メールマガジン No.56(2013年7月号)

リテラ友の会 メールマガジン No.56(2013年7月号)
2013/7/24 広島大学大学院文学研究科・文学部
         
□□目次□□
1.「トーマス・クノフ氏講演会」レポート
2.サバティカル研修を終えて
3.文学研究科(文学部)ニュース
4.広報・社会連携委員会より
      
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【1.テュービンゲン大学 トーマス・クノフ氏講演会レポート 地表圏システム学講座准教授 野島 永】
題目「ドイツ初期鉄器時代の墳丘墓と集落」               
  
 ドイツでは1970年代に、ハルシュタット期(初期鉄器時代前半:紀元前800年~450年)に属する巨大墳丘墓の発掘が幾度か行われた。これら一連の発掘によっていわゆる「ケルトの時代」と呼ばれてきたハルシュタット期からラ・テーヌ期(初期鉄器時代後半:紀元前450年~15年)が注目を浴びるようになった。現在ではドイツにおける墳丘墓研究は、墳丘墓そのものを明らかにするだけではなく、その墳丘墓を造営した人々が居住した周辺集落の構造やその経済的基盤、墳丘墓の立地と景観、地理的・文化的環境との関係についても研究が進められており、テュービンゲン大学のクノフ氏はその第一人者である。
  
 クノフ氏が挙げた墳丘墓の調査成果のひとつとして、バール地方のマグダレーネンベルク墳丘墓がある。1970年代に非常に巨大な木槨室がすでに古代に盗掘されていたことがわかったが、この他にも墳丘の盛り土部分から120基を超える墓が発見され、青銅や鉄製の武器や装身具、琥珀や珪化木製の玉といった豊かな副葬品が見つかった。近年の年輪年代測定によると、この墳丘墓が紀元前616年から614年の間に築造され、長く埋葬地として使用されていたことが判明した。
  
 また、ホイネブルクでは、1950年代からテュービンゲン大学が中心となり、巨大墳丘墓の周辺集落の調査が始まったが、近年では、巨大な豪族の館とともに囲郭設備(土塁・堀)や石門なども見つかり、地中海地方の技術を模倣した日干しレンガで造られた城壁(アドベ壁)に、防御壁通路や小型の物見塔も配備していたことがわかった。その広さは100haにも及んでおり、ギリシアの土器など多くの遺物からは、交易によってその経済的基盤を作り上げたことが想定できるようである。
  
 近年では発掘調査だけでなく、航空レーザー測量やLIDAR(ライダー:Light Detection and Ranging)によって地表の正確な3次元地形データを得ることができるようになった。クノフ氏らもこの方法を用いて、マグダレーネンベルク周辺の集落遺跡においてより正確な地理情報を得ることができるようになってきたという。
  
 講演は1時間ほどであったが、最新の研究成果をご披露いただき、ドイツにおける墳丘墓研究の最前線を知ることができた。
  
○「ドイツ初期鉄器時代の墳丘墓と集落」講演参加記  博士課程前期1年 藤井翔平    
 さる5月1日、ドイツ、テュービンゲン大学トーマス・クノフ先生の講演会が広島大学において開催された。主題は「ドイツ初期鉄器時代の墳丘墓と集落」であり、外国の考古学についての専門的な講演を聴ける貴重な機会として、考古学研究室からはもちろん、他分野からも多数の参加者が会場に集まっていた。
    
 講演は英語で行われた。おもにハルシュタット期における墳墓と集落の調査成果についてであった。ドイツ考古学の方法論やテュービンゲン大学考古学研究室の歴史と構成についても触れられていた。地球科学学部に先史学研究室が所属するところなど、日本とは異なる研究環境にあるようにも思えた。講演後の質疑応答に関しては、ウェルナー・シュタインハウス氏の通訳も交えながら行われていたが、参加者の多くはクノフ先生と直接英語でのやり取りを積極的に試みており、会場は日本ではあまり見かけることのない国際学会的な様相が垣間見られる空間となっていた。
  
 公演が終わった後は、クノフ先生と、広島大学の面々とで懇親会が開催された。懇親会ではおもに学生が、会場では聞けなかったような様々な質問をクノフ先生に投げかけており、それに対してクノフ先生は1つ1つ丁寧に答えておられた。テュービンゲン大学の学習環境にも及び、ドイツでは文献・論文等は全てインターネットで誰でも無料で閲覧できるようになっており、お金がなくとも存分に勉強できる環境が整えられているという旨のお話を頂いた。このような、学問以外の点についても、日本にいるだけでは思いも付かなかったような事を教えていただける、貴重な機会であったと思う。
  
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【2.サバティカル研修を終えて】 
  
 「サバティカル研修」とは、教員が、一定期間、大学の業務を免除され、国内外の教育研究機関等において、研究活動に専念できる制度です。 文学研究科では、昨年度、2名の教員がこの制度を利用し、今年4月から、1年間の研究活動を終え、大学に復帰しました。
 今回は、お二人の教員の手記を掲載いたします。
  
○サバティカル体験記  日本・中国文学語学講座教授 有元伸子
  
 サバティカル研修により、昨年度の1年間、授業と校務を免除していただきました。教員になっておよそ四半紀、ずっと自転車操業で吐き出し続けた骨休めと吸収に努めることができました。サバティカル研修をお認めくださった文学研究科と、とりわけ負担をおかけした日本文学語学分野の皆さまに、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。
  
