講義概要

開設講座  広島から世界の平和について考える

講義「戦争と技術、戦艦大和の最後」

維新後の日本が、西欧から最も積極的に導入したものは産業技術、中でも軍事に関わる技術であった。日清、日露の戦役を最新兵器の導入で、辛うじて勝利した日本は、兵器と言うハードウエアーに偏った一種の技術信仰に陥っていった。国防戦略の部分として存在すべき軍備が、本来の目的である国家の要望とずれて行った経緯を、戦艦大和に見ることができる。

■講師プロフィール■
戸高一成(呉市海事歴史科学館館長)1948年、宮崎県生まれ。多摩美術大学卒業後、財団法人史料調査会主任司書、同財団理事、昭和館図書情報部長を経て、現職。専門は日本海軍史・書誌学。

講義「原爆投下の歴史的意義」

原爆を投下した側の意図と結果のズレを明らかにすることによって、原爆投下の歴史的意義を考察する。また、戦略爆撃の観点から原爆投下の意味を考え、戦争責任の問題と原爆投下との関連を明らかにする。

原爆による早期戦争終結と人命節約の効果を強調する意見は当初からあり、アメリカでは今なお世論の中で大きな位置を占めている。早期戦争終結と人命節約の効果は全く根拠のないものであるが、それが今なお強い影響力を持つ背景を、日本が戦時中に主導した大量殺戮としての戦略爆撃に対する連合国の当事者の見方を手がかりに明らかにする。

■講師プロフィール■
布川 弘(広島大学総合科学部 助教授)1958年、山形県生まれ。神戸大学大学院単位取得退学後、現職。専門は近代日本社会史。

講義「戦後復興と森戸辰男の平和論」

広島大学初代学長森戸辰男の平和論を軸に、敗戦後の近代都市広島の復興過程といわゆる「ヒロシマ」の平和論を分析する。

森戸辰男は、観念的平和主義の対極に位置し、戦争主義と暴力主義を排する現実的平和主義を提唱した。そして、動的な平和主義に立つものの、「暴力主義者の革命的平和主義ではなく、平和革命の上にたつ平和主義」であるとする。さらに、中立的平和主義とも異なり、「日本が民主的な国際連合の構成員となり、自国の安全が保障されることを希いそうしてそのためには、内外の事情の許すかぎ応分の協力を惜しまない」とするものであった。森戸の平和論は、全面か片面かで論争化していた講和問題に対しても、片面講和を漸進的な解決への一歩として、自らの現実的平和主義の立場を堅持しつつ、日本の国際社会への復帰を位置付けている。

■講師プロフィール■
小池聖一(広島大学文書館長、広島大学総合科学部 助教授)1960年、大阪府生まれ。中央大学大学院修了後、外務省日本外交文書編纂担当官を経て現職。専門は日本政治・外交史。

講義「原爆被害の医学的実相 ~放射線の人体影響と今後の治療展望~」

広島原爆による急性期の死亡者数は12万人以上と推定され,被爆後60年を経た現在も被爆者の方は放射線の後障害に苦しんでいる。最近の生命医科学の進歩により放射線の人体影響が徐々に解りつつある。放射線はゲノム(全遺伝情報)にキズを付けこれが何らかの原因となって癌などの疾患が発症する。従って,その発症機構が解れば新しい治療法も開発できる時代となった。本講義では,原爆放射線が人体に与えた被害を医学的に概説すると共に最近の研究の進歩により放射線の人体影響がどの様に解明され,その成果がどの様な治療に生かすことが出来るかについても述べる。

■講師プロフィール■
神谷研二(広島大学原爆放射線医科学研究所 分子発がん制御研究分野 教授)1950年、岡山県生まれ。広島大学医学部を卒業後,臨床研修を経て大学院で癌研究を開始。米国ウィスコンシン大学留学後,原爆放射能医学研究所(原医研)助手,1996年より現職。2001-2005年原医研所長を務める。専門は,分子腫瘍学,放射線生物学。

講義「被曝のひろがり~カザフスタン共和国セミパラチンスク核実験場近郊の核被害~」

カザフスタン共和国には米ソ冷戦構造の負の遺産とも言えるセミパラチンスク核実験場がある。そこでは、1949年から40年間、大気中での111回の核実験を含む合計456回の核実験が行われてきた。この核実験は多くの被害をもたらし、今日でも一説によれば100万人を越える被害者がいるとされる。

我々の研究チームは、核実験場近郊の被曝者を対象に自由記述の証言を含むアンケート調査を2002年から開始した。本講義では、これまで収集したアンケートと被曝証言の分析・考察を通し、セミパラチンスク核実験場で行われた核実験の被害の一端を提示したい。

■講師プロフィール■
川野徳幸(広島大学原爆放射線医科学研究所附属国際放射線情報センター 助手)1966年、鹿児島県生まれ。米国ドーン大学、広島大学大学院を卒業・修了後、リサーチアシスタント等を経て、2001年より現職。専門は平和学、特に原爆・被ばく被害の人文社会学的研究。

講義「国際平和構築へ」

「広島」は世界的に知られている都市だが、世界が「広島」について向ける眼差しは複雑である。原爆体験を通じた強い平和への願いが、どのように現在の世界が抱える問題につながってくるのかが、必ずしも明らかではないからである。したがって広島の人々の平和への祈りを世界に伝えていくためには、原爆体験の継承、核兵器廃絶に向けた取組みとあわせて、地域紛争などの世界の多くの問題について、ともに悩み、行動していく態度が必要となる。

だがそれにしても「広島」は、現代世界の諸問題の解決に、どう役立つのだろうか。本講義では、現代紛争問題および国際平和構築活動の現況について説明した後、講師が受講生をまじえて、広島の持つ意味について一緒に考えていく。

■講師プロフィール■
篠田英朗(広島大学平和科学研究センター 助教授)1968年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院修士課程、ロンドン大学London School of Economics and Political Science博士課程修了後、広島大学平和科学研究センター助手を経て、現職。専門は国際関係学、平和構築論。

[特別講演] 平岡 敬「私の平和論 : ヒロシマをめぐって」

■講師プロフィール■
平岡 敬(前広島市長)1927年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、中国新聞社入社。1978年、中国新聞社常務取締役編集局長、中国放送代表取締役社長等を歴任。1991年、広島市長に当選。1999年に退任。現在、中国・地域づくり交流会会長等。


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