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第一線で活躍している研究者 先進理工系科学研究科 田中 亮 准教授

田中 亮 准教授 インタビュー

2022年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)採択者

ゴム材料の架橋を自在に外せる新技術。
今まで実現できなかった形でのリサイクルも可能に

高分子化合物の構造を設計し、それらを狙い通りに作る触媒を

専門は、高分子合成化学です。人間も含め、身の回りにある物質はすべて高分子(ポリマー)を含んでいますが、有機化学を使って高分子をうまく合成しようというのが我々の分野です。なかでもプラスチックやゴム、ラップフィルムや車の筐体などに使われる炭化水素系ポリマーである、ポリオレフィンやポリジエンなどに関する研究をしています。

これらの材料は、海洋プラスチックごみの問題などでも知られる通り、近年、完全に悪者扱いされています。しかし非常に軽くて扱いやすく、デメリットをはるかに上回るメリットがあるので、現状、人類の生活から完全に除外するのは不可能です。そうなると必要量自体を減らすしかありません。より少量で機能性を発揮し、長く使用できるようにすること。また、回収できるものに関しては、なるべく少ない労力でリサイクルできることが重要になってきます。

一般的に合成できるものは、ある程度、同じものが繰り返された構造をしています。これらの化合物は、化学式では非常に単純な構造の繰り返しとして表されますが、必ずしも同じようにつながっているわけではありません。繰り返し構造の長さや分布などを変えれば、強度や耐久性などの物性も大きく変わってきます。

ポリマーは、モノマー(低分子化合物)を多数つなげる重合反応により合成されますが、合成には触媒が欠かせません。これらの構造を設計し、狙ったとおりにつくれる触媒を開発するのが我々の仕事です。

ゴム材料を再成型できれば、これまでにないリサイクルに

ゴム材料をつくるには、炭素と水素からなる炭化水素系ポリマー同士をつなぐ、架橋という作業が必要です。それによりポリマーは網目状にくっつき、強度が出てくるのです。架橋には現状、硫黄を使っていますが、一度、網目をつくってしまうと、架橋点を外すことができず、元には戻せませんでした。つまり、架橋点を外せないことが、リサイクルの妨げとなっていたのです。

もし使い終わったゴム材料の架橋だけを外して再架橋し、再成型できれば、リサイクルが可能になります。現状、磨り減ったタイヤを回収しても燃やすしかなく、タイヤにはもちろん、ゴムの状態に戻すことは不可能です。再利用をするにも、ゴムの粉にして使うぐらいでした。

2022年度の戦略的創造研究推進事業(さきがけ)に、「架橋点を分解トリガーとするリサイクル性汎用ゴム材料の開発」というテーマで申請したのは、硫黄の代わりにホウ素を使うことで、架橋を自在に外せるゴム材料となり得る化合物を開発できたからです。架橋以外の主となる構造はまったく一緒なので、充分な強度があり、長さも自由に変えられます。

この素材は、架橋を外して再度くっつけても、ほぼ同じ性能を示すことがわかっています。しかし, 例えばタイヤなら強度を増すためカーボンブラックという炭素の粉末が入っているのですが、そのような混ざりものがある場合は、直接ゴム材料へとリサイクルさせるのは難しい。ポリマー部分をエチレンなど原料まで戻せれば、遠回りですがベターです。現状、原料に戻すにはまだ課題があるので、これから模索できればと思っています。

ゴム材料のリサイクル(再架橋)のイメージ図

他分野と関わり世界が開けるのも、高分子研究の醍醐味

ホウ素で架橋するというアイデア自体は、一般的なものです。子供の頃、洗濯のりにホウ素からなるホウ砂を加え、スライムをつくるという実験をされた方もいらっしゃるでしょう。洗濯のりはポリビニルアルコールというポリマーで、ホウ素と混ぜると子どもでも簡単に架橋させることができ、ぷよぷよとした弾性をもつスライムをつくることができます。容易にできる理由は、ホウ素と結合して架橋しやすい取っかかりがたくさんあるからです。

しかしゴム材料となる炭化水素系ポリマーは、どこにも取っかかりがない構造をしていて、我々はツルツルした構造と言っていますが、直接ホウ砂などを混ぜて架橋するのがとても難しい。触媒やモノマーにこだわって、ポリマーを合成する段階でホウ素を入れるようにしたのが我々の工夫で、この方法は今のところ世界で我々にしかできません。

さらに一般的なゴム材料は、構造が整然としていない化合物なのですが、我々のつくったものは架橋点が非常に美しく並び、網目が均一に分布しているため、より強いゴム材料になり得る可能性を秘めています。さきがけを通じて、ゴムを物理的な観点から研究されている方からのご意見もいただけたので、実用化に向けた共同研究も発展しているところです。

高分子は非常に多岐にわたる分野です。良いものをつくればさまざまなジャンルの人たちが興味を持ってくれ、フィードバックをくださり、新たな進展へとつながります。今まで自分がふれてこなかった世界が開け、人生が豊かになるのも、この分野を研究する醍醐味だと感じています。

田中 亮 准教授の略歴および研究業績の詳細は研究者総覧をご覧ください。


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