メールマガジン No.25(2008年7月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.25(2008年7月号)
2008/7/31 広島大学大学院文学研究科・文学部

□□目次□□
1.日本哲学会シンポジウム「平和・戦争・暴力」を終えて(応用倫理・古典学講座教授 山内廣隆)
2.リテラ・ナイトーク「サラバ青春 ようこそ青春」を終えて
3.文学研究科(文学部)ニュース
4.広報・社会連携委員会より

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【1.日本哲学会シンポジウム「平和・戦争・暴力」を終えて 】
応用哲学・古典学講座 教授 山内廣隆 (西洋哲学)
ヒロシマからの宿題

 五月は全国学会の季節だ。あちこちから理系学会の実用的「新発見」の報が届く。日本哲学会に、このような僥倖はない。成果主義だけが幅を利かせている昨今、肩身が狭い。昨年、千葉大での日哲シンポに参加した評論家立花隆氏が、日経BPネットで語っていた。「いま、各大学で哲学教師が減らされている。哲学教育が欠如すると何がおこるのか。問題をきちんと設定するにはどうすればよいのか、その答えを正しく出していくためには、頭をどのように使うべきなのかがわからなくなる」と。こうした頭の使い方こそ、善い世の中を実現するのに大切なのだ。哲学の成果は、いわゆる成果主義の成果とは違うところにあるのだと意気込んで、タイトルのようなシンポジウムを企画した。

 シンポジウムの提題者は二人。ひとりは町田宗鳳氏(広島大)。氏は戦争の原因をキリスト教やイスラム教などの一神論的宗教にあると考え、無神論的宗教を説く。また、氏は戦争を最大の環境破壊と捉え、環境平和学を構想すると同時に、最後に、氏は広島の平和運動を「あまりにも政治的な色合いに染まり続けている」と批判する。もうひとりは石崎嘉彦氏(摂南大)。氏が研究しているレオ・シュトラウスは、アメリカのアフガン攻撃直後に、これを立案したネオコンの黒幕と名指しされた。なぜなのか。シュトラウスの関心は、ポリス(現実、政治)によるソクラテス(理念、哲学)殺しにあり、両者の関係を「哲学(理念)は常に政治(現実)に敗れる」と解釈する。この真理を前に哲学は己を弁え巧妙になり、政治家の背後で理念の実現を計る異形の哲人政治が構想される。氏による直接の言及はなかったが、そのような政治哲学からすると、ブッシュやラムズフェルドによるアフガンやイラク攻撃の背後に政治哲学者が控えていて、正義という哲学的理念の実現が追求された可能性も否定できないのではないか。

 コメンテーターは秋葉忠利氏(広島市長)と大嶽秀夫氏(同志社女子大)。大嶽氏の現実を踏まえたシニカルな批評が、議論に深みを与えた。司会は北川東子氏(東京大)と越智貢氏(広島大)。この二人の見事な采配が、秋葉氏からの宿題を引き出した。「ヒロシマはキリストである」という町田氏の命題を巡って議論が紛糾したとき、秋葉氏から「宿題」が出された。「みんな天才的な人ばかりを論じている。最も大切なのは普通の人だ。普通の人であるヒバクシャの哲学を哲学者が学問化、体系化しなければならない」と。哲学風に言えば、「ヒバクシャ(ヒロシマ)の存在論的基礎付け」だ。この作業は一般的成果とは縁遠いが、人類には必要不可欠である。最後に、この問いに対する私見を簡単に述べておきたい。近代は啓蒙が必ず野蛮に転化するものであることを経験した。あらゆるポストモダンが啓蒙を見捨てていく。だが、人間への絶対的信頼である啓蒙を、ヒバクシャは見捨てやしない。ヒバクシャが「核兵器即時全面廃絶」と語るとき、彼らは人類の現実ではなく、人類の希望(理念)を語っているのだ。核実験があったとき、ヒバクシャは平和公園で座り込む。静かに「私たちが正義だよ、君たちは間違っているよ」と警告するのである。ヒバクシャ(ヒロシマ)は正義の「在処」を指し示すことができるのだ。そのためにはヒロシマは、現実(政治)を超絶していなければならない。ヒロシマは政治を超絶することによってこそ、政治的力を手にすることができる。

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【2.リテラ・ナイトーク「サラバ青春 ようこそ青春」を終えて】  

 7月29日(火)18時30分から、広島大学キャンパス内カフェ「ラ・プラス」で広報・社会連携委員会企画リテラ・ナイトーク「サラバ青春 ようこそ青春」を開催いたしました。文学部職員のフォークギターの弾き語りでカフェの中は、40年前の雰囲気に。その後、山内廣隆教授と文学部3年(フェニックス入学)の藤田孝市さんが40年前の自分たちをふり返り、これから迎えるであろう40年後に思いを馳せ、あつく語り合う、とても有意義な時間を過ごしました。

