注目される最先端研究の一例(2015)

卓越した研究力で、時代を牽引

研究者INTERVIEW 1

船舶と翼の流体力学の観点から海の安全と快適を守る

大学院工学研究院 教授 岩下 英嗣

不安定に揺れる船舶のメカニズムに迫る

地上を走る車や電車に比べ、不安定に揺れてしまう船舶や飛行機。その理由は空気や水といった“流体”の中で動いているからです。私の研究対象は、流体中で物体が受ける力。特に船舶が海上を進む際の運動については、学生時代から研究を続けています。船は周りの空気や水との摩擦力と、海上の波の力、さらに船自身が起こす波の力(造波抵抗)を受けます。この造波抵抗を正確に推定するための理論計算と、模型による大規模な水槽実験を繰り返し実施しています。造波抵抗のメカニズムを探り、揺れの少ない快適な船型の設計に貢献したいと思います。

「工学=ものづくり」という本質のもとに

乗り物への興味と数学への探究心から、船舶海洋工学の道に進みました。「ものづくりこそ工学の真髄」という思いから、学生とともに人力ボート製作を始めました。それがきっかけとなり、特殊航空機や風力タービン、潮流発電タービンといった翼を持つものの力学研究にも取り組んでいます。現在開発しているのは想定最高時速500kmの地面効果翼機。水面近くを飛行することで発生する揚力(上向きに働く力)を利用する特殊航空機です。水上での離発着が可能で、飛行場を設ける必要がありません。離島と都市部間の新たな交通手段になると期待されています。既に基礎実験で安定性を確認していますが、実用化には課題も多く、今後さらなる検証を繰り返し、機体形状を工夫したいと考えています。

PROFILE

1990年、九州大学大学院工学研究科博士課程修了。2007年より現職。専門は船舶工学、航空工学、風車工学。研究の傍ら、学生とともに人力飛行機の設計・製作活動も行い、滋賀県で開催される鳥人間コンテストに参加している。2004年、日本造船学会賞、日本造船工業会賞、日本財団会長賞受賞。

研究者INTERVIEW2

個人と集団の幸福を両立するリーダーシップの法則性を追究

大学院総合科学研究科 教授 坂田 桐子

女性リーダーを取り巻く日本の問題に迫る

人が生きるうえで、集団との関わりは不可欠なもの。私は集団力学の視点から、リーダーシップの法則性について研究しています。長年研究しているのはリーダーシップとジェンダーの関係。このテーマは既に世界中で研究され、男女に能力差がないこと、女性リーダーに立ちはだかる障害などが分かっています。しかし、諸外国で女性リーダーが増加する一方、日本では少数のまま。日本だけ女性リーダーを増やせない原因を探るため、管理職の働き方や、女性を育成する手法など、さまざまな観点からアプローチしています。

個人が主体的に活動する集団のあり方とは

集団の目標達成と個人の幸福実現の両立には、良いリーダーが必要です。従来の定義では、管理職などの公式リーダーが一人で集団を指揮するべきとされてきました。しかし現実には、非公式なリーダー(肩書きはないが所属集団に影響力を持つ人)を含む複数のリーダーが存在する集団の方が効率的に機能することが、調査で明らかになりました。非公式リーダーが公式リーダーとは異なる良い機能を発揮していることが原因だと考えられます。私は現在、非公式リーダーが発生する法則性と、集団への影響の解明に取り組んでいます。また、地域団体やボランティア団体、NPO法人など、非営利の集団におけるリーダーシップも追究したいテーマの一つ。この研究には団体の協力が必要です。調査結果を研究だけでなく、協力団体の課題解決にも生かせると嬉しいですね。

PROFILE

1991年、広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程中退。同年より同大学総合科学研究科にて助手、講師、助教授を経験し、2009年より現職。専門は社会心理学、集団力学。リーダーシップ、ジェンダー研究の第一人者として広島県男女共同参画審議会の会長を務める。

注目の最先端研究

[化学・物理分野]
日本学術振興会 研究拠点形成事業[先端拠点形成型:2015~2019年度]、科学研究費助成事業[基盤研究(S):2013~2017年度]採択

キラルな物質・現象の統一理解と制御で、未来社会に貢献

左右の手のように、鏡像関係にあって重ね合わせることのできない性質はキラリティと呼びます。キラリティを持つ磁性体は、全く新しいメカニズムで動作する低消費電力の次世代コンピュータや高感度センサーの材料として、世界中で注目されています。広島大学研究拠点の一つ、キラル物性研究拠点は、日本・イギリス・ロシアを中心とした世界6カ国、20機関の149人の研究者らと連携する「スピンキラリティを軸にした先端材料コンソーシアム」の日本側拠点に採択されました。キラル磁気構造の制御、合成法の確立、応用までの研究を世界的に推進していきます。

大学院理学研究科 教授/キラル物性研究拠点リーダー 井上 克也

 

[環境分野]
環境省 環境研究総合推進費 閉鎖性海域・瀬戸内海における栄養塩濃度管理法の開発(2014~2018年度)採択

栄養塩濃度を管理し、持続可能な沿岸海域の実現へ

世界で9番目に大きな閉鎖性海域である瀬戸内海の栄養塩管理方法の開発に取り組んでいます。陸域から流入する栄養塩(窒素やリン)は、赤潮の発生などを伴う富栄養化を進行させますが、魚介類を始め海のさまざまな生き物を支える植物プランクトンなどに必須の物質でもあり、栄養塩が多すぎても少なすぎても海の豊かさは失われてしまいます。私たちの研究では、瀬戸内海の生態系構造の特性を理解し、栄養塩を中心とした水質との関連を解明することによって、赤潮などの障害を起こさない健全な物質循環と高い生物生産性を両立させた持続可能な沿岸海域の実現を目指します。

環境安全センター 教授 西嶋 渉


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