先端物質科学研究科 黒田 章夫 教授

タンパク質の進化工学と分子工学を使った例として、今日はバイオでアスベストを光らせる新手法を紹介させてください。
この研究を始めたきっかけは、2005年位から知られるようになった「アスベスト問題」でした。アスベストは繊維状の鉱物で、建材として古くから用いられ てきましたが、中皮腫などを引き起こす健康被害が明らかになり、2006年には全面使用禁止になりました。

しかし、建築物に使われたものが日本には4000万トンもあり、解体現場には飛散の危険性が残されています。このため、解体現場でアスベストをモニターす る必要があるのですが、従来の方法は、熟練の計測者が電子顕微鏡なども使って判定と計測を行ない、時間も長くかかるため、より良い方法が求められていまし た。

そこで私たちはまず、アスベストに結合するタンパク質を見つけました。これまでの研究で、シリコンと結合するタンパク質を発見していたので、シリコンの一 種であるアスベストにも、結合するタンパク質があるのではないかと直感。アスベストをモニターするのに抗体ができればいいのですが、無機物のため、それに 代わるものとして、アスベストと特異的に結合するタンパク質を探した訳です。

アスベストは肺の病気を引き起こすことから、肺組織からこうしたタンパク質を探したところ、いくつか見つかり、さらに大腸菌の中にも結合するタンパク質を発見できました。

私たちが次に考えたのは、このタンパク質を可視化することでした。そして、アスベスト結合タンパク質と蛍光タンパク質とを遺伝子操作で融合させ、アスベストを光らせることに成功し、非常に微細なアスベスト繊維まで可視化することができました。

こうして誕生したのが、アスベストの新しい検出法である「バイオ蛍光法」です。このように“バイオテクノロジーと無機物との間をつなぐ研究”というのはこれまでにないもので、まさに世界初の研究であり、私たち独自の研究であると自負しています。

2010年には、この研究を実用化したアスベスト検出キットを産学連携の形で世に送り出しました。この使い方は、大気を捕集したフィルターに試薬を数滴た らすと、蛍光タンパク質がアスベストに結合するので、それを蛍光顕微鏡で観察するだけという簡単なもの。本年2月には、蛍光画像からアスベストを画像解析 する自動認識ソフトウェアも企業と共同開発し、誰もが解体現場で迅速にアスベスト検査を行えるようになりました。

今後はこの2つを組み合わせた検査法が、環境省指定の「公定法」に認定されることをめざしています。

Profile

先端物質科学研究科 分子生命機能科学専攻 分子生命機能科学講座

1988年4月1日~1994年3月31日 信州大学 繊維学部 助手
1994年4月1日~1997年3月31日 広島大学 工学部 助手
1995年~1996年 スタンフォード大学 医学部 研究員
1997年4月1日~1998年1月1日 広島大学 工学部 助教授
1998年1月1日~2005年3月31日 広島大学 大学院先端物質科学研究科 助教授
2001~2004年 JSTさきがけ 研究員兼任
2005年4月1日~ 広島大学 大学院 先端物質科学研究科 教授


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