• ホームHome
  • 原爆放射線医科学研究所
  • 【研究成果】アスベスト(石綿)のがんの特効薬・核酸医薬の開発に成功〜ヒトでの臨床試験(医師主導治験)を2021年9月に開始〜〜新規創薬ベンチャー株式会社PURMX Therapeutics設立して実施〜

【研究成果】アスベスト(石綿)のがんの特効薬・核酸医薬の開発に成功〜ヒトでの臨床試験(医師主導治験)を2021年9月に開始〜〜新規創薬ベンチャー株式会社PURMX Therapeutics設立して実施〜

本研究成果のポイント

  • アスベスト(石綿)のがんである「悪性胸膜中皮腫」に対して、腫瘍を顕著に抑制させる可能性がある抗がん剤(核酸医薬)の開発に成功しました。今般、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医師主導治験として治験計画届を提出し、ヒトへの初めての投与を行うファースト・イン・ヒューマン試験(第Ⅰ相試験)の治験を開始することができることとなりました。
  • 開発した抗がん剤は、もともとヒトの体内の細胞で作られる核酸の一種であるRNAのうち「マイクロRNA」(注1)を薬効成分とする核酸医薬で、「天然型」であることから身体に優しい抗がん剤であることが特徴です。
  • 悪性胸膜中皮腫のモデルマウスを用いた動物実験では、胸腔内に1回〜3回投与を行うことにより顕著な腫瘍の縮小と生存率の大幅な延長が認められました。
  • がんの親玉と言われている「がん幹細胞」も死滅させる能力があり、がんの再発を抑えることができればがんを完治させることも期待できる抗がん剤です。
  • 本治験実施のため、広島大学大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室 田原栄俊教授が、新たに広島大学発のベンチャーとして、株式会社PURMX Therapeutics(パームエックス・セラピューティックス)を2021年1月27日に設立しました。

概要

広島大学大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室 田原栄俊教授、原爆放射線医科学研究所 腫瘍外科 岡田守人教授(責任医師)らの研究グループは、株式会社スリーディマトリックスと共同で、アスベスト(石綿)が原因で発症することが知られている悪性胸膜中皮腫に対して顕著な治療効果の可能性がある核酸医薬(注2)の抗がん剤の開発に成功しました。
共同開発した抗がん剤「MIRX002」は、天然型マイクロRNAを薬効成分とするもので、広島大学病院呼吸器外科 岡田守人教授による悪性胸膜中皮腫を対象とする医師主導治験(第Ⅰ相試験(注3))の治験届がPMDAに受理され、治験開始の準備が整いました。

 悪性胸膜中皮腫は、既存の治療法では十分な治療効果が得られず、発症してからの余命が約1年と短い、難治性がんの一つですが、悪性胸膜中皮腫のモデルマウスを用いた結果では、顕著な腫瘍の縮小と延命効果が見られ、ヒトでも同様の効果が期待されています。動物を用いた非臨床試験での安全性、有効性などの試験を適切に終了させて、ヒトでの安全性を評価する第Ⅰ相試験の実施を行う準備ができました。今後、悪性胸膜中皮腫で闘病される患者さんの募集を広く行い治験を実施する予定です。本研究は、アスベストが原因となる悪性胸膜中皮腫の治療方法を一変させる画期的な治療薬として、悪性胸膜中皮腫の腫瘍抑制および再発防止にもつながるものであり、今後アスベストに暴露された方の悪性胸膜中皮腫の発症が懸念される中で、大きな社会貢献が期待される成果です。
 
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 「橋渡し研究戦略的推進プログラム」のシーズB(2017−2019年度)、preC(2020年度)として採択され、橋渡し研究支援拠点である北海道大学拠点の支援を受けて実施した研究成果の実用化を目的としています。
 また、今回開始する医師主導治験は2021年度 AMED 「橋渡し研究プログラム」のシーズCに採択されており、広島大学病院広島臨床研究開発支援センターが治験の支援を担当します。さらに、橋渡し研究支援拠点である北海道大学拠点が引き続き支援し、AROとしてデータマネジメント業務、統計解析業務を担当します。
株式会社PURMX Therapeutics社は、治験薬(薬効成分miR-3140-3p)の規格の担保、治験薬製造に係る手順書に基づく原薬および治験薬の製造管理を行い、核酸治験薬の提供を行います。

用語解説

(注1) マイクロRNA
生体内に存在する20~25塩基からなる微小なRNAであり、他の遺伝子の発現を調節することで様々な生命現象を制御する分子です。これは、人の体内で合成される核酸で、判明しているだけでも約2600種類のマイクロRNAが存在しています。

(注2) 核酸医薬
核酸医薬とは、異常な遺伝子の働きに対し、それを抑制するように作用する新しい医薬品です。様々な遺伝子に対する核酸医薬が注目されていますが、現在のところ悪性胸膜中皮腫に対する治療薬として承認されている核酸医薬はなく、新たな開発が期待されております。マイクロRNAは、人の細胞で合成される核酸の一種であることから、「天然型」の核酸と呼ばれています。

(注3) 第Ⅰ相試験
新しい薬をはじめて人(患者さん)に投与する段階の試験。少数の患者さんで、投与量を段階的に増やしていき、薬の安全性と適切な投与量、投与方法を調べます。通常、標準的治療法のないがん患者さんが対象となります。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科
教授 田原 栄俊
Tel:082-257-5290
Fax:082-257-5294
E-mail:toshi*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)


up