  参加していただいた学生さんから感想を寄せていただきましたので、掲載いたします。

 今年から始まったリテラNighTalKのテーマは「サラバ青春 ようこそ青春」でした。参加する前は、一体どの様な話になるのかわかりませんでしたし、教科書でしか見たことのない出来事を実体験された話を聞いても自分は話についていけるかどうか不安でした。しかしながら、NighTalKに参加して、とても穏やかな雰囲気の中、山内先生と藤田さんの話を聞くことができ、1968年とはどんな年だったのかを少しですが感じ取ることができました。1968年には、私は、まだこの世に生まれていませんでしたし、話を聞いたり、出来事を見たりするだけでは、話を理解するのは難しいのですが、1968年という具体的な年代を設定した話を聞いたのは初めてだったので、とても興味が持てました。学生運動が盛んな年代で、その話を聞いてもうまくつかめず、感覚的にもわからない点は多くありましたが、自分が今まで意識したことのない世界がそこにはあった、ということがわかっただけでも、参加した意義は大きかったのではないでしょうか。テーマは、「サラバ青春 ようこそ青春」でしたが、この青春は、山内先生や藤田さんが1968年をリアルタイムに体験され、学生時代にすでにサラバした青春であり、こんな青春があったんだと今の学生に伝えることができる、という意味でのようこそ青春、これからやってくる未知の青春という意味でのようこそ青春、なのだと思います。NighTalKに参加して考えさせられることがたくさんあり、学生が授業中にはあまり聞くことのできない話題だと思ったので、次回からはもっと多くの学生に参加して欲しいと思いました。大変貴重な体験をさせていただき、どうもありがとうございました。   文学部 欧米文学語学・言語学コース G.M

 今回の話を聞いて単純に驚きました。反社会的なものに憤慨し、情熱的に反応した当時の学生の姿を、多少は知ることが出来たと思います。簡単に人生を誤ることがあった、という当時の学生の状況が、死と隣り合わせのクライマーの話と相まって、深く印象に残りました。そのような様子について考えながら、40年後にも夢を見られるような社会であるべきだと考えました。  文学部 日本・中国文学語学コース K.M

 今回、山内教授と文学部3年生の藤田氏の話を聴くなかで、40年前の高校生はLHRの時間を使って、ベトナム戦争について毎週議論を行うなど、現在の世代では考えられない学生生活を送っていたのだと思った。私は、この世代の人々のエネルギッシュさが、日本を支える原動力となっているのではないかと感じた。今回は5年連続シリーズの第1弾ということであるが、10年、20年…と、伝統行事となるようにぜひとも続けていってもらいたいと思う。文学研究科 歴史文化学分野M2H.Y                          

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【3.文学研究科(文学部)ニュース】

○文学部オープンキャンパス
 今年度のオープンキャンパスは8月8日(木)・8日(金)に開催されます。
文学部への入学・編入などをご希望のかたは、ぜひお越しください。

○広島大学公開講座/文学研究科担当
テーマ:古(いにしえ)に学び今を問う〜応用哲学・古典学からのアプローチ
日時:9月20日(土)・27日(土)・10月11日(土)・18日(土)・25日(土) 13時30分〜16時45分
場所:広島市まちづくり市民交流プラザ  

○文学研究科・文学部主催公開講座
「21世紀の人文学」講座 2008
テーマ:「日本文化を読み解く」
日時:11月1日(土)・8日(土)・15日(土) 13時〜15時30分
場所:広島市中央公民館・広島大学霞キャンパス(歯学部)
   内容の詳細は、準備でき次第、文学研究科ホームページ上に掲載いたします。

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【4.広報・社会連携委員会より 今林 修】

 本年度から広報・社会連携委員会の委員になりました今林修(いまはやし・おさむ)と申します。専門は英語学で、19世紀英国ヴィクトリア朝を代表する小説家チャールズ・ディケンズ(1812-70)の言語・文体を研究しています。広島大学の英語学の歴史は戦前にはじまり、ディケンズとジェフリー・チョーサー(?1343-1400)の言語・文体研究は世界から注目されています。本学英語学講座の創始者、山本忠雄前広島大学教授(1904-91: 1953年学士院賞受賞)が残した53,807枚にもおよぶ膨大なカードから、目下、2012年(ディケンズ誕生二百年祭)の完成を目指して、The Dickens Lexicon『ディケンズ辞典』を作成しております。

 広報・社会連携委員会に参加して四カ月が経ちましたが、新企画のNightalKをはじめとして、リテラコンサートの企画など、大学の外の方々との交流・大学の広報活動を楽しくやらせていただいております。18世紀の英国文壇の大御所サミュエル・ジョンソン博士は自ら編纂した辞書のなかで、「パトロン」を徹底的に貶していますが、文学研究科ではパトロンを大歓迎しております。最後になりましたが、重ねて、本メールマガジンのご愛読、そしてご支援を賜りますようどうかよろしくお願い申し上げます。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  富永一登
編集長:広報・社会連携委員長  河西英通
発行:広報・社会連携委員会

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