大学院統合生命科学研究科 中根 有梨奈 さん

取材日:2026年2月10日

 

統合生命科学研究科の中根有梨奈さんにお話を伺いました。
中根さんは、令和7年度に広島大学女性科学技術フェローシップ制度の理工系女性M2奨学生として採用され、支援を受けています。また、令和8年度からは、日本学術振興会特別研究員に採用されることが決まっています。
今回は、中根さんに、博士課程前期で実施している研究や生活の様子など、様々なお話を伺ってきました。(記載の情報は取材時点のものです。)

博士課程前期の研究内容について 

中根さんの研究内容について教えてください!

量子センサーと呼ばれる、細胞の中にも入るくらい小さく、環境に応じて蛍光が変化する粒子を用いて、生体内の温度やpHなどを計測する技術の開発を行っています。特に私が使っている量子センサーは蛍光ナノダイヤモンド(FND)と言って、緑色の光を当てると赤色の蛍光を発します。その蛍光の強度が計測中にマイクロ波を当てると変化するのですが、蛍光強度がぐっと下がるマイクロ波の周波数があって、それを共鳴周波数と言います。その共鳴周波数が温度に依存して変化するという特性を利用して、周波数を特定することによって、温度を計測するということを行っています。通常は培養細胞や線虫などに入れて計測を行いますが、マウスへの応用は技術的な問題からあまり一般的でなく、それを解決するような技術開発をするというのが私の研究テーマの主軸です。
利用する技術としては、3次元的な情報を1回の撮影で記録可能なマイクロレンズアレイを備えたライトフィールド顕微鏡を用います。その際、3次元を2次元にする段階で失われる情報量の補完や再構成が必要となりますが、そこで必要となる大量の撮影と積算を省力化する方策として深層学習の技術も活用しています。
また、博士課程後期の計画として、これまで研究してきた量子センサーの新たな応用に取り組む予定です。脳の情報処理の仕組みを理解するために、神経活動を蛍光として測定する手法は広く用いられていますが、生体内では光が散乱して蛍光像が乱れます。散乱を補正する補償光学という技術がありますが、この手法に必要な明るい目印(ガイドスター)は生体内には存在しません。そこで独自の高感度化技術により明るく検出できる量子センサーをガイドスターとして用い、生体内の光散乱を補正することで、より正確な神経活動の計測を可能にする技術の開発を目指します。

このテーマを選ばれた背景を教えてください。

学部2年の冬頃、研究室配属が近づく中で、どのような研究に取り組みたいのか決めきれずにいました。そんな時、現在の指導教員から研究についての話を聞く機会があり、自ら新しい技術を開発し、その技術を用いて生物を計測するという研究の進め方を知りました。これまで技術的な制約によって十分に計測できなかった生物の振る舞いを、新たな技術を開発することで捉えられるようにする点に魅力を感じ、そのような研究に挑戦したいと思いました。実際、研究に使う顕微鏡自体もオリジナルで組む、ということをやっています。先に述べたライトフィールド顕微鏡を用いた技術も、私たちの研究室で研究しているテーマの一つです。

研究の面白さ、苦労について教えてください。

試行錯誤していく過程が面白いです。実験して結果を得て、その結果からどういう傾向があるかというのを見つけ、次はこうしてみようと考えるプロセスが好きです。それで予測が合っていたらさらに嬉しいです。
苦労の面では、私は元々生物科学科で、例えば量子センサーという言葉もこの研究室に来て初めて知ったほどですし、光工学の知識もなかったので、自分で一から勉強しなければいけません。反面、新しい知識を得ていくことは楽しいとも感じています。

中根さんが研究を行う様子

博士課程前期の生活について 

毎日のスケジュールについて教えてください。

朝は、10時までには研究室に来ています。帰りはその日の実験の進み具合で変わってきます。特に生物を使う実験は、一度始めるとなかなか中断は難しいので、終わるまで続ける必要があります。性格的にも中途半端で終わるのが嫌いなので、遅くまで残ることに対してはポジティブな気持ちでやっています。
次の方針に迷ったりして、デスクでパソコンをじっと見つめていても埒があかないという日には、早く帰ってご飯を作って食べたり、家の掃除をしたりすることもあります。

中根さんの研究の進め方について教えてください。

昔は全部自分でやるべきだと思い込んでいたのですが、最近は考えを改め、指導教員に相談して議論しながら次に進める、ということを意識的に行っています。その過程で自分では見えなかった新しい発見を得られることも多いです。

研究室の雰囲気はどんな感じですか?

構成としては教員が1人で、配属されている学生はM2の私とD2の先輩2人で、来年度からM1が1人入る予定です。あと、学部生で通ってくる人もいて、ひとりは理学部、ひとりは情報科学部です。私の研究室はスタッフが多く、同世代でワイワイというよりは、雰囲気としては落ち着いた感じです。D2の先輩からは、ミーティングの際などによくアドバイスをもらっています。研究室内でのミーティングは隔週で、また、共同研究先とも週をずらして隔週で行っています。
(中根さんの研究室は、東広島キャンパスから少し離れた広島中央サイエンスパーク内の広島大学イノベーションプラザにあります。)

趣味や特技はありますか?

