メールマガジン No.35(2010年1月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.35(2010年1月号)
2010/1/28 広島大学大学院文学研究科・文学部

□□目次□□
1.今月のコラム −アデレードでの研究報告
2.フェニックス特別選抜入学生からのことば−Part2
3.リテラ「21世紀の人文学」講座リポート
4.文学研究科(文学部)ニュース
5.広報・社会連携委員会より

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【1.今月のコラム】

『アデレードでの研究報告』 応用哲学・古典学講座准教授 衛藤吉則

 昨年の3月末から、オーストラリアのアデレードにある南オーストラリア大学の客員研究員として研究をさせていただいています。
 世界的に注目されるシュタイナー教育とモンテッソーリ教育の理論と実践について、哲学・教育学・社会学の側面から総合的に比較研究し、両理論のエッセンスを導き出すことが目的となります。

 これは2年がかりの共同研究で、現在、わたしを中心に両思想の哲学(理論)研究をもとにアンケート調査の準備がすすめられており、来年度にはそれをもとに公立学校を含めた大規模な調査が予定されています。
共同研究者は、ひとりがシュタイナー教育の実践研究をしている南オーストラリア大学の教育学者で、もうひとりが不登校やいじめ等の学校病理の世界的な比較研究をしているアデレード大学の社会学者です。
 わたしたちはこの研究を通じて、さまざまな問題をかかえる子どもの状況や混迷する世界の教育現実を克服する手だてがみえてくるものと期待しています。

 この研究をすすめるにあたり、今年度1年間の渡豪を許可してくださいました講座の先生方はじめ研究科の皆様にこころより感謝申し上げます。

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【2.フェニックス特別選抜入学生からのことば−Part2】 

 フェニックス特別選抜とは、50歳以上の熟年世代の人を対象にした特別入試制度です。学位取得を目指し、専門知識や社会経験・人生経験の豊かな人が毎年2〜3名入学しています。現在、12名がこの入試制度で入学し、在籍されています。
 今回は、比較日本文化学講座の田熊和美さんにコラムを投稿していただきました。

『躓きの連続、それもまた結構愉しいものです』 比較日本文化学講座  田熊 和美
 本学に入学したのは昨年の4月です。入学の直接の契機は、認知症の父親の介護を決心し36年間のサラリーマン生活に終止符を打って山口県に帰郷したことにあります。将来展望に乏しい介護生活からくる閉塞感を何とか打破したいと思ったわけです。今は長期履修制度を活用させて戴き、週に2日ほど通学しています。

 というわけで具体的な研究テーマを携えて入学したわけではありませんが、フツーのおじさんの常として"近頃の日本って何かおかしい"と感じていました。おそらくその淵源は戦後の民主主義にあるのではないかと考え、その辺りの思索を深めたいと思っています。そしてできることなら、自らのファイディングを仮令ひとかけらでもよいので得たいというのが願いでした。

 ところが、劈頭つまずきました。総合人間学の集中講義でのことです。
"エミール・ゾラの叢書の後半はその一義的な内容に必ずしも評価は高くない。多義性の中に価値があり・・・"という言葉に出くわしたとき、"難儀な世界やなー"というのが正直なおもいでした。というのは、学生時代は経済を専攻しましたが、そこでの思考方法は全て直線的思考であり、多義性に価値があるどころかむしろ排すべきものというのが私の習い性だったからです。

 予感は的中しました。民主主義を理解するにはホッブスやロックから入ろうと考え、学内での最初の出会いは哲学と宗教(キリスト教)でした。しかし、基礎的なテクニカルタームの意味がなかなか頭の中で定まりません。ポスト構造主義者のダリダがいう「言葉の差延作用」が、まるで自分自身の中で起きているみたいです。

 このことを先生にお話すると、"言葉は立体的に捉える必要がある。"とのことでした。それどころか、高校レベルのダイジェスト版でみる各思想は"そんなものか"くらいの了解ですますことができますが、一歩踏み込もうとするとそこは思考の塊です。
一行を読むのに四苦八苦し、七転八倒しています。というか呆然と立ち竦んでいるというほうが正確なんだと思います。
今は"神はいる?いない?"が関心事です。"いる""いない"を行ったり来たりして彷徨っています。高階様相述語論理なるものを言葉で理解するのは至難の技です。どうやら私にはとてもマスターできそうもない記号(数理)論理学を習得する必要がありそうです。

 民主主義への道は遥か彼方にあります。躓きの連続というか立ち上がった記憶がありませんので躓きっぱなしであり一体いつ辿りつけるものやら。
"日暮れて、道なお遠し"ということにもなりかねません。それでも、週に二日は観照的生活の匂いを嗅ぐことのできる今の生活を私は結構気にいっています。

