メールマガジン No.54(2013年3月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.54(2013年3月号)
2013/3/20 広島大学大学院文学研究科・文学部
    
□□目次□□
1.平成24年度優秀卒業論文発表会
2.文学研究科(文学部)退職教員あいさつ
3.ヴェトナム越冬日記(後半)
4.「2013 リテラウィンターコンサート」レポート
5. 文学研究科(文学部)ニュース
6.広報・社会連携委員会より
      
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【1.平成24年度優秀卒業論文発表会 】
  
 2月15日(金)文学部大講義室(リテラ)におきまして、「平成24年度優秀卒業論文発表会」が開催されました。今回のメールマガジンでは、その中から2人の卒業論文の要旨を紹介いたします。また、指導教員からも一言添えていただきました。
  
○スペイン語における母音間無声閉鎖音の有声化に関する考察 欧米文学語学・言語学コース 言語学専攻  荒河翼
    
 スペイン語において、有声閉鎖音が母音間で摩擦音として実現されることはよく知られているが、無声閉鎖音が母音間で有声化ないし摩擦化しうることはあまり知られていない。閉鎖音が母音間で摩擦化する現象や無声音が同条件で有声化する現象は、弱化と呼ばれる現象の一種である。近年、弱化を生じさせる要因を明らかにする調査が通言語的に行われている。本研究の目的は、スペイン語における母音間無声閉鎖音の有声化の要因を明らかにすることである。

 広島県在住のスペイン語話者9名を対象に、産出実験と知覚実験を行った。実験の結果、1)くだけたスタイルの発話における無声閉鎖音のほうが、改まったスタイルの発話におけるそれよりも有声化すること、2)母音/u/にはさまれた無
  声閉鎖音のほうが、母音/a/にはさまれたそれよりも有声化すること、3)音響的には男性の産出した無声閉鎖音のほうが弱化している判断されるにも関わらず、知覚的には女性の産出したそれのほうがより有声と聞き手に判断されることが明らかとなった。
  
 本研究の結果の大部分は先行研究の結果を再現するものであるが、スペイン語における母音間無声閉鎖音の有声化という弱化現象の程度に性差が観察されるという結果は新しい知見である。他の言語の別の弱化現象にも性差が観察されることが報告されており、本研究の結果は、弱化現象に与える性差の効果がどのようなものかを明らかにする研究に貢献するものであるといえる。
  
[指導教員からのコメント:五十嵐陽介准教授]
  
 荒河翼君は音声学を学ぶという明確な目的意識をもって広大言語学研究室の門を叩いた成績優秀な学生です。卒業論文では、第2外国語として学んだスペイン語の音声現象を、産出実験(どのように発音するか)と知覚実験(どのように聞こえるか)を通じて分析しました。実験の規模と手法の厳密性は卒業論文の枠を遥かに超えており、その意味で荒河君の卒論を高く評価することができます。残念ながら、得られた結果は必ずしも容易に解釈できるものではありませんでした。このことは実験デザインのどこかに欠陥があったことを意味します。いくつかの課題を残した卒業論文を執筆した経験は、春から大学院に進む荒河君に、研究の難しさや厳しさを教えてくれたという意味で、彼の今後の研究活動において重要な役割を演じることでしょう。進学後の荒河君の更なる活躍を祈ります。
  
○ボロブドゥールの「仏伝図」―託胎霊夢・四門出遊・出城について― 地理学・考古学・文化財学コース 文化財学分野 曽我俊裕

 世界遺産に登録されているチャンディ・ボロブドゥールは、インドネシア共和国中部ジャワに所在する8~9世紀頃に建立された仏教遺跡で、約1500面にも及ぶ説話浮彫で著名である。このうち、第一回廊には釈迦の生涯を描いた仏伝図の浮彫が120面存在しているが、現段階で詳細な論考は著されていない。
  
 本論ではボロブドゥールの仏伝図中からインドにも現存作例の多い「託胎霊夢」、「四門出遊」、「出城」場面を取り上げ、インドの仏伝図、及びインドネシア国内の浮彫、石像・鋳造像等の考古遺物と比較検証を行い、仏典と照合し、その特徴を明らかにした。
  
 考察の結果、この三場面において、仏伝図中にみられる物語の連続性、構図の一部、また人物の装身具等がインドのアジャンター石窟をはじめとする、西インドの石窟寺院、及びグプタ期の彫刻作品に類似することが導き出せた。
  
 一方で、一場面あたりに表現される人物数がインドの作例と比べ極端に多い点や、人物の装飾が8~9世紀頃の神像・仏像等に類似すること、また彫刻された調度品の数々が、当時の現地の遺物に確認できた点等から、インドネシア特有の意匠も多く取り入れられていることが判明した。
  
