自然科学研究支援開発センター 小島由継特任教授 (材料工学)

広島大学では、「特に優れた研究を行う教授職(DP:Distinguished Professor)及び若手教員(DR:Distinguished Researcher)」の認定制度を2013年2月1日に創設しました。DPは重点的課題に取り組むべき研究を行う特に優れた教授職、DRは将来DPとして活躍しうる若手人材として、研究活動を行っています。

小島由継特任教授 インタビュー

先生の専門分野について教えていただけますか?

私の研究分野は材料工学と言われる分野で、私は特にエネルギー貯蔵に関心を持っています。水素という元素の貯蔵に関する研究を中心に行っていますが、最近は、その貯蔵物質としてアンモニアに注目しています。特定の物質に注目する研究者が多いですが、私は水素貯蔵材料についてあらゆる面から研究を進めることで、水素貯蔵材料として適した物質を発見したいと思っています。

私は、水素の貯蔵に最も適した物質はアンモニア(NH4)だと考えています。空気の78%は窒素ですから、容易にアンモニアを合成できますし、私たちの身体もわずかながらアンモニアを放出しますからね。

先生の研究の実用的な目的はどのようなものでしょうか?

私はエネルギーを生み出す物質に興味があります。アンモニアを石炭と混合することで二酸化炭素の排出量を削減できます。そこで、地元の中国電力株式会社では、電力供給源の燃料としてアンモニアが注目され、アンモニアと石炭を混焼する研究開発が取り組まれました。 現時点では石炭燃焼がまだ一般的ですが、将来的にはアンモニアが持続的な燃料源として実用化する可能性があります。

また、水を使った新しい水素合成法の研究を進めています。これは今後、非常に重要な技術になってくると思います。また、日本には埋蔵する化石燃料がなく、燃料を輸入に頼っていますから、エネルギーの貯蔵と両輪で、エネルギーの輸送技術の開発も進める必要があります。

先生がこの分野に携わるようになった経緯を教えてください。

若い頃から研究者になりたいと思っていました。当時は、何か新しい物質を創造したいと思っており、大学では高分子化学を研究しました。現在では、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレンテレフタレート(PET)など、世界中でさまざまな高分子材料が合成されていますが、こうした材料は石油を使い、製造過程で汚染物質が発生するという問題があります。そのため、エネルギーのほうがクリーンで 研究対象として面白いのでは、と思うようになりました。

日本はさまざまな物資を輸入し、それを原材料として国内で加工した製品を輸出しています。そのため、他の国とはちがった新しいものを考案し、国内で加工する技術を開発する必要があります。私たちが取り組んでいるエネルギー貯蔵は、そうした技術として有望だと思っています。

研究に携わって良かったと思うことは何でしょうか?

世界中のいろいろな場所を訪れ、面白い人たちとたくさん出会えたことですね。また、アンモニアが水素キャリアとして適していることを、苦労もありましたが納得してもらいました。

研究の難しい点は何でしょうか?

研究は常に困難の連続です。和を尊ぶ日本特有の文化が壁になることもあります。 新しい研究を行う場合、保守的な考えを持つ人たちはその和を壊すことをためらうため、研究に時間がかかることがあります。

研究で誇りに思うことは?

これまで長い間研究を続けてきて、多くのことを学び、幅広い分野の知識を得てきました。出版した論文は200本以上にのぼり、そのいくつかは多くの論文に引用されています。また、140件以上の特許出願をしていることも誇りに思います。

先生がご自身の分野で今注目されているトピックは何でしょうか?

私は現在、水と熱から水素を作る方法を考えています。通常、1000℃くらいの高温で水を分解して水素を生成しますが、1000℃まで上げる必要はなく、500℃くらいでも可能だと考えています。温度が低いほど水は扱いやすくなります。日本は水が豊富なので、その利点も生かせるのではないでしょうか。 *

アンモニアを水素の貯蔵に利用するのも、非常に面白いアイデアです。しかし、大量のアンモニアは有毒で危険性があるという問題があります。そこで現在、高い安全性を有するアンモニア貯蔵物質を検討中です。

広島大学での研究生活はいかがでしょうか?

広島大学で13年間仕事をしてきましたが、素晴らしい同僚、研究グループに恵まれてきました。東京からは遠いですが、それが研究に専念する上では長所となっています。

東京に近いと研究以外で時間をとられることが多くなり、広島大学でのように研究に専念することができなかったと思います。

サウジアラビアで仕事をされたことがあるそうですが?

紅海の近くのジッダにあるキング・アブドゥルアズィーズ大学と共同研究を行いました。化石燃料の埋蔵量が多い土地で、日本のように燃料確保を心配する必要はありません。

今の若い研究者や大学院生にアドバイスはありますか?

今の若い研究者はたくさんの論文を発表しなければならず、そのために革新的なアイデアを産み出すのが難しく、考え方が保守的になる可能性があります。大きな、新しい発見ではなく、論文を出すために小さな点の改良に注意が向いてしまっています。もっと心を開いて、新しいアイデアに積極的になるべきですね。基礎研究から応用研究へと、継続的に学ぶことが大切です。

勤務時間外は、どのように時間を過ごされていますか?

すぐ帰宅することが多いですが、メールをチェックするなど、仕事を続けることもあります。時間があると新しい研究テーマを考えますね。自分の研究に関係のない分野について学ぶのも好きです。 あとは、旅行先での写真撮影が趣味です。

* インタビューした日の湿度は71%でした。空気中に沢山の水がありますね!

この記事のオリジナルは、2019年7月24日に広島大学サイエンスコミュニケーションフェローのEmma Buchetによる英語インタビュー記事です。

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