 今日も通学列車の窓ガラスに向かって、"神はいる?" "いない?"と呟きかけています。

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【3.リテラ「21世紀の人文学」講座リポート】  

『広島に多喜二を見た!』比較日本文化学講座教授  河西 英通

 2009年11月29日、恒例のリテラ「21世紀の人文学」講座が広島市内のまちづくり交流プラザで開催されました。今回は「広島から多喜二を読む」をテーマに、一昨年来、話題になっている小林多喜二の「蟹工船」をめぐって、地表圏システム講座の友澤和夫教授と日本・中国文学語学講座の瀬崎圭二准教授にお話ししてもらいました。

 まず、瀬崎氏は「〈身体が殺されている〉ということ」と題して、「蟹工船」の題材、多喜二の意図、発表当時の評価、表現と身体などについて、豊富な資料を交えて話されました。とくに多喜二の虐殺に関して、江口渙の『作家小林多喜二の死』の一節を朗読されたことは、出席者に大きな衝撃をもって受け止められたと思います。

 つぎに友澤氏は「もしや蟹工船、さらば蟹工船—蟹工船ブームと日本経済の未来—」と題して、蟹工船の実態、現代日本における労働状況、格差問題、国際経済と日本経済の関係、今後の日本経済の行く末などについて、パワーポイントを駆使されて、わかりやすく説明されました。日本国内の事情を広く国際的な視点からとらえることができました。

 休憩をはさみ出席者からの質疑の時間に入りました。
当日の出席者は約30名でしたが、多くの方から、「戦前文学における多喜二文学の位置づけ」「現代社会における格差問題」「労働運動と広島」など多様な質問・疑問が次から次に出され、たいへん活発な意見交流の場となりました。出席者のなかで唯一の学生さんから、春からの就職を前に、多喜二文学の意味を学ぶことが出来てよかったという、とても印象的な発言もありました。

 広島市の中心部で開催できたことも手伝って、例年とは異なる雰囲気のなかであっという間に予定の三時間が過ぎていきました。一方通行の講演会ではなく、話し手と聞き手が相互に思いを通わせることが出来た点で、たいへん充実した講座であったと思います。

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【4.文学研究科(文学部)ニュース】

○文学研究科を定年退職する教員の最終講義
2月 9日(火)17:00〜18:30 山代宏道教授(歴史文化学/西洋史学)
2月19日(金)15:00〜16:30 水田英実教授(応用哲学・古典学/西洋哲学)

○平成21年度優秀卒業論文発表会
日時:2月18日(木)13:00〜17:00(予定)
会場:広島大学文学部大講義室(リテラ)

○「2010リテラウィンターコンサート」−広島交響楽団木管五重奏−
【日 時】平成22年2月20日(土)14時開演(13:30開場)
【場 所】広島大学サタケメモリアルホール(東広島キャンパス内)
☆入場無料
【プログラム】
1部:広島大学パンフルート同好会
・風のとおり道(久石譲)ほか

2部:広島交響楽団木管五重奏
・ディヴェルティメント 第9番〜第4楽章(モーツァルト)
・ノベレッテ(プーランク)
・バレエ「黄金時代」よりポルカ(ショスタコーヴィチ)
・小室内楽曲より第1&第5楽章(ヒンデミット)

3部:広島交響楽団木管五重奏
・リベル・タンゴ(ピアソラ)
・ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡)
・「篤姫」メインテーマ(吉俣良)
・天城越え(弦哲也)
・千と千尋の神隠しより「あの日の川」(久石譲)・「いつも何度でも」(木村弓)
・いいことがあった時の踊り(福島弘和)
・日本の歌メドレー(白谷隆編曲)

【お問い合わせ】
広島大学大学院文学研究科 運営支援室グループ
TEL:082-424-6606  
FAX:082-424-0315
E-mail: bun-soumu☆office.hiroshima-u.ac.jp
    (☆を@に置き換えてください)

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【5.広報・社会連携委員会より  井内 太郎】

 肌寒い日々が続いていますが、お元気にてお過ごしでしょうか。
大学の方も今年は豚インフルエンザの影響で、入試センター試験ならびに前・後期試験に追試が組まれ、どうなることかと心配しましたが、思ったほどの影響はでていないようで、ほっとしています。

 さて、いよいよバンクーバーで冬期オリンピックがはじまりますね。1924年にフランスのシャモニーで第1回冬期オリンピックが開催されてから21回目となります。また眠いたい目をこすりながら、テレビの前で日本人選手を応援する日々が続きそうです。

 ところで、冬期オリンピックにおける日本人で初のメダリストは誰かご存じですか。私は1972年に開催された札幌オリンピックの「日の丸飛行隊」と思っていたのですが、よく調べてみると、実は1956年にコルティナダンペッツォオリンピック(イタリア)において、猪谷千春さんが男子スキー大回転で銀メダルを獲得されています。

 メダルはともかく、今年の日本人選手も話題満載ですから、この暗いご時世を吹き飛ばすような、いっぱいの感動と元気を与えて欲しいものですね。

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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  富永一登
編集長:広報・社会連携委員長  河西英通
発行:広報・社会連携委員会

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