 以上、ボロブドゥールの仏伝図は、少なくとも三場面については、6~8世紀頃のインドの浮彫彫刻から影響を受けたものと考えられ、インドネシア独自の意匠も取り入れた形で制作されたものと結論づけた。今後は、他の場面についても研究を深めていきたいと思う。
   
 [指導教員からのコメント:伊藤奈保子准教授]
  
 文化財学は、歴史的文化遺産について、現地に赴き、実物に即した調査を行い、詳細なデータを作成、専門的な知識を伴う分析の結果、新知見を導き出す研究分野です。それを満たしたものが本論文といえます。ボロブドゥール「仏伝図」の主要な三場面に焦点をあて、源流を西インドに求め、インドネシアの独自性を実証する論を打ち立てました。これはボロブドゥールの彫刻の考察に留まらず、インドネシア美術史に大きく貢献する成果と考えられます。  
 曽我君はAO入試で入学し、1年の頃からインドネシアをはじめ、共に海外調査を重ねて参りました。毎回厳しいスケジュールの中、ボロブドゥールに関しては、3日間自由にテーマを設定し、行動する形式をとりました。彼はそのなかで「仏伝図」に惹かれたのでしょう。論文の完成度の高さから、研究テーマに対する真摯な姿勢と、また、その日、目を輝かせてレリーフを見ていた姿が想像できます。卒業後は大学院進学が決まっており、今後の展開を大いに期待しています。
  
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【2.文学研究科(文学部)退職教員あいさつ】
  
○現実と超越 応用倫理学・古典学講座教授 山内 廣隆            
 公式の退任挨拶は、「広大広報」に書いたので、私的な挨拶として二話。
 僕たち団塊世代に影響を与えたのは、思想ではなく、文学である。吉本隆明の「エリアンの手記と詩」は前回すでに触れたので、今回は高橋和己の話。『邪宗門』の派手な革命ごっこも胸躍るが、僕が好きだったのは『黄昏の橋』で兵器製造工場に雪崩を打って襲い掛かるデモの描写。高橋は政治を文学に取り入れた埴谷雄高など第一次戦後派の嫡出子である。僕たちはそうしたダイナミックな世界が好きだった。
  
 戦後派に続いたのが第三の新人と言われる人たち。安岡章太郎、遠藤周作、庄野潤三など。この人たちは戦後派とは違う。テーマの深刻さにも拘わらず、なにかしら明るさと軽さがある。庄野の『プールサイド小景』などそうだ。その後に書かれた庄野の小説に牛飼いの日常を淡々と描いた、おもしろくもなんともない小説がある。この小説のタイトルは「牛」だと記憶していたが、どうも思い違いのようだ。正しいのは『屋根』らしい。当時、僕はこれを小説として認めていなかった。日々の牛飼いの暮らしをドキュメント映画のように写し取っていくだけの小説。くだらないと思っていた。でも、定年を前にした僕はこの小説のもつ深い意味が分かるような気がする。誰が死のうが、何が起ころうが、何も変わりはしない。何があろうと、僕たちには日々の暮らしが訪れる。厳然と存在しているこの現実。
  
 この厳然とした現実が無になるのが死。死とは善きところへ行くことではなく、無になること。このことを根源から知り抜くことが悟りではないか。僕はそれが超越への道だと思う。これは最終講義で言い足りなかったこと。いま付け加えておきたい。もう一度『屋根』を読みたい。仏陀の真の言葉を知りたい。でも、定年後の僕の夢はしばらくお預けだ。もう少し働かなければならない。
  
○文学研究科の皆様へ(感謝の言葉) 欧米文学語学・言語学講座教授 植田 康成 
 
1981年10月文学部に赴任して以来31年半勤めさせていただきました。その間、文学研究科のかつての同僚、そして現在の同僚の皆様、支援室の方々には、多大のご迷惑をおかけしてきたにもかかわらず、親身になってお世話いただきましたこと、感謝申し上げます。長い間、ありがとうございました。
 最後に、文学研究科の一層の発展を、遠くの郷里、徳之島母間(ぼま)(鹿児島県)からお祈り申し上げます。
    
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【3.ヴェトナム越冬日記(後半)歴史文化学講座教授 八尾隆生】
  
