注目される最先端研究の一例(2013)

卓越した研究力で、時代を牽引

研究者INTERVIEW1

瀬戸内海から、南極、火山、砂漠まで。生命の謎を巡る旅に終わりはない

大学院生物圏科学研究科 准教授 長沼 毅

豊かな海は、森によってつくられる

海に生息する多種多様な生き物たち。その生態を解明するべく、主に微生物学のアプローチから研究を進めています。海の生物生産を考えるにあたり、切っても切り離せないのが山や森との関係です。私は瀬戸内海における長年の調査から、森林の栄養分が川から海へ運ばれて微生物の餌となる「デトリタス食物連鎖」が、魚介類の生産に貢献していることを解明しました。一方、腐葉土由来の物質・フルボ酸にも着目し、海中で不足しがちな鉄を山地から取り入れる方法も探っている最中です。そうした経験をもとに、東日本大震災後は「津波で被害を受けた漁業を復活させるには、まずは山から」と、チェーンソーを手に杉林の手入れに勤しんだこともありました。

辺境に生きる生物を追い続けて

自身のライフワークとしては、高校生の時に深海生物に魅せられて以来、海底から南極、砂漠、火山など極限環境に生きる生物を追い続けてきました。謎を解くため現地に足を運ぶと、新たな謎が現れる。その連続で地球上のあらゆる場所を飛び回り、宇宙生命体にも興味が広がっています。身近な海の生態系を考えても、辺境の地に未知の生物を追い求めても、直面するのは「生命とは何か」「生命の起源とは」といった根源的な問い。そうした答えのない問いと向き合うことで、人間の生の在り方や進むべき未来を考える糸口が見つかるように思います。

PROFILE

1989年、筑波大学大学院博士課程生物科学研究科修了。94年より広島大学に在籍。専門は海洋生態学、微生物学。大学での研究の傍ら、極限状態に生きる生物の生態調査のため世界中を駆け巡り、多数のメディア出演もこなす。

研究者INTERVIEW2

ショウジョウバエの視細胞から、細胞内の輸送システムを解き明かす

大学院総合科学研究科 准教授 佐藤 明子

体の最小単位である細胞の仕組みに迫る

私たちの体を構成する細胞は、まだまだ多くの謎に包まれています。その一つが、細胞内の輸送システム。神経細胞や上皮細胞といった複雑な形態を持つ細胞は、小胞体で作られた膜タンパク質が正しい場所へ運ばれることで正常に機能しますが、この選別輸送のメカニズムは今に至るまで明らかになっていません。私はこの仕組みに関わる因子を見つけるため、ショウジョウバエの視細胞をモデルに日々の研究に励んでいます。具体的な手法としては、輸送機能に欠損のあるハエの変異体を見つけて観察を重ねるのですが、これが何とも根気のいる作業。途中で振り出しに戻ることも少なくありませんが、巧妙な実験系で美しい結果を提示するという自分なりの研究スタイルを築きつつ、楽しんで取り組んでいます。

次の時代を見据えた基礎研究

研究過程では論理的に様々な仮説を立てて検証を重ねますが、忘れてはならないのは、あくまで自分はいち観察者に過ぎないということ。ショウジョウバエの細胞に教えてもらうだけの存在であり、観察から見えてくることだけが真実だという意識を大切にしています。細胞の基本的な機能を解明する、言わば基礎研究なので、すぐに社会や医療の現場に活かすことは難しいかもしれません。しかし、こうした本質を追究する基礎研究があってこそ学問は発展していくもの。その積み重ねによって、いつの日かヒトや動物への応用も実現できると思います。

PROFILE

1998年、大阪大学大学院理学研究科博士課程修了。2012年より現職。専門は細胞生物学、視覚・神経科学。二児の母でもあり、子どもたちも生き物好き。10年日本動物学会奨励賞受賞。

その他の最先端研究

[病理学分野]
 2008年 日本病理学賞 受賞

病理学的視野から、がんのOmics研究を推進。診断・治療に応用へ

消化管がんや泌尿器系がんを中心に、Omics研究を展開しています。遺伝子やRNA、蛋白などの多量の情報を系統的に扱うOmics研究では、世界でも極めてユニークな解析法を用いて、実際のがん組織において機能している遺伝子を網羅的に解析。がんの発生・進展のメカニズムを明らかにするとともに、新しいシーズを発見し、診断や治療、予防に展開したいと考えています。私たちが目指す病理的研究は、「遺伝子・形態・臨床の懸け橋」の担い手として、得られたシーズを臨床現場に還元するもので、大変重要な役割であると自負しています。

大学院医歯薬保健学研究院 教授 安井 弥

 

 

[教育学分野]
独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業(2005~08、09~12年度)採択

「シティズンシップ教育」を通して、社会に貢献できる人材育成を目指す

「シティズンシップ教育」とは、社会の構成員教育のことです。「地域社会や会社、国家といった様々な社会組織の一員として貢献できる人材を育てること」を目標とした教育です。国際化の進む現代社会では個人で活動するケースが増え、人々がみんなで協同する機会が減っています。世界の多くの国々がこの課題に直面しており、そのためシティズンシップ教育の研究は今、国際的に注目を集めています。このような教育に対する考え方には、「欧米型」と「アジア型」の2つがあり、日本はその“両者の懸け橋になれる”という特徴を持っています。私は、この両者を結びつけるために尽力していきたいと考えています。

大学院教育学研究科 教授 池野 範男


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