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第一線で活躍している研究者 先進理工系科学研究科 志村 恭通 准教授

志村 恭通 准教授 インタビュー

2022年度 創発的研究支援事業(JST) 採択者

低コスト・簡便な方法で極低温環境を実現する、
新たな技術を確立し、広くサイエンスの発展に役立ちたい

「極低温環境下」の物理現象を解明する

私の専門は物性物理学です。とくに「極低温環境下」における物質の性質(物性)を実験で調べることに力を入れています。絶対零度である0 K(摂氏マイナス273.15 ℃)から、わずかに高い0.1 K 〜 4 Kぐらいの極低温領域で、物質がどれぐらい磁性を持つか、どれだけ温まりやすいか、磁場をかけたときの反応や、電気の流れやすさなどを調べています。そうした物性研究を通じ、極低温環境下の物質の中でどういう物理現象が起こるかを解明するのが目標です。

実験対象としている物質の多くは、元素の周期表でいうと一番下の2行の島に位置している元素のうち、上の行に並ぶ希土類元素を含む化合物になります。希土類元素は、様々な電子軌道のうちのf軌道をまわるf電子を持つのが共通項で、極低温で磁性を持ちやすいという特徴を持っています。中でも注目しているのが、原子番号70のイッテルビウム(Yb)という元素に、銅とニッケルを混ぜた化合物です。この物質は金属であるため、極低温下でも熱をよく伝えることができます。

元素の周期表。グリーンで示したものが、原子番号70イッテルビウム(Yb)

物質というのは一般的に、温度を冷やせば冷やすほど秩序立った方向に進みます。物質の磁性というのは、ミクロレベルでは1つ1つの原子のもつ小さな磁石であるスピンがある方向に整った時に発生します。高温では高い熱エネルギーによって運動しますので、熱ゆらぎにより、スピンもあちこちの方向をフラフラと向くようになります。それに対して低温になればなるほど、スピンの熱ゆらぎは小さくなりますので、磁石を並べると向きが固定されるように、スピンも一定方向にそろっていきます。その結果、冷やせば冷やすほど磁性が強まり、熱ゆらぎによって覆い隠されていた物質の真の性質が姿を現します。

低温下と高温下では原子のスピンが異なる

「磁気冷凍」を用いて、極低温環境を実現

このような極低温環境下での物性を利用して進めているのが、創発に採択された研究テーマの一部の「イッテルビウム化合物を用いた、1K以下の極低温生成のための磁気冷凍材料の開発」です。研究のモチベーションとしては、「従来の方法よりも、簡単で低コストの方法で、絶対零度に近い極低温を実現したい」ということがあります。

絶対零度近くの温度まで物質を冷やすには、液体ヘリウム4を使うのが一般的です。液体ヘリウム4の温度は4.2 Kなので、物質をそれに浸せば、熱が奪われて4.2 K近くにまで下がります。さらに汗が蒸発すると涼しくなるのと同じ原理で、液体ヘリウム4を強制的に気化させて熱を奪うことで、1.5 Kぐらいまで温度を下げることができます。しかしそれよりも温度を下げようとすると途端に難易度が上がります。現在は、ヘリウム3というヘリウム4の同位体を用いることで1 K以下の温度を実現することが可能なのですが、ヘリウム3は非常に高価で、特に0.1 K以下の温度をめざす場合、さらに希釈冷凍機と呼ばれる高価で大型の機械が必要になります。そのため、1 K以下に物質の温度を下げられるのは、一部の限られた研究室でしかできないというのが現状です。

そうした背景から、私はイッテルビウム化合物を用いた「磁気冷凍」という現象を利用することによって、低コスト・簡便な方法で0.1 K程の極低温環境を実現できないかと研究しています。磁気冷凍というのは、ある特定の物質に強い磁場をかけることで磁石にしておき、周囲との熱のやり取りを断った状態で磁場を下げることで物質の温度を下げる技術です。例えば、物質を構成する原子は、特定の場所に固定され、とどまっている状態から解き放たれて、自由に動けるようになったときに、周囲から熱を奪う特性を持っています。スプレー缶からガスを放出するとスプレー缶が冷たくなりますが、それは中のガスの粒子が自由になったことで周囲の温度を下げることが理由です。磁気冷凍も、磁場を下げることで固定されていたスピンが一斉に自由に動き出すことで、物質の温度を下げるのです。

磁場を下げることによって原子のもつスピンが自由に動くようになり、その結果、周囲から熱を奪う特性を「磁気冷凍」と呼ぶ

志村先生が開発した「磁気冷凍」の特性を利用して極低温環境を生み出す装置

さまざまなサイエンスに役立つ技術の確立へ

磁気冷凍を行うには、極低温であってもスピンがバラバラに向いて動いている物質を使うことが必要になります。これまでの実験で、イッテルビウムに銅とニッケルを混ぜた化合物がとても有望であることがわかっています。液体ヘリウム4の気化を使った簡単な装置で物質を1.8 Kまで冷やした後に、この化合物を2.7グラム用いることで、0.17 Kまで冷やすことができました。同様の化合物を53グラム用いた実験では、0.3 K以下の温度を3時間以上保つことにも成功しています。ただし磁気冷凍を用いて冷やした材料は、時間経過に伴って温度が徐々に上昇してしまうという弱点があります。この弱点を解消する方法を生み出すことも、創発の研究では精力的に進めています。

極低温環境を創り出す技術は、量子コンピュータの開発や超伝導の研究など、さまざまなサイエンスの領域で求められています。創発の研究を通じて、これからの科学研究を促進させる技術を確立したいと思っています。

志村 恭通 准教授の略歴および研究業績の詳細は研究者総覧をご覧ください。


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