  さて、メルマガ53号の続きです。
<野良仕事>
 科研第二の目的は村に直接押しかけ、宗教施設やその地の名家で史料を捜索すること。クリスマスを過ぎてからいよいよ村中に。でも今年度は20年間荒らし回ったラムソン周辺が対象地であるため、なかなか出てこない・・ 日がたつにつれ、落ち穂拾いみたいな観もあって・・誰かが言ってました。フィールドワークを和訳すると「野良仕事」。あきらめずに耕していると三日目に出てきました! 15世紀の新出碑文3基と16世紀のもの1基。ヴェトナムでは15世紀の碑文なんて100基も残っていません。もう抱いて頬ずりしてチューしたい気分。内容はまだ内緒ですが、これで来年度の学会発表はできそう。それからも公私文書の類は種々多様なものがどかどか出てきて同行のハノイ大の先生も大興奮。スマホでボス(ヴェトナム史学研究会会長)に連絡している始末。まあこれで碑文たちもなんとか生き残られるでしょう。
  
<悲しき再会>
 野良仕事でもう一つ気になっていたのは新出史料だけではなく、以前見たものがどうなっているかを確認すること。ラムソンの町の平凡な家の裏の田んぼから15世紀の墓誌が発見されたのは20世紀末のこと。早速見に行き、著書にも使わせてもらいました。あれはどうなったか?家の番地を思い出せないまま町で一番大きな寺にゆくとなんとそこに件の碑文がありました。でも・・・嗚呼悲哉。外国の有名な先生が調べに来たんだから宝の在りかが書いてあるに違いない、いやこの石の中に金が埋め込んであるかも、そう考えた村人が碑文を木っ端みじんに・・辛うじて慈悲深い坊様に拾われ、コンクリートで継ぎ合わされた無残な形で残っておりました。悲しき再会。ごめんよー やっぱり連れて帰ればよかった・・
  
<ここでもパチャパチャ>
 野良仕事は楽しいけれど寒くて疲れます。朝も早いので楽しみといえば食事だけ。朝昼晩ヴェトナム人もまじえて食事となります。でも楽しい会話が始まるはずが・・始まるのはパチャパチャというスマホの操作音。そう、ヴェトナム人は日本人以上にスマホ中毒なのです。留学中の日本人留学生も感染してパチャパチャ ええ加減にせい!機械音痴のおっさんには腹立たしい限り。「でも便利ですよー」確かに。私がコンパスでお堂の向きを測っていると、院生がヌッとスマホをつきだし、「コンパスソフトもGPSソフトも入ってますよー ほれっ」くっそー中国に密告してやる。中国だと即没収だぞー「ここはヴェトナム、ノープロブレム」だと。ゆるゆるの社会主義国ヴェトナム。
  
<日本軍万歳>
 正月3日、さて仕事が終わると待っているのが向こうの偉いさんとの宴会。お酒は30度ほどの米焼酎。これを日本の杯ほどの大きさのちょこで一気飲みします。これを重ねること10数回。だんだん酔いが激しくなると危険な話も。「中国めー 我が東海(南シナ海のこと)を侵略しおってー 教授の国も侵略されているだろー 同盟しよう! 日本軍万歳!」 おいおいヴェトナムにも日本のネット右翼が喜ぶようなことを言うお方がいるよー 「教科書ではヴェトナムは軍国日本から独立したと習いませんでした?」「そうだっけ?」ヴェトナム戦争で米軍と戦ったおじさんの言です。「ヴェトナム戦争中は米帝に与する日帝とか教えていませんでしたか?」「そうだっけ?」「今はODA沢山くれるから許す」あんたは国家主席か?村長だろ!「ところで教授は広島に住んでおられるらしいが、大丈夫か?」「へ?福島ですか?」「それもあるが原爆はどうなった?もう住めるのか?」「しっかり住んでます。ヴェトナム人留学生もいますよ」「勇気あるなー」勇気は不要です。安全です。カープの悪口を言わなければ。頑張れジャイアンツ
  
<最後もとてもヴェトナム>
 タインホアからハノイに戻ってからは帰国準備のためきりきり舞い。ところが車代などを清算しようにもハノイ大の事務員さん(十年来のつきあい)が別の研究隊に付き添っていて不在。「おーい踏み倒すぞー」と携帯に電話。「まだ運転手から連絡がありませーん」「じゃあ支払いは今年(2013年)の末ね」「それは勘弁ですよ」「じゃあ同行した彼に聞くよ」「彼は結婚して二週間で奥さんほったらかして教授にくっついていったから、今頃ご機嫌取りに大変ですよ」「独身の俺には関係ない」「じゃあ留学生にお金を渡しておいてくれます?」「どれくらい?」「適当」・・どこまでも適当な「とてもヴェトナム」。また夏に参ります、のはずが・・・ついこのあいだ、行ってきました。今度は正真正銘常夏のホーチミン市(サイゴン)へ。いまや「とてもヴェトナム人に近い日本人」と言いたくなるようなゆるゆる一年生24人引き連れて・・忍忍忍の二週間でした。内容を書くともう2回くらい続くので、やめておきます(終)
    
