ヤギ乳房内に存在する三次リンパ組織に関する研究

本研究成果のポイント

  • 泌乳期ヤギ乳房内での異所的なリンパ組織 (三次リンパ組織)の形成を発見した
  • 三次リンパ組織を有する乳房では抗体産生能 (IgG, IgA)が高いことが明らかになった
  • タイトジャンクション機能に重要なクローディン発現が異なる様子が観察された

研究成果の内容

乳房炎は酪農生産において経済損失の大きな疾病であり、その予防にはワクチン接種が一般的である。ワクチン接種により乳房炎病原体に対する特異的な抗体の産生が誘導され、その反応は主に二次リンパ組織 (脾臓、パイエル板、リンパ節)で行われている。本研究では乳房内に二次リンパ組織同様の機能を有する異所的なリンパ組織 (三次リンパ組織)が存在するかを検証した。
泌乳期のトカラヤギとシバヤギから30分房を採取し、HE染色およびリンパ組織のマーカー (CD3; T細胞, CD20; B細胞, CD40; 樹状細胞, MECA79; HEVs)に対する免疫染色を行った。続いて、三次リンパ組織陽性群と陰性群に分類し、乳中抗体濃度 (IgG, IgA)を測定した。さらに、細胞間隙の物質透過性を制御するタイトジャンクションの様相を観察した。
HE染色の結果、19分房においてリンパ球の集合体が観察され、CD3やCD20などに対する陽性反応も認められた。そのため、大部分のヤギ乳房内に三次リンパ組織が形成されていることが判明した。また、三次リンパ組織陽性群の乳中IgG・IgA濃度は陰性群よりも有意に高い値を示しており、乳腺間質におけるIgA産生細胞数も多く存在した。そのため、乳房内三次リンパ組織は抗体産生に寄与していると考えられる。さらに、陽性群の乳腺ではクローディン-4量の増加およびタイトジャンクション領域での強い陽性反応も確認された。クローディン-4は、妊娠期や退行期の乳腺で発現量が多く、その増加により細胞間隙の透過性が高くなると考えられている。そのため、三次リンパ組織陽性の乳房では、抗原刺激の頻度が多く、リンパ組織の形成が促進されたと考えられる。
乳房三次リンパ組織の活用により、乳房炎に対する特異的な抗体産生の局所的な誘導による効率的なワクチン接種などの技術開発が期待される。今後はいつ、どのように乳房内で三次リンパ組織が形成されうるかを検証していく必要がある。

論文情報

  • 掲載誌: Frontiers in Immunology
  • 論文タイトル: Investigating mammary glands of lactating goats for the presence of tertiary lymphoid organs
  • 著者名: Tsugami Y, Nakayama S, Suzuki N, Nii T, Isobe N
  • DOI: 10.3389/fimmu.2022.941333
【お問い合わせ】

広島大学 生物生産学部 津上 優作
Tel:082-424-7993
E-mail:ytsugami*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)

掲載日:2022年9月15日


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