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【研究成果】新たな乳がん発症機構の一部を解明~乳がん治療に新しい可能性~

研究成果のポイント

●広島大学医学部医学科の学生が自主的に取り組んできた研究で、難治性乳がんで多く発現するタンパク質を発見しました。
●このタンパク質は乳がん細胞の過剰な増殖を引き起こしてしまうことがわかりました。また、このタンパク質が新たな診断マーカーとして適用できる可能性を見出しました。
●この研究成果は乳がん細胞増殖の促進を引き起こす新しいメカニズムを示しており、治療法が確立されていない難治性乳がんの新たな治療標的と診断マーカーになることが期待できます。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科分子細胞情報学 伊藤 泰智 医学部医学科学生、齋藤 敦 准教授、今泉 和則 教授らの研究グループは、乳がんの一つであるトリプルネガティブ型乳がん(TNBC)で発現量が増加しているタンパク質AIbZIPを発見しました。TNBCは他のタイプの乳がんと比べて若年で発症する割合が多く、明確な治療標的が確立されていない難治性乳がんで、乳がん全体の15~20%を占めます。日本における年間罹患率は10,000~20,000名で、乳がんの中でも悪性度が高いと言われています。AIbZIPは細胞増殖を抑制する働きをもつタンパク質p27の分解に関与し、乳がん細胞の増殖を促進させてしまうことがわかりました。本研究成果は、AIbZIPがTNBCの新しい診断マーカーや治療標的となり、根本的な治療戦略の確立に繋がることが期待されます。
 本研究成果は日本時間1月18日(木)に、米国癌学会が発行する学術雑誌「Molecular Cancer Research」オンライン版に掲載されました。

論文情報

論文タイトル
AIbZIP/CREB3L4 Promotes Cell Proliferation via the SKP2-p27 Axis in Luminal Androgen Receptor Subtype Triple-Negative Breast Cancer

著者
Taich Ito1, Atsushi Saito1,*, Yasunao Kamikawa1, Nayuta Nakazawa1, Kazunori Imaizumi1,*  
1:広島大学 大学院医系科学研究科
*:Corresponding Authors

掲載雑誌
Molecular Cancer Research
DOI番号:10.1158/1541-7786.MCR-23-0629

背景

 乳がんは女性のがん罹患率で第1位、がんによる死亡原因では第5位で、非常に身近で根本治療法の確立が求められている疾患です。乳がんは、発現しているタンパク質の種類によって主に3つのタイプに分類されます。ルミナル型乳がんとHER2陽性型乳がんは治療標的となる物質が発見されており、有効な治療方法が確立されることで患者予後も大幅に改善してきました。一方トリプルネガティブ型乳がん(TNBC)は発症機序の全容解明に至っておらず、明確な治療標的も未発見です。一般的に各種抗がん剤投与などの維持療法が行われますが、明らかな効果が認められる治療法は確立されていません。そのため、TNBCの有効な診断マーカーや治療標的の確定と、それらを元にした根本的治療戦略の確立が強く望まれています。

研究成果の内容

 AIbZIPは前立腺がん細胞で強く発現するタンパク質として発見されました。がんの治療に興味をもった広島大学医学部医学科の学生が、自主的に様々な腫瘍組織におけるAIbZIPの発現量を調べる研究をスタートさせました。すると前立腺がん以外にTNBCでもAIbZIPの発現量が増加していることを発見しました。遺伝子ノックダウンによってAIbZIPの発現量を低下させると、TNBC細胞の増殖速度が低下しました。AIbZIPがTNBC細胞の過剰な細胞増殖を引き起こす原因は、AIbZIPが細胞周期を抑制する働きをもつタンパク質p27を分解するシステムを活性化してしまうためであることを突き止めました(図)。

今後の展開

 TNBCに対する有効な治療方法はまだ存在しません。本研究の結果から、AIbZIPがTNBC細胞の増殖を促進する新しいメカニズムが明らかになりました。AIbZIPの量や機能をコントロールすることができれば、TNBCの新規治療法の開発につながることが期待されます。また、AIbZIPの発現量を調べることでTNBCの早期発見や診断が可能となります。AIbZIPはTNBC以外にも前立腺がんなどでその量が増加しています。AIbZIPを標的とするがんの診断・治療はまだ確立されておらず、これまでの治療戦略とは全く異なったアプローチになります。したがって、今回の成果がTNBCだけに留まらず、様々ながん種の発症や増悪に至る仕組みの解明につながり、新規治療戦略の確立にも発展する可能性があります。

参考資料

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院医系科学研究科 齋藤 敦(さいとう あつし)
Tel:082-257-5131 FAX:082-257-5134
E-mail:saitoa*hiroshima-u.ac.jp

<広報に関すること>
広島大学広報室
Tel:082-424-4383 FAX:082-424-6040
Email:koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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