 本メルマガ第50号でもご報告しましたが、その間、昨年6月には映画監督・浜野佐知氏のパワフルな講演会を本学文学研究科リテラで開催しました。また、12月には研究誌『近代文学試論』(広島大学近代文学研究会)の第50号記念号を発行できました。とくに磯貝英夫名誉教授の巻頭エッセイ「思い出すこと 二、三」は、戦争中の高等師範や文理大での経験が語られ、本学文学部に関係するすべての方に読んでいただきたい内容です。
  
 さて、私の専門は日本近現代文学ですが、ここ2年ほど、田山花袋「蒲団」の女主人公のモデルで、広島県上下町出身の女性作家・岡田(永代)美知代の研究を集中的に行なっています。著作リストを作成するため、これまでは授業のない土日に県外の図書館等で調査をし、1作も見つからないとガックリと帰広していました。ところが、昨年度は平日にも時間を気にすることなく出かけられて、新しい作品を発掘することができました。
  
 また、首都圏や関西での平日日中の調査の後、他大学で夜に行なわれる研究イベントに参加できたのも収穫でした。たとえば、研究科が費用を出し、大学院生が企画して作家や別の大学の研究者を招いて開催したシンポジウム。同じく大学院生が一般の方向けに行った無料の入門連続講座には、70人近い学生や地域の方が受講していました。主催する教員に尋ねてみると、Twitterで流す程度で特に宣伝はしていないとのこと。東広島の地で全く同じことができるかはわかりませんが、他大学の動きや院生たちの積極的な活動を知って、大きな刺激を得ました。
  
 サバティカルに入る前は、あれこれやりたいことは多いし、のんびりゆったりも過ごしたいなどと欲張っていましたが、実際には1年はアッという間に終わってしまいました。復帰後は、今浦島気分はすぐに消えて慌ただしい毎日を送っていますが、いただいた貴重な体験を糧として教育・研究に務めていきたいと存じます。ありがとうございました。
  
  
 ○サバティカル研修を終えて  欧米文学語学・言語学講座教授 新田玲子  
                 
 昨年度、一年間、サバティカル研修制度を利用し、信州大学人文学部に籍を置かせて頂きました。信州大学人文学部では幅広い分野の先生方と日常的に接し、常では得難い新しい情報をたくさん学ばせて頂きました。特に、文化情報論分野の先生方には、コンピュータを使った効果的な授業や講演を見せて頂いたり、新しいソフトや使用可能な情報ソースを御教示頂いたりと、大変お世話になりました。
  
 また、人文学部長裁量で特別に研究費を付けて下さったおかげで、図書館での調査が手軽にできました。このサバティカル期間中にはポストモダンユダヤ系アメリカ作家、ウォルター・アビッシュの作品研究を完成させようと考えておりましたが、海外資料の取り寄せなど、信州大学図書館員の方々からも多大な支援を受けました。
  
 こうして、この3月にはアビッシュの文字芸術に関する英語論文を仕上げ、6月にポルトガルで開催された第30回国際文学心理学会で発表致して参りました。発表に際しては、今まで授業や講演で用いてきたPower Pointよりも、もう少しお洒落な操作が可能なKeynoteを用いました。この使用も昨年、身に付けたものです。この効果もあって、発表内容が興味深かっただけでなく、非常に印象的でわかりやすい発表だったと、高く評価して頂きました。
  
 サバティカル研修期間中も論文指導は引き続き行っておりましたので、遠距離指導の便を図るためにと、Skypeという、テレビ電話のように相手を見ながら会話ができ、文書のやりとりも即時にできるソフトの使用を覚えました。この指導方法は学生にも好評で、東広島に戻ってからも遠方の社会人学生や外国へ留学している学生たちの指導に、引き続き用いています。
  
 サバティカルは一年の休暇と思われがちですが、自分の研究を深め、通常では得られない知識を身に付けたという点で、大変充実した活動期間だったと思っております。
  
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【3. 文学研究科(文学部)ニュース】
  
〇広島英語研究大会第54回夏季研究大会を開催します
【日時】2023年8月9・10日
【場所】広島大学霞キャンパス歯学部講義室棟3階 第3会議室
  
〇リテラ「21世紀の人文学」講座2013を開催します
 テーマ  「東アジア世界の中の「日本」史」  
【日時】 2013年10月19日(土)13:30~16:40
【場所】 広島市まちづくり市民交流プラザ 北棟6階 
  申込受付開始は、8月15日です。
    
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【4.広報・社会連携委員会より 有馬卓也】
  
 先日、エレベータの中で某先生に「地獄のような暑さですね」と申し上げたら、「いや、ようなではなく、これが地獄なのです」と言われました。なるほど、これが地獄かと思いましたが、私が何をしたのだろう。いや、私が知らないうちにいろいろやっているのだろう。皆様方、申し訳ありません。
 メルマガ56号をお届けします。本号はトーマス・クノフ氏の講演会レポートと、サバティカル研修を終えられた有元先生・新田先生の文章を掲載いたしました。
 有元・新田両先生の文章を読ませていただき、先生方がサバティカル期間を実に有効に活用しておられたこと、非常にうらやましく思いました。サバティカルが与えられても、それを有効に活用し有意義なものとするには御本人の努力や巡り合わせも必要なことは言うまでもありません。お二人の先生に脱帽です。
      
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リテラ友の会・メールマガジン

オーナー:広島大学大学院文学研究科長  勝部眞人
編集長:広報・社会連携委員長  友澤和夫
発行:広報・社会連携委員会

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