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【研究成果】国内初!アスベストによるがん「悪性胸膜中皮腫」の根治目指す~広島大学発マイクロRNA創薬の治験を開始~

本研究成果のポイント

  • アスベスト(石綿)が主要な原因のがんである「悪性胸膜中皮腫」に対して、腫瘍増殖を顕著に抑制させる可能性がある天然型マイクロRNA*1を補充療法により抗がん剤MIRX002として開発する、悪性胸膜中皮腫を対象とした医師主導治験(第I相*2ファースト・イン・ヒューマン試験*3)において、1例目の被験者が1月12日に登録され、MIRX002が初めてヒトに投与されました。
  • 今回のMIRX002は、広島大学で基礎研究からヒトへの投与に至った広島大学初の創薬となります。
  • 開発した抗がん剤MIRX002の有効成分は、生体内で合成される「マイクロRNA」とよばれる天然型の核酸*4の一つであり、マイクロRNAを用いた医薬品のヒトへの投与は日本で初めてで、世界的にもまだ実施例は少なく、抗がん剤領域での開発としても最先端の位置にいます。
  • 薬効本体の「マイクロRNA」は、広島大学大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室 田原栄俊教授が立ち上げた広島大学発のベンチャーである株式会社PURMX Therapeutics(パームエックス・セラピューティックス)が、治験薬提供を行いました。
  • マイクロRNAの分解保護とがん細胞への伝達を効率化させるために、株式会社スリー・ディー・マトリックスから株式会社PURMX Therapeuticsがライセンスを受けた界面活性剤ペプチド*5「A6K」を治験薬提供しました。

 

概要

 広島大学原爆放射線医科学研究所 腫瘍外科 岡田守人教授(責任医師)は、同大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室 田原栄俊教授らの研究グループが開発した抗がん剤の核酸医薬MIRX002の治験を計画し、悪性胸膜中皮腫を対象とした医師主導治験(第I相)において、1例目の被験者にMIRX002の投与を行いました。
「MIRX002」は、天然型マイクロRNA(miR-3140-3p)を薬効成分としています。広島大学大学院医系科学研究科・細胞分子生物学研究室 田原栄俊教授が、これまでの基礎研究を通して開発してきた創薬シーズを臨床応用したもので、広島大学で基礎研究からファースト・イン・ヒューマン試験によるヒトへの投与に至った初めての事例です。
 悪性胸膜中皮腫は、既存の治療法では十分な治療効果が得られず、発症してからの余命が約一年とされる、難治性がんの一つで、延命・根治が出来る革新的な治療薬開発が期待されています。田原教授らの研究成果で悪性胸膜中皮腫のモデルマウスを用いた結果では、顕著な腫瘍の縮小と延命効果が見られています。動物を用いた非臨床試験での安全性、有効性などの試験を終了し、ヒトでの安全性を評価する第Ⅰ相試験を開始しました。本治験において、安全性と認容性が確認出来れば、アスベストが原因となる悪性胸膜中皮腫の治療方法を一変させる画期的な治療薬として、悪性胸膜中皮腫の腫瘍抑制および再発防止にもつながることが期待されます。
 今回の医師主導治験はAMED 「橋渡し研究プログラム」のシーズCに採択(2021年度〜2023年度)されており、広島大学病院広島臨床研究開発支援センターが治験の支援を担当しています。さらに、橋渡し研究支援拠点である北海道大学拠点がAROとしてデータマネジメント業務、統計解析業務を担当しています。これまでに本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 「橋渡し研究戦略的推進プログラム」のシーズB(2017−2019年度)、preC(2020年度)として採択されており、橋渡し研究支援拠点である北海道大学拠点の支援を受けて実施した研究成果の実用化を行ってきたものを発展させたものです。
株式会社PURMX Therapeutics社(本社:広島市、代表取締役社長:田原栄俊)は、治験薬(薬効成分miR-3140-3p)の規格の担保、治験薬製造に係る手順書に基づく原薬および治験薬の製造管理を行い、核酸治験薬の提供を行っています。
株式会社スリー・ディー・マトリックス(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:岡田淳)は、マイクロRNAの分解保護とがん細胞への伝達を効率化させる界面活性剤ペプチド「A6K」を治験薬として株式会社PURMX Therapeuticsに独占的にライセンスして提供しています。

用語解説

*1:マイクロRNA
生体内に存在する20~25塩基からなる微小なRNAであり、他の遺伝子の発現を調節することで様々な生命現象を制御する分子です。これは、人の体内で合成される核酸で、判明しているだけでも約2600種類のマイクロRNAが存在しています。

*2:第I相試験
新しい薬をはじめて人(患者さん)に投与する段階の試験。少数の患者さんで、投与量を段階的に増やしていき、薬の安全性と適切な投与量、投与方法を調べます。通常、標準的治療法のないがん患者さんが対象となります。

*3:ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験
新しい薬を全世界ではじめて人(患者さん)に投与する段階の試験。人における投与経験がないため、第I相試験のなかでも特に緻密さや経験が要求されます。これまでの医薬品開発では、まず先に海外でFIH試験とその後の開発を実施し、開発の相が進んでから日本での開発が行われることが多く、ドラッグラグを生む一因となっていました。

*4:核酸医薬
核酸医薬とは、異常な遺伝子の働きに対し、それを抑制するように作用する新しい医薬品です。様々な遺伝子に対する核酸医薬が注目されていますが、現在のところ悪性胸膜中皮腫に対する治療薬として承認されている核酸医薬はなく、新たな開発が期待されております。マイクロRNAは、人の細胞で合成される核酸の一種であることから、「天然型」の核酸と呼ばれています。

*5:界面活性剤ペプチド
6-10残基程度のアミノ酸から構成されるペプチドで、 疎水性部分と電荷をもつ部分が分子内の共存することにより界面活性剤としての性質を示します。水溶液中で自己組織化されることでナノチューブを形成し、マイクロRNAをはじめとする各種の分子と複合体を形成します。それにより体内での核酸の分解を保護したり、がん細胞への送達を達成できることがわかっています。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科

教授 田原 栄俊

Tel:082-257-5290

FAX:082-257-5294

E-mail:toshi*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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