研究が第一という感じで、積極的に他の何かをやることはあまりないのですが、気分転換の一つとして幼少期から親しんできたピアノを今でも楽しんでいます。ピアノと研究には意外に共通点が多く、日々の練習を通じて課題を見つけ、工夫しながら改善していった経験は、研究において試行錯誤を重ねながら実験を進める際にも活かされていると感じています。また、発表会などで人に演奏を披露した経験は、自分の思いや意図を聴衆に伝えるという点で、学会発表にも役立っています。そういう意味では、ピアノの先生にも本当に感謝しています。

研究活動での英語の使用について教えてください。

国際学会に参加すれば海外の研究者とも接することになるので、英語は必須です。英語で会話ができれば論文で読んだことのある海外の研究室の方と意見交換するなど、研究者として幅が広がります。しかし私も英語に自信があるわけではなく、国際学会でネイティブの方に質問された時に頭が真っ白になったこともありました。
今は英会話のオンラインレッスンを週1回受けているほか、国際学会に参加した際に海外の研究者のポスター発表に自分から積極的に質問するなどしています。
研究を始めると英語の勉強にはあまり時間を割けないので、学部生時代にしっかりやっておけばよかったと思っています。

博士課程後期への進学について

博士課程後期への進学を決めたきっかけを教えてください。

指導教員に勧められたことがきっかけです。その中で、研究を通じて課題解決能力や論理的思考力、プレゼンテーション能力など、研究以外でも役立つ総合的な力が身につけられるということを知りました。将来どのような進路に進んでも活かせるスキルだと思うので、そこに魅力を感じました。

進学について、不安はありましたか?

正直言って、あまり不安はありませんでした。
経済的な面では、私は卓越大学院プログラムの支援も受けていて、そちらは博士課程前期入学前に採択が決まっていたので、安心材料ではありました。さらに女性科学技術フェローシップ制度にも採択され、より安心感が増しました。両親は応援してくれていますが、博士課程後期まで進学するとなると負担をかけることになるので、このような支援制度には、とても助けられています。
また、指導教員から最近は博士人材を求められる流れがあるという話を聞いていて、それも安心材料でした。
私は生物系なので、他の理系の分野に比べたら女性が多いということもあり、女性だから進学をためらうということもありませんでした。

将来のキャリアパスについて

将来はどのようなキャリアパスを考えていますか?

今は目の前の研究に取り組むことに全力で、どこに進むとかいう具体的なところまでは決めていませんが、現時点では、企業・アカデミアのいずれも視野に入れつつ、従来の技術では解明が困難だった生物学の課題にアプローチできる技術の開発を行いたいと考えています。将来的には、その技術が多くの研究者に届き、生物学の発展に役立つ形で活用されることを目指しています。

女性科学技術フェローシップ制度について

女性科学技術フェローシップ制度に採択されるまでの準備について教えてください。

この制度については、指導教員からの情報で知ることができました。申請書の作成から二次の面接の準備まで、指導教員や研究室のメンバーにものすごく助けていただいて、それがなかったら採択されなかっただろうと思うほど感謝しています。

女性科学技術フェローシップ制度についてコメントがあれば、お聞かせください。

やはり博士課程前期2年の段階で博士課程後期の支援が保証されているという点が、いちばんありがたいです。私は前に述べたとおり卓越大学院プログラムの支援もあり博士課程後期への進学は決めていましたが、女性科学技術フェローシップ制度への採択でより不安が軽減されましたし、進学を迷っている人には大きな安心材料になると思います。
それに、申請書が学振の特別研究員と同じフォーマットというのも、学振への申請を見据え、よかったと思います。私もこれで学振申請の準備を早くから始めることができました。

理工系に進学する女性を増やすために思うことはありますか?

私自身は女性であることを理由に理工系への進学をためらった経験がないのでよく分からないのですが、理工系に興味がありながらも躊躇する方がいるなら、私のように経済支援を受けながら進学して研究できている人がいることを参考にしてもらえたら嬉しいです。

後輩へのメッセージ 

もし学部生の自分にアドバイスができるとしたら、どんなことを伝えますか?

この進路を選んで良かったと思っているので、「そのまま頑張って」と言いたいです。経済面など不安もあるかもしれませんが、フェローシップ制度のような支援もいただけるので、あまり心配しすぎないで頑張ったらいいんじゃないかなと思います。

最後に、博士課程後期を目指す学生たちにメッセージをお願いします!

私は大きな決断をする時には、後から振り返って後悔しないかどうかを基準の一つに置いています。当時色々な不安もあった中で進学を決断したことを振り返って、進学を選んで良かったと思っているので、皆さんにも後悔のない選択をしてもらえたら嬉しいです。広島大学は支援制度も充実していますし、博士課程進学を後押しする流れも強くなっているので、進学を迷っている人は心配せずに挑戦して欲しいです。研究をしたい、自分の手でこれを完成させたい、論文にしたいという思いがあれば、活用できるものは全部活用するくらいの気持ちでチャレンジしてみてください。

取材者感想

「中根さんは、「試行錯誤そのものが楽しい」と語られていた姿がとても印象的でした。結果だけでなく、その過程を大切にしながら自ら技術開発に挑戦されている点に、強い探究心を感じました。また、以前は一人で抱え込んでいたものの、今は周囲を頼りながら成長しているというお話から、研究者としての柔軟さも伝わってきました。「後悔のない選択をする」という言葉も心に残り、進路に悩む学生の背中を押す存在だと感じました。」(総合科学部総合科学科2年・迫田莉子さん)

「中根さんが取り組んでおられる量子センサーに関する研究は、複雑な仕組みが多く理解も簡単ではありませんでしたが、スライドを用いながらとても分かりやすく説明してくださいました。特に、測定したデータ画像を2次元から3次元に転換するとき、縮小されて解像度が低くなってしまうというネックを蛍光ナノダイヤモンドで対策したり、信頼性担保のために従来は30回も画像をスキャンしていたところを、改造を重ねて一度のスキャンで済ませられるようになったと伺い、研究への熱意に驚きました。何年間も同じことをテーマに研究していても、飽きより愛着が勝ると仰っていたことも印象的で、私自身のビジョンを広げる良い機会になりました!」(総合科学部総合科学科1年・小林芽衣さん)

左から迫田さん、中根さん、小林さん


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