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【4.「2013 リテラウィンターコンサート」レポート】
  
 2月16日(土)広島交響楽団木管五重奏をお迎えして、「2013 リテラウィンターコンサート」を開催いたしました。文学研究科が主催するリテラコンサートも早いもので今回で9回目の開催になります。今回も東広島市内外から400人近い方々にお越しいただきました。
  
 第1部は、広島大学教育学部音楽文化系コースの打楽器アンサンブルグループHUPPsの皆さんに出演していただきました。卒業生一人(彼女は現在文学研究科で非常勤職員として一緒に働いています)を含む8人の若いエネルギッシュな打楽器の演奏は、会場の皆さんを瞬時に引きつけたようで、皆さん身を乗り出すようにして聴いていらっしゃいました。若いって、本当に素晴らしいパワ ーを持っているんですね。
  
 第2・3部、広島交響楽団木管五重奏の皆さんの演奏は、橋本眞介さん(クラリネット)のわかりやすい司会進行により、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンの五つの音色が一つになってホールに響き渡りました。さすがに広島が誇るプロの交響楽団ですね。
  
コンサートで司会をしていただいた岡部さんの感想を紹介いたします。
 リテラコンサートの司会を務めさせて頂きました文学部4年地理学教室の岡部真希です。
 私は声の大きさだけが取り柄で、目上の人と会話するときの敬語や言い回しなどは少し子供っぽいと普段からアルバイトの上司や教授に言われていました。そのため、司会原稿を初めて見た時は使い慣れていない丁寧な言葉だらけで緊張が高まりました。当日、リテラコンサートが始まり、大勢のお客さんとスポットライトで緊張がピークに達しつつも司会を進めていきました。話し方や立ち振る舞いなどを指導してくれた山本先生をヒヤヒヤさせてしまったと思います。
 第一部のHUPPsのみなさんの演奏は打楽器ということもあり、音が体に直接伝わり迫力のある演奏でした。メンバーの柾さんにインタビューをした際には、覚えた原稿を話すのではなく、知りたいことなど自然と言葉がでてき、お客さんに司会らしくうつったのではないかと思いました。
 広島交響楽団のみなさんは一人一人の自己紹介から演奏までがすべて素晴らしいパフォーマンスでした。普段は見ることのできない舞台袖からのステージは、同じ高さであるのにまるで違う世界のようでした。
 コンサートの司会というような経験を卒業前にできたことは、自分自身の言葉使いの見直しにも繋がり、そして卒業前の大切な思い出の一つになりましたありがとうございました。  
 最後に、このリテラコンサートが、広島大学と市民の皆さんの文化交流の場になることを願います。
   
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【5.文学研究科(文学部)ニュース】
  
〇英語史研究会第23回大会を開催いたします  
【日時】 2013年4月13日(土)13時00分より
【場所】 広仁会館大会議室(広島大学霞キャンバス)
  
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【6.広報・社会連携委員会より 友澤和夫】
 卒業・入学のシーズンを迎えました。文学部・文学研究科からも多くの将来性ある学生が巣立っていきます。まずは、それぞれの持ち場で有用な人材として活躍されることを願ってやみません。そして、その中から、企業や組織を背負える人物、日本の将来を担える大人物が現れることを本気で期待しております。
  
 入学といえば、今年は例年と事情が少し異なります。実は、わが家の長男が当事者であり、関西の私学に入学することになりました。3月はこの件で気忙しくしておりました。私は1982年本学入学で、広島市南区黄金山の崖の直下にあった民家の2階7.5畳で、トイレは共同、風呂はなしという間借り生活をしていました。当時は、入学金10万円・授業料21.6万円であり、家賃は月1.4万円、親からの仕送りは6万円だったと記憶しております。これと比較すると何かと基準が異なるようで、随分とお金が、初期費用がかかるなあ・・・と思いますが、親としての責務をそれぞれの時代において果たすしかありません。ただし、民間企業に賃上げを要請されている安倍首相には、公務員系の給与を賃上げとはいかないまでも、早く元の支給金額に戻していただきたいものです。アベノミクスが功を奏して税収が増えたならば、と一蹴されそうですが。
  
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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  勝部眞人
編集長:広報・社会連携委員長  友澤和夫
発行:広報・社会連携委員会

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