありませんが、歴史を通じて自然科学の有用性を考えることで、一筋の手掛かりをつかめるように思います。これからも科学をめぐる考察を続け、先人たちの残した言葉を伝え続けたい。それが今の時代について考える一助となれば嬉しいですね。

PROFILE

2005年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。10年より現職。専門は科学技術史、科学技術社会論。11年に著書『科学アカデミーと「有用な科学」』でサントリー学芸賞 思想・歴史部門を受賞

その他の最先端研究

[脳科学分野]
 文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム(精神・神経疾患の克服を目指す脳科学研究)採択

患者それぞれの症状に応じたうつ病治療法の開発を目指して

うつ病などの気分障害は自殺や長期休職の要因となっており、その本質的な解明が求められています。広島大学では、うつ病を科学的根拠に基づいて客観的に診断するためのバイオマーカー候補の発見や、脳の画像解析から判明した「こころ」を司る脳神経機能低下の発見といった世界初の成果が生まれています。そうした新たな技術や知見をもとに、様々な分野の専門家によるうつ病症状の解析を行い、症状の解明、実用化に向けたバイオマーカー候補を探索しています。これらの研究成果から脳科学に基づく診断・治療法の開発に挑戦し、さらには気分障害の脳機能異常の全容を解明することで、病気に苦しむ患者さんや、社会への還元を目指します。

医歯薬保健学研究院 教授 山脇 成人

 

[光機能化学分野]
 独立行政法人 日本学術振興会 最先端・次世代研究開発支援プログラム(グリーン・イノベーション)採択

世界が直面するエネルギー問題の解決へ

「ナノ」サイズのシリコンを用いて、(1)簡単な作製法 (2)入手しやすい原材料(3)安定性の全てを兼ね備えたLEDと太陽電池を作る研究をしています。通常のシリコンは微弱な赤外線発光のため目に見えませんが、フルカラー発光するナノシリコンを新たに発明し、白色LED照明を開発しています。また、光エネルギーを効率よく電力に変換する、次世代型のナノシリコン太陽電池も同時に開発中です。両方ともナノシリコン溶液を塗って乾燥させる簡便な手法で作製でき、実用化にも適しています。これからも、ナノシリコンで世界が抱えるエネルギー問題に挑みたいと思います。

自然科学研究支援開発センター 教授 齋藤 健一


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