注目される最先端研究の一例(2014)

卓越した研究力で、時代を牽引

研究者INTERVIEW1

肝がんから世界の人々を守るため、疫学の方法論を武器に立ち向かう

大学院医歯薬保健学研究院 教授 田中 純子

知られざる肝炎患者数の現状を証明

日本人にとって肝がんは非常に身近な問題で、年間の死亡者数は世界第2位にのぼります。私は肝がんの主な原因である肝炎ウイルス感染について、人間集団を対象に病気の原因や病態を究明する「疫学」の観点から研究しています。肝炎ウイルス感染に関するデータ、例えば献血者データを理論的に解析することで、無自覚の感染者が2000年時点で約350万人もいると推計しました。政府は肝炎対策基本法を設置し、多くの人が肝炎ウイルス検査や医療費助成が受けられるようになりました。エビデンスに基づいた対策を支える疫学研究成果を提示し、これからも肝がん対策に貢献していきたいと考えています。

日本での研究ノウハウを世界へ

最近では、ベトナムやカンボジアの政府と肝炎の共同研究も行っています。アジアは世界で最も肝がん死亡が多い地域ですが、その対策は進んでおらず、既に肝炎ウイルスに感染している患者数や、新規感染がどの程度起こっているかも把握できていません。日本で得た研究のノウハウを生かし、アジアでの肝炎研究と対策に取り組んでいます。また、この研究から得られる知見は、いまだに解明されていない、肝炎ウイルス感染の発生・拡大のメカニズムに迫る鍵でもあります。日本では得られない貴重なデータからも、肝がん死亡を減らすための新たな糸口が見つかるのではないかと期待しています。

PROFILE

1980年、お茶の水女子大学理学部数学科卒業。医学博士。81年より広島大学に在籍。専門は衛生学、疫学・疾病制御学。大学での研究の傍ら、厚生労働省肝炎対策推進協議会など、評価や施策に関わる多くの委員を務め、日々研究と教育に情熱を注ぐ。

研究者INTERVIEW2

条件不利地域が持続的に発展できるメカニズムを探る

大学院文学研究科 教授 岡橋 秀典

過疎化に負けない、農山村のあり方

地理学とは、変わりゆく地域の特徴とあり方を解き明かす学問。私は地域の衰退と再生に焦点をあて、日本の農山村研究を進めています。住民に聞き取り調査を行うフィールドワークによりデータを集めて分析。過疎化の原因は地域産業の衰退だけではなく、農村部の労働力を吸引してしまう都市中心の社会経済システムにあることがわかりました。また一方で、崩壊の一途をたどるように見えた農山村においても、製造業や建設業の進出により地域基盤が一時的に維持されるメカニズムが生まれていました。ただ、今後持続的に発展していくためには、農山村が各々の自然資源、文化資源を生かして自立するシステムが必要です。

地域研究の知見を次世代へ

日本での研究手法を用いて、経済発展の著しいインドの農山村地域について現地の研究者と共同研究しています。干ばつなどの厳しい自然環境や、カースト制度による貧富の格差といった日本にはない社会条件もありますが、教育水準の向上や、工業化、農業の商業化により、インドの農山村も新たな発展を遂げつつあります。本学現代インド研究センター長としてさらに研究を深めていきたいですね。現在、リーディングプログラム「たおやかで平和な共生社会創生プログラム」で、インドを中心とした南アジアや日本の条件不利地域の発展について研究教育を試みています。研究で培ってきた経験や成果を次世代に伝え、人材育成に貢献したいと思います。

PROFILE

1980年、名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期単位修得退学。博士(地理学)。85年より広島大学に在籍。専門は人文地理学。盆地で育ち、山村の暮らしに興味を抱く。本学総合博物館長、現代インド研究センター長を務める。

その他の最先端研究

[化学分野]
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業先端的低炭素技術開発特別重点技術領域(2013~18年度)採択

アンモニアに着目し、次世代のエネルギーキャリアを開発

太陽光、風力などの再生可能エネルギーの利用は、地形・場所などの地理的な要因や気象・季節などの自然因子に大きく依存します。これらの課題を克服するため、再生可能エネルギーによって生産される電力や熱などを用いて得られた水素を、エネルギー貯蔵媒体(エネルギーキャリア)として安全に輸送・貯蔵を行う技術分野が有望視されています。本研究では太陽熱を利用し、水と窒素からCO2フリーの水素やアンモニアを合成する研究を行うとともに、様々な再生可能エネルギーの利用を想定した小型アンモニア合成技術を開発します。また、水素ステーションにアンモニアを利用するために、アンモニアからの高純度水素発生技術を開発します。

先進機能物質研究センター 教授 小島 由継

[化学分野]
独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業[新学術領域研究:2012~16(予定)、基盤研究(B):2014~16(予定)]採択

有機物を使った太陽電池を開発し、暮らしをより便利に

元素の特性と機能性を組み合わせた新しい分子設計をベースとして、高性能光電変換素子に応用が可能な新規有機材料の開発を行っています。中でも、いま一番興味を持って取り組んでいるのが、「有機物を使った太陽電池の開発」です。いわゆる「有機薄膜太陽電池」というものですが、軽量で曲げることができるという特徴があるため、建物外壁での発電やポータブル発電器など、様々な用途への応用が期待されています。私たちの研究で扱っている分子はこれまでにない新しいもので、開発途上にある有機デバイス
の研究において、非常に意義深いものと言えます。

大学院工学研究院 教授 大